隙ありっ Short Stories

□隙ありっif
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  未来予想図

  第七回アンケートの際に制作。
  某ドラマ風のルーレットをしたお話。



「えーっと、司会は江戸川コナンと…」

「灰原哀です。」



 よろしくお願いします。
 そう言ってぺこっと頭を下げた2人に部屋の真ん中に居る赤井と黒凪が拍手した。
 一応の観客として呼んでいる安室や蘭達も笑顔で拍手している。



「ではこれより"組織を潰した後はどうなる?"ルーレットを始めます。」

「回るルーレットに様々な未来が書かれているので置いてあるダーツで選んでいってください。」

「ダーツで選んだ未来を推定して管理人…ゴホッ。…が2人の未来を予想して書き進めていきます。」



 あまり大きな声で言えない事を言っている様だな。
 呆れた様に言った赤井に「そうねぇ」と黒凪が灰原を見たまま言った。
 そんな2人を鋭い眼光で射抜いているのは安室だ。
 赤井は突き刺さる視線を無視しながら回り始めたルーレットに目を向ける。



『どっちから打つ?』

「…じゃあ俺からやろうか」



 回るルーレットにダーツを構える。
 中々撃とうとしない赤井。
 そんな赤井に眉を下げて黒凪が背中を叩いた。



『狙撃じゃないんだから、気楽にやりましょ』

「…そうだな。分かった」



 そう言ってからは早かった。
 特に何を狙うでもなく放たれたダーツはドスッと突き刺さりルーレットが止まる。
 ダーツの刺さった部分をコナンが読み上げた。



「…"沖矢昴と神崎遥のままで生きていく。"」

『あら。』

「…嫌なのを引いたな」

「てか聞いちゃいけない人がいるよね?大丈夫なの?」



 天井を見上げて言ったコナン。
 しかし不思議と観客席にいる安室達は何も言わない。
 蘭達も当たり前の事の様に傍観していた。
 …うん、どうやら大丈夫らしい。





















「おーいセンセー。」

『…黒羽君?』

「久しぶり。…なんか色々終わってから何にも変わってないんだな。」

『まあね。結局私も彼も正体は隠したままだし…』



 戻ればいいのにさ。元に。
 そう言った快斗に眉を下げて首を横に振る。
 急に神崎遥と言う存在が忽然と消えるのもね。
 困った様に言った彼女に「確かにな…」と快斗が眉を下げた。



「――…遥!」

『あ!昴だ!』

「…こっから先もそっちで生きていくつもりかよ。」



 神崎遥のまま、…元には戻らずに。
 そう言った快斗にニコッど遥の゙笑顔が向けられる。
 こっちはこっちで楽しーの。
 そうとだけ言って背を向けた神崎遥の背中を見送った。



『昴ー。』

「生徒さんに会っていたのかい?」

『うん。…戻らなくて良いのかって言われた。』

「……。」



 黒凪の言葉を聞いた沖矢も困った様に眉を下げた。
 とは言っても沖矢昴と神崎遥が得たものは随分と大きい。
 黒羽快斗は少し変わったパターンだが、長野県警の人達や世良。
 他にも羽田や、…蘭や小五郎、少年探偵団。
 沢山の人と関わって来たこの2人の存在を消す事は難しく、そして寂しい。



「結局僕達はどちらかを選ばなければならなかった。…だったら死んでいる方を捨てた方が楽だった」

『…うん』

「そう話し合っただろ?」

『…そだね』



 これからは本当の自分を捨てて生きていく。
 道を違えない為に作り上げた2人で。
 …永遠に。

















「…はい。こんな感じみたいです。」

『ちょっと悲しい感じね…。』

「本当の姿で外に出たいと散々言っているんだ、この結末はあり得ない」

『貴方が引いたんでしょ。』



 良いのが出ると良いけど。
 呟く様に言ってダーツを放った。
 ドスッとルーレットに突き刺さる。
 止まったルーレットが示していたのは。



「…"衝撃の安室さんとのハッピーエンド"」

「あぁ、僕の出番ですか」

「却下だ。」

『とは言っても管理人が…』



 黒凪を己の背に隠す赤井。
 その前に出てきた安室が立った。
 睨んでくる安室を睨み返す赤井。
 一触即発の雰囲気の中でコナンと灰原が困った様に顔を見合わせた。




















「…まさか赤井が組織との対決の末に殉職するとは。」

『………。』



 チラリと助手席に座る黒凪を見る。
 彼女はぼうっとした様子で俯いて座っていた。
 その頬には涙の跡が残っている。



「…黒凪さん」

『……』



 安室の声だけが響く。
 赤井が死んで1ヶ月は経つだろうか。
 黒凪は組織に関わった人間を見ると決まって涙を流していた。
 時間が経っても彼女の心の溝を埋める何かは現れない。
 …いつまで経っても彼女は1人のまま。



「黒凪さん」

『…?』



 何も言わず彼女の目が安室に向いた。
 涙で潤んだ瞳が安室を映している。
 安室はその瞳を見返すとゆっくりと口を開いた。



「僕にしませんか」

『…何、言ってるの』

「不謹慎なのは分かっています。…でもこれ以上そんな貴方を見ていたくない」

『……貴方ならどうにかなるの』



 今の私の状況が。
 涙声で言った彼女に「分かりません」と返す。
 彼女の瞳が少し揺れた。



「でも貴方が僕の事を、…少しでも思ってくれるのなら」

『……』

「…。僕は貴方を嫌ったりしない。貴方を置いて消えもしない。」



 絶対に。
 自信を持って放たれた言葉に黒凪が目を伏せる。
 ずっと好きなんです。
 ずっと護りたいと思っていた。ずっと、隣に立ちたいと。



「代わりでも構いません。…誰かを側に必要とするなら僕にしてください」

『…零君』

却下だ。



 赤井の声が響き映像がストップする。
 チッと安室の露骨な舌打ちが響いた。
 黒凪は黒凪で少し目をうるうるさせている。
 恐らく赤井が死んだ場合の結末を見て感極まったのだろう。



「だったらさっさと次を選んでください。…また僕と黒凪さんのエンディングでも構いませんがね」



 ドスッと些か乱暴にルーレットに突き刺さるダーツ。
 止まったルーレットの文字に安室が舌を打ち蘭が頬を少し染めた。
 コナンの目が灰原に向く。
 灰原が少し眉を寄せて文字を読み上げた。



「"結婚"」

『1番理想に近いんじゃないかしら』

「そうだな」
























「…おめでとう、お姉ちゃん。」



 綺麗なドレスを纏った志保の姿に黒凪がとても嬉しそうに笑った。
 その隣には黒いタキシードを着た赤井が座っている。
 志保は徐に赤井に目を向けると小さく微笑んだ。



「…おめでとう。」

「あぁ。ありがとう」

「赤井さん、黒凪さん」

『あら新一君。』



 おめでとうございます。
 そう言って頭を下げた彼の隣には蘭が立っている。
 彼女は黒凪のドレス姿を見て目を輝かせていた。



「…早く彼女を幸せにするんだぞ、新一君」

「え゙、あ、…ハイ」

『ちょっと、蘭ちゃんが照れちゃうじゃない』

「だ、大丈夫です!…もう慣れてるので…」



 ほぉ、と笑った赤井に顔を見わせて頬を染める新一と蘭。
 おーい、と目の前にいる新一と瓜二つの声。
 其方に目を向けると顔も瓜二つの黒羽快斗が顔を見せた。



「よっ、おめでと!」

『わ、』

「ほう」

「ちぇ、全然驚かねーな。」



 バサッと現れた花束を黒凪に渡す。
 次は赤井に、と広げた快斗の手を遮ったのは安室。
 安室は黒凪の花束から1本だけ花を抜き取ると赤井の手の甲にぺしっと当てた。



「お前には1つで十分だ。」

『零君!』

「おめでとう黒凪さん。…相変わらずお綺麗ですね」

「おいおい、君が来るなんて聞いていないが…」



 僕ば黒凪さんだけを゙祝いに来たんですよ。
 花を受け取った赤井は眉を下げて微笑んだ。
 安室君、と赤井が声を掛けると少し振り返る。



「ありがとう。」

「…ふん。貴方に礼を言われる筋合いはありません」



 これからもよろしく頼む。
 安室の言葉を気にせぬ様子で言った赤井に微かに安室の額に青筋が浮かんだ。
 しかし表情を元に戻した安室がケッと顔を背けボソッと呟く。



「ま、これからは少しぐらいなら協力してあげますよ」



 その言葉に頷く赤井。
 安室は最後に黒凪の元へカクテルを置いて去って行った。
 そのカクテルを持ち上げた黒凪は自分の好きなマティーニだと知ると小さく微笑む。























「…何よこれ。2回連続であの男がオチじゃない」

「(安室さんも良い仕事すんなぁ…)」



 ドスッと再び音が鳴り響く。
 止まったルーレットの文字に黒凪と赤井が同時に顔を歪めた。



「…あ。」

「…"別居"だ」

『えー…、嫌だわ…』

「同意見だ。却下しよう」



 はい次。
 そう言う様にすぐさまダーツを放った赤井。
 天井を見上げつつルーレットの文字に目を向けたコナンと灰原。
 2人はその文字に小さく微笑んだ。



「"子だくさん"」

『あら良いじゃない』

「今日は俺の方が引きが良いらしいな」
























 うわぁああ!
 そう泣き叫ぶ声、そんな声を上げる息子を抱き上げる赤井の背後ではびえー!と娘が泣き出した。
 おいおい、と困った様に振り返る赤井の服の袖を引っ張るのは幼い2人とは少し歳の離れた長男。



「父さん、母さんは?」

「母さんか?台所だと思うが…」

「寝癖が治らなくてさ。」

「今は皆の朝食で忙しいんだ、出来る限りの事は自分でやれよ」



 うん。そう言ってそそくさと黒凪の元へ向かう長男。
 ため息を吐いた赤井は息子の背を叩きながら娘の前にしゃがみ込む。
 忙しなく料理を運ぶ黒凪の背後を長男が付いて回っていた。



『自分で寝癖ぐらいは直しなさい。お父さんも忙しいから。』

「えー…」

『あなた、そっちは大丈夫?』

「あぁ。どうにかする」



 ほら泣き止んで。
 そう言いながら我が子をあやす赤井に小さく微笑んだ。
 パパー!と走り去って行く少女。
 彼女は2番目に生まれた長女だ。くりくりのくせっ毛を2つに括り走り回っている。
 その手に握られているのはおもちゃの拳銃で、それを見た赤井が眉を下げて笑った。



「てをあげろー!」

「はいはい。」

『こーら。お父さんは撃っちゃダメ。』

「いやー!パパうつのー!」



 パパわるいやつ!
 向けられた銃口に「ははは」と困った様に赤井が笑った。
 黒凪はチラリとその拳銃が玩具である事を確認する。
 思わず本物でないかを確認してしまう所などは昔の癖だ。



『ほらご飯よー』

「ななひゃくやーどもかんたんだー!」

「何処で覚えたんだそんな言葉…」



 ぱんぱんとおもちゃの拳銃を発砲しまくる我が娘に赤井と黒凪で顔を見合わせて笑う。
 これじゃどっちに似たのか分からない。
 でも700ヤードを簡単だなんて言うならお父さん似かしら。
 黒凪の言葉に長女がうー?と2人を見上げる。

















『…可愛いわね…』

「あぁ。俺に似て全員がくせっ毛なのが少し可哀相だが…」

『あら、お茶目で可愛いじゃない?』



 可愛い…と呟く灰原にコナンが小さく笑った。
 安室も片眉を上げてため息を吐いている。
 言葉には出さないが彼も多少なりとも可愛いと思っているのだろう。




 幸せなエンディングを。


 (ではこれでルーレットは終了です。お疲れ様でした。)
 (最後は良い仕事をしたんじゃないか?)
 (職人みたいな言い方ね)


 
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