隙ありっ Short Stories

□隙ありっif
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  赤井秀一&Beretta

  オチは隙ありっと同じく赤井秀一なのになぜか夢主が組織側に留まっていたら…というif。
  設定の関係から夢主は前世の記憶はなしということで!


『キール』

「?」

『気を付けた方が良いわよ…ジン、貴方を疑ってる。』



 そう声をかけて コツ、とバイクを中指の第二関節で叩く。
 それを見たキールは「馬鹿ね」と小さく笑みを浮かべて答えた。
 が、私の隣にやってきた人物…ベルモットも「そうだといいけど。」と薄く笑みを張り付け、じっと私と同じくキールを見つめる。



「ま、もしそうだとしても白状するわけないわよねぇ。」

『頼むわよキール…私、貴方は殺したくないから。』

「心配は無用よ。そもそも “NOC” じゃないから。」



 NOC(ノック)、Non Official Cover(ノンオフィシャルカバー)…民間人を装って他国へ潜入し活動しているCIAなどの非公式の秘密諜報員を指す言葉。
 こんな風に組織内で疑われたことは初めてではない。
 キールというコードネームを持つCIA諜報員本堂瑛海は、同じく組織内でコードネームを持つベレッタ、そしてベルモットからの追及に表情を変えずバイクのヘルメットをかぶった。



「――ベレッタ」

『?』

「早く乗れ。お前のバイクはねェだろ。」

『あら、今日はベルモットがバイクなの?』



 そう小首をかしげながら、組織の幹部の1人であるジンの愛車であるポルシェへと歩いていく女…ベレッタ。
 この組織に潜入する際に、嫌というほどに聞いたコードネームだった。
 というのも、すでに潜入していたCIA諜報員が口を揃えていうからだ…あの女は危険だ。目を付けられるな。
 目をつけられれば最後…一瞬で終わりだ、と。



《瑛海…、ベレッタには気を付けろ…。目を、つけられるな…!》

「(…父さん…)」



 組織に育てられた生粋の殺し屋。
 組織の命令に従って日本警察に潜入していた過去を持ち、ジンの愛銃と同じコードネームを持つ女。
 


「キール」

「!」



 行くわよ、とベルモットの声が掛かり、小さく頷いてバイクにまたがる。
 目をつけられてはいけない。…絶対に。


























「――キールはどうした」

『さあ。ま、毛利小五郎を射殺してから探せばいいわ。』



 ベレッタこと黒凪の言葉に「まあいい…」と呟くように言ってから、前方に見える毛利小五郎事務所。その中にいる毛利小五郎に目を移す。
 今回は全く別の任務を遂行予定だったか…良い誤算だ。
 以前シェリーが仕掛けてきた盗聴器によく似た盗聴器を発見し…状況から、仕掛けた人間がこいつ、毛利小五郎だと特定できたんだからな…。



「…聞こえるか、毛利小五郎。お前に聞きたい事がある。…俺達を裏切った女…シェリーについてだ…。」

『(もし本当にこの男…毛利小五郎が志保を匿っているとしたら、志保はこの男が私よりも信用できると思ったということ?)』



 私とともに組織に留まるよりも安全だと、そう思ったということ?



『…コルン、私が撃っていい?』

「さっさと吐いた方が身のためだ…。苦しんであの世に行きたくなければな…。」



 コルンからライフルを受け取った黒凪が銃を構える横でカウントダウンを始める。
 と、



『――…。』



 黒凪がライフルを下ろし、体勢を起こして徐に周辺を見渡し始めた。
 その様子に目を細める。なんだ? 何かあるのか…?



「ベレッタ?」



 ベルモットも怪訝に黒凪を見つめ、同じようにして周辺へと目を走らせる。
 黒凪の勘は当たる。何か思うところがあるらしいな。



「なんだベレッタ。言え。」

『…妹が頼るような男が、これほど簡単に背中を取られている今の状況が…”気持ち悪い”。このままカウントを待たずに撃てば確実に殺せるのよ? その程度の男をあの子が信頼するとは思えない…。(このあたりで我々の背中を捉えられる場所は、)』



 ピタ、と黒凪が動きを止め、700ヤードは離れているだろうか。
 背の高いビルへと目を向け、目を細めた。
 一方まさにそのビルの上から彼らを狙っていたFBI捜査官、赤井秀一はその様子に微かに目を見開き、そして薄く笑みを浮かべた。



「気付いているのか? 黒凪…」


「――ベレッタ…?」

「え⁉ 今なんて、コナン君⁉」



 ものすごい勢いで毛利探偵事務所へと向かう車内。
 江戸川コナンが呟いたそのコードネームに、同車しているFBI捜査官ジョディ・スターリングが勢いよく振り返り、問いかけた。



「ジンが、ベレッタって…」

「…嘘…」



 そう言って顔色を一変させるジョディ・スターリング。
 そして驚いた様子で「本当だよ、」と答えた江戸川コナンから視線を逸らし、誰に言うでもなく「シュウ、」と呟いたのもまた、ジョディ・スターリングだった。


 
『――…ジン、盗聴器から口を離して。』

「あ?」



 図らずも黒凪の言う通り盗聴器から口を離したタイミングで、一発の弾丸が盗聴器を打ち抜いた。
 途端に全員が目を見開き、ウォッカとキャンティが狼狽える中でジン、ベルモットそしてコルンが冷静に黒凪と同じ方角に建つビルへと目を向ける。



「狙撃されてる。」

「700ヤードは離れてるわよ…。」



 コルンとベルモットがそう呟き、ライフルを構えてビルへと目を向ける黒凪。
 彼女に続いてキャンティからライフルを奪ったジンもまた、同じくビルへと目を向けた。



『(…やっぱり。)』

「…赤井、秀一…」



 ジンの言葉に目を見開いたベルモットが徐に黒凪の腕を掴み、ぐいとジンの前に出した。



『ちょっと、』

「ベレッタ、あんたでもこのロングレンジかつ見上げる体勢での狙撃は無理よ。」

『かといって私を盾にしてもそれほど意味は――』



 パリン、とガラスが割れる音がした。
 振り返ると正確にスコープを打ち抜いてきたのだろうか、ジンの目の下に傷が出来ている。
 まずはライフルを取りに来た。次は――頭。



「ほう。彼女を盾にするとは――せこい真似をする。」



 ゆっくりと標準をジンの頭へと移動させていく。
 胴体が狙えないなら、頭だ。



「…!」



 スコープの先で黒凪がジンの身体を引き寄せしゃがませた様を見て舌を打つ。
 こちらの狙いは筒抜けか。



『――勝ち目はないわ。ジン、撤退を。』

「チッ…」


 
 ジンの舌打ちが合図となり、全員でビルの中へと移動していく。
 その様子をじっとスコープ越しに見つめている赤井秀一は、自分以外の全員がビルに入ったことを確認してから消えた黒凪を見て目を細め、息を吐いてライフルを下ろした。
























『はあ、あんな風に一方的にしてやられるなんて屈辱的ね。』

「…。」



 そんなベレッタの言葉に何も返さず助手席に乗ったジン。
 ベレッタとともに後部座席に乗り込んだベルモットはそんなジンの背中を静かに見つめつつも、隣のベレッタへと目を向けた。



「それでもよかったじゃない? あんたの妹を匿っているのがFBI…赤井秀一だと分かって…。」

『…まあ、ね。』

「これでついにあんたと赤井秀一が殺し合う理由が出来た。違う?」

「そうだとしたら、勝負にもならねェよ…」



 煙草に火をつけて言ったジンに目を向ければ、ジンはバックミラー越しにベレッタを見てニヒルな笑みを浮かべた。



「あの男はテメェを撃てねェ。なあ? ベレッタ…」

『…。そうね。』

「あの赤井秀一が撃てないって…?」

「惚れてんだろうよ。」



 ジンの言葉に黒凪がすうっと目を細め、不機嫌にジンを睨んだ。
 


『昔の話をさも現在進行形かのように話すのはやめてくれるかしら。』

「はっ、有名だぜ? あの男がスパイだと身バレする直前…お前を無理にでもFBIに連れて行こうと罠に嵌めようとしたことは…」

『…。』

「まあお前は、その罠を振り切って俺のところへ戻り…逆にあの男の正体を白日の下に晒したがな。」



 皮肉だなァ、ベレッタ。
 妹のためにとあの男を振り切ったお前が、逆にあの男に妹を奪われ奴と対峙することになるとは…。



『…そうね、皮肉ね…。だからこの決着は私がつける。邪魔はしないでね、ジン…』



 赤井秀一も、志保も…私が殺す。
 私を、組織を裏切った人間は何人たりとも許しはしない。
 ジンが笑みを浮かべ、煙草の煙を吐く。
 それを見てベレッタも目を伏せ――1人、かつて赤井秀一と交わした会話を思い返していた。



《ベレッタ。》

《うん?》

《唐突な話だが…もしも俺が裏切ったらどうする?》

《…ライ、分かり切ってることでしょう。…貴方を殺すしかないわ。》



 殺すしか。
 抑揚のない、切なげな彼女の声が、言葉が…今も忘れられずにいる。



「――シュウ?」



 そんなジョディの声に振り返り、そしてその足元に立つ少年を見て…小さく笑みを浮かべた。



 それでも君を愛すと。


 (貴方はどうするの?)
 (ん?)
 (もしも本当に貴方が組織を裏切って…私が貴方を殺すように命令されたら。)
 (逃げる。)
 (は?)
 (全力で逃げる。だろうな。)
 (…貴方らしくないわね。)

 (お前を傷つけるなんて芸当は――たとえ仕事だとしてもできなさそうなんでな。)
 (…馬鹿な人。)


 
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