隙ありっ Short Stories

□隙ありっif
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  分裂大騒動

  web拍手の為に作成した探偵連載if。
  赤井秀一と沖矢昴が何故か分裂するお話。



『(さて、そろそろ朝食も出来たし秀一を…)』

「あ、おはようございます。黒凪さん」

『…あら? 起きたの?』

「ええ。…あぁ、朝食を作って下さったんですね」



 僕も手伝えば良かったなぁ。
 ははは、と爽やかに笑う彼の違和感に首を傾げた。
 運びますよ。と皿に手を伸ばす沖矢をじっと見上げる。



『…今日は朝から出かけるの?変装まで済ませて…』

「?…いいえ、特に用事は…」

『じゃあどうして変装を…。』

「…変装?」



 素っ頓狂な沖矢の声に黒凪が眉を寄せる。
 …秀一?そんな彼女の言葉に「えー…と、」と歯切れが悪い返事を返して寝室に目を向ける沖矢。
 黒凪は皿を持つ沖矢の左手に手を添えた。



『…秀一、よね?』

「…えっと、」

『…。ちょっと、変な冗談はやめてよしゅう、いち…』



 カチャ、と響いた機械音。
 目を見開いた黒凪がゆっくりと振り返る。
 リビングの入り口に立っているのは赤井。
 彼の手に握られているのは拳銃。
 一瞬で状況を察知した黒凪も沖矢から手を離し食器棚に隠してある拳銃に手を伸ばした。



「ちょ、ちょっと、」

「…手を上げろ。」

『貴方は誰。』



 鋭い黒凪と赤井の視線に困った様に眉を下げて沖矢が持っていた料理を置いた。
 そしてゆっくりとあげられた両手に赤井が沖矢に静かに近付いて行く。
 組織の人間か?眉を寄せて言った赤井に沖矢が困った様に彼に目を向けた。



「分かっている筈ですよ」

「…何?」

「とぼけないでください。覚えている筈です」



 内容の読めない会話に眉を寄せる。
 沖矢の言葉だけがしんと静まった部屋に響いていた。
 本当に覚えていないんですか?
 彼の言葉に「何の事だ」と眉を寄せたまま赤井が言った。
 その表情を見て黒凪も微かに眉を寄せる。



「僕等が分裂した事ですよ」

「!」

『…秀一、覚えがあるの?』



 黒凪の言葉に沖矢を睨んだまま黙る赤井。
 赤井の表情から察するに完全に覚えがない事は無いのだろう。
 それを理解した黒凪は静かに拳銃を降ろした。
 その様子を見て赤井が「おい、」と咎める様に言うが彼女は拳銃を元の位置に戻してしまう。



『覚えがあるのなら貴方も拳銃を降ろしなさいよ』

「何言ってる、そんな非現実的な…」

『体が縮んだり元に戻ったりするのよ。分裂したとしても、多分不思議はない。』

「……。」



 それにこれ以上昴に拳銃を向けるのは嫌なの。
 目を伏せて言った黒凪に沖矢が眉を下げる。
 その表情を見た赤井も拳銃を降ろし後ろのポケットに仕舞った。



『とりあえず元に戻るまで様子を見ましょう。貴方の分も朝食をよそうわ』

「…あぁ」

「そんなに警戒しないでください。」



 貴方と僕が彼女に抱く感情は全く同じですよ。
 沖矢の言葉に赤井が眉を寄せる。
 僕だって彼女を護りたい。…危険に晒す事はありません。
 あの人は僕にとって命よりも大事な人ですから。
 にっこりと笑って言った沖矢に赤井がため息を吐いた。



「…俺はこんなにキザな性格を演じていたか?」

『何言ってるの。昴の時はいつもこんな感じよ。』

「……はぁ…」

『何飲む?珈琲?』



 珈琲。ブラックで。
 そんな言葉が重なった。
 その様子にくす、と笑うと不機嫌な顔で赤井が席に着く。



「…あの、僕の席なんですが」

「…。今日は隣で我慢してくれ」

「黒凪さんの隣ですか?」

「…俺の隣だ。」



 …あら可愛い。
 黒凪の言葉に眉を下げる沖矢と眉を寄せる赤井。
 彼女の前に並んで座っている2人を見るのは変な気分だ。



『…ふふ、食べる順番も全く同じなのね』

「……。」

「本当ですね。…同じ人間が分裂するとこうなるとは」



 興味深い状況です。
 薄く笑みを浮かべて言った沖矢に黒凪もニコニコと微笑んでいる。



『ご飯のおかわりは?』

「「是非。/あぁ。」」

『…可愛い。』



 また同時に返した2人に黒凪が笑った。
 よほど可笑しいのだろう、彼女は今朝からずっと笑っている。
 その様子を見て微笑む沖矢と赤井。
 そんな2人の様子にまた黒凪が笑った。



『あら、同時に笑うなんて何考えてるの?』

「…別に大した事じゃないさ。」

「ずっと笑っている黒凪さんが可愛らしいので。」

『本当?ありがと。』



 …俺はこんななのか?
 とまた怪訝な目が黒凪に向けられる。
 そんな赤井に目を向けた黒凪は沖矢を見て肩を竦めた。



『昴が隣に居ると貴方の考えが筒抜けね』

「俺は変装中に自分の考えを暴露した覚えはないが」

「そうですか?…変装中は普段よりほんの少し素直なのは確かな筈ですよ」

「…。」




 幸せなエンディングを。


 (これっていつ戻るのかしらね)
 (さあ…明日には戻っているのでは?)
 (戻っている事を願う。)
 (そんなに邪見にしないで下さいよ。僕は貴方なんですから)
 (……。)


 
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