隙ありっ Short Stories

□隙ありっif
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  お年頃のお姫様

  探偵連載番外編if。
  夢主と赤井秀一の娘が登場。
  娘の名前は某映画から取って"マチルダ"。



 パパくさーい。
 なんでパパとおなじせんたくきでマチルダのおふくあらうの!
 きょうからママとねる!パパはいや!
 …なんて事を言い始めたのはいつだった事やら。



「マチルダ、今日はパパと寝よう」

「やーだー!ママかえってくるのまつのー!」

「ママは今仕事中だ。マチルダが寝ていないとママが悲しむぞ?」

「…じゃあひとりでねる!」



 まだ暗闇が怖い癖に何を…。
 そんな赤井の言葉など無視をして寝室に意気揚々と向かう我が娘。
 もうあの子が生まれて5年になる。
 髪の色は母親譲りの赤みがかった茶髪、髪質は可哀相だが俺に似て癖毛になってしまった。
 歩く度にぴょこぴょこ撥ねるうねうねの髪はとても可愛らしい。



「…こわくないもん…。パパがいなくたってねれるもん…」

「分かった。それじゃあパパは他の場所で寝るよ」

「……うぅ」



 微かに聞こえたうめき声に気付かぬふりをして廊下を曲がり、その場で足を止める。
 そうして我が娘の姿を覗き見れば彼女は小さな足で背伸びをして寝室の扉を開きそーっと中を覗き込んでいた。
 マチルダは暫し真っ暗な寝室を見ているとまるでゾンビ映画で敵に見つからぬ様にと足音を殺して歩くヒロインの如く警戒心MAXで中に入って行く。
 赤井も負けじと気配を絶って寝室に近付きせめて光を入れようと開けられたままの扉から中を覗き込んだ。



「だいじょぶだいじょぶ…」

「……。マチルダ、扉はちゃんと閉めるんだぞー」

「う!?」



 扉の側で声を小さくしてそう言えばびくっと固まってマチルダが暫し考える様に沈黙する。
 そして彼女は何事も無かったかの様にベットに入ると口を開いた。



「しめたよー」

「…くく、」



 見え透いた嘘を付く我が娘に笑みが零れる。
 笑い声をどうにか抑え込み、赤井が返答する様に口を開いた。
 ――よし、マチルダが扉を閉めたのなら廊下の電気を消しても良いだろう。
 わざとらしく呟く様に言った赤井にマチルダが焦った様に飛び起きる。



「ぱ、パパがころんだらあぶないからつけてていいよ!」



 また笑みが零れかけた。
 …全く、俺と黒凪の間にどうしてこうも可愛い娘が生まれたのか。
 てっきり俺の様に無愛想な子か黒凪の様に妙に落ち着いた雰囲気を出す子が生まれると思っていたのに。



『ただいまー』

「ママ!?」

『あれ?可笑しいなあ、マチルダはもう寝てる筈なんだけどなぁー。どうして声が聞こえるのかな?』

「勿論マチルダは寝てるさ。今日は1人で、しかも扉を閉めて眠っているらしい」



 わざとらしくそう会話をする赤井と黒凪に飛び出しかけたマチルダが動きを止める。
 実は黒凪は赤井から先程から連絡を受けており、現在の娘の状況を知っていた。
 …面白半分に夫が娘をからかっている事も聞いている。



『あら!1人で、しかも扉まで閉めて寝てるの!』

「あぁ。なんなら確認しに行ってみるか?」

「(かくにん…!)」

『確認しに行きましょう!』



 慌てて扉に近付いて行くマチルダ。
 しかしやはり暗闇は怖く、扉を閉める事に躊躇してしまう。
 はやくしめなきゃママがきちゃう…!でもまっくらこわい!
 でもママがっかりしちゃうし、
 ぐっと目を瞑り扉を閉める。すると静寂と共に暗闇がマチルダを飲み込み瞬く間に彼女の大きな両目に涙が浮かんだ。



「…なにもみえない…。おふとんどこ…?」



 自分の声以外に何も聞こえてこない。
 涙が床に落ちた。
 ママ、と呼んでみる。反応が無い。
 …パパと呼んでみた。
 すると待ってましたと言わんばかりに開かれた扉。
 そこから溢れた光に目を細め、自分を抱き上げた温かい腕に顔を上げる。



「やぁお姫様。呼んだかな?」

「パパー!」

『あらあら、パパはマチルダを助けてくれたのね。まるで王子様だわ』

「パパおーじさまなの!?」



 ばっと顔を上げてマチルダが言う。 
 最近は母親の言う事を全て真に受けるものだから困る。…可愛らしいが。
 そうよ、マチルダのパパは王子様なのよ〜。
 笑いながら言った黒凪にマチルダが目をキラキラさせた。



「それじゃあおひめさまは!?」

「何言ってるんだ、パパのお姫様はマチルダだろう?」

「じゃあママはおうじょさま?」

「はは、そうなるな。」



 じゃあパパはおうさまだよ!
 それじゃあマチルダの王子様が居なくなるじゃないか。
 笑いながら言った赤井だったが、次の瞬間に我が娘から飛び出た言葉にピシリと固まった。



「マチルダのおうじさまはね、ジョンだよ!」

「…ジョン?」

「そうだよ!ジョン!」

「……。黒凪、マチルダを頼む」



 渡されたマチルダを受け取り携帯を取り出した赤井に近付いて携帯を覗き込む。
 携帯の画面には"Jodie"と同僚の名前が映っていた。
 携帯を耳に押し当てて相手が通話に出るのを待っていると間もなくして目当ての人物が通話に出る。



≪シュウ?どうかした?≫

「確かお前の所の息子、ジョンだったな。」

≪ええ。つい最近貴方の所のマチルダちゃんと遊んでたじゃない。≫

「…マチルダがジョンの事を王子様だと言ってたぞどういう事だ」



 あら!うちのジョンが好きなのかしら〜?
 嬉しそうに言ったジョディに「一体何があった」と真剣な声色で問い掛ける赤井。
 その様子を不思議なものを見る様に見ている我が娘に黒凪が困った様に眉を下げ、娘を抱いたままで寝室に向かった。



『それじゃあマチルダはママと一緒に寝ましょうね。パパは臭くて嫌なんでしょう?』

「うん!パパくさい!」

≪…あら、マチルダちゃんに嫌われたからってやつあたり?≫



 微かにマチルダの声が聞こえたのだろう、笑い交じりに言ったジョディに「そんなわけがないだろう」と赤井が返答を返す。
 そんな赤井に「もう、親バカになるのも大概にね。…えーと、確か日本でそう言う事をなんて言うんだったかしら?」そう言ったジョディに赤井が片眉を上げた。



「日本語でなんて言ったか…?」

≪うーん、確かこぼ…、…んー…≫

「黒凪、俺みたいなのを日本ではなんて言うか分かるか?」



 ジョディの悩み様に赤井も何と言うか気になったのだろう、己の妻に突拍子も無くそう問いかけた。
 寝室に入ろうとしていた黒凪は振り返り赤井を見る。
 親バカ?問いかける様に言った黒凪に赤井が首を横に振り、ジョディが考えている様子に耳を澄ませた。



≪こぼ…、…こ、…うーん≫

「こぼ、何とかだと言ってるんだが」

『こぼ?…あぁ、子煩悩?』

「子煩悩か?ジョディ」



 あぁ、それよそれ!子煩悩!
 確か自分の子供をこれでもかってぐらいに大切にする人の事を言うんだったわ。
 嬉しげに言ったジョディに赤井が眉を下げる。




 王子様はジョン君


 (……。)
 (ちょっとシュウ。あんまりうちの子をじろじろ見ないでくれるかしら。)
 (…Hey,John.)
 (Hey!)
 (…ふむ…)
 (…ちょっと。)


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