隙ありっ Short Stories

□隙ありっ 番外編
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  あなたの願い

  100000hit企画にて制作。
  ミステリー作家失踪事件より。
  夢主と赤井秀一は共に変装済み。



『………』

「何を読んでるんだ?」

『!…驚いた、起きたの?』

「あぁ」



 朝から本を読んでいた黒凪はいつの間にか背後に立っていた赤井を見上げ、微笑んだ。
 彼は黒凪の隣に座るとチラリと彼女が持つ本の表紙を覗き込む。
 「探偵左文字」と記された拍子に知らないな、と片眉を上げるとぱたんと閉じられた本。
 黒凪は「疲れた…」と呟いて赤井に凭れ掛かった。



『このシリーズね、何年か前に完結しちゃったんだけど最近復活して』

「ほぉ…、随分人気なんだな」

『えぇ。面白いのよ?きっと貴方も気に入るわ』



 本を手渡され、ぱらぱらとページを捲る赤井。
 彼は本の1ページに目を止めるとそのページを覗き込んだ。
 そこには全国の探偵達よ…、と始められた作者からのメッセージがつらつらと書かれていた。
 謎を解いてくれ、と言う言葉で閉じられた文章は赤井の興味を引く事にはそう苦労しなかった様で。



「…少し借りるぞ、この本」

『え?』

「部屋に籠もる」

『嘘、ちょっと…朝食は?』



 昼に食う。
 そう言って部屋に入って行った赤井。
 お昼に食べるんだったら昼食と一緒じゃない…。
 もう、と黒凪はため息を吐きテレビをつけた。
 放っておくわけにもいかないし、かといって邪魔をするわけにもいかない。



『(大人しく待ってあげるしかないわね)』



 丁度昨夜やっていた左文字シリーズのスペシャルドラマを見る。
 そうして時間を潰す事30分。
 扉が開く音を聞いた黒凪はリビングに入って来たであろう赤井を見た。
 赤井は黒凪の隣に座ると黒凪に目を向けず口を開く。



「この本、いつ発売された?」

『…2か月ぐらい前からちょくちょく出てるけれど…』

「……。作者の命が危ないかもしれん」

『…え?』



 確かに作者は登場するけど…。
 と目を点にして言った黒凪にそうじゃない、と目を向ける赤井。
 赤井の表情を見た黒凪は「本当なの?」と眉を寄せる。
 小さく頷いた赤井は先程解いたであろう暗号を教えてくれた。
 ヒントは1/2の頂点と言う本のタイトルと作者である新名任太朗の台詞。
 その台詞の1つ目の暗号には「助けてくれ」と記されていたらしい。



「…此処から先はまだ解けていないが、」

『……珍しいわね。貴方がそんなに時間かけるなんて』

「当たり前だ、俺は謎を解くのが専門じゃないんでな」

『スナイパーだものね。じゃあその作者を監禁している犯人でも狙撃してきたら?』



 ふざけている場合か。と本でぽかっと頭を殴られる。
 冗談って言って頂戴。と少しふくれた黒凪は本を覗き込んだ。
 作者である新名任太朗の台詞は全てフランスでの台詞となっている。
 本は赤井が持っている為、角度がコロコロ変わった。
 黒凪は微かに眉を寄せるとぐっと赤井に近づき、本を覗き込む。



『…この新名さんの台詞が全てフランスなのは気づいているのよね?』

「あぁ」

『どうしてフランスなのかしら。……フランス語って話せるの?』

「一応な」



 何か思い当たる節って無い?
 そう問えば暫し黙り込む赤井。
 その間に彼の手から本を抜き取り、まじまじと内容を読み返す。
 彼の為にとすぐさま新名任太朗の台詞の場所に付箋を付けて行った。
 すると成程、と呟いて赤井がその付箋の部分を開いて行く。



「…解った」

『あら、本当?』

「あぁ。行くぞ」

『何処に?』



 杯戸シティホテル。
 そうとだけ言って変装に取り掛かる赤井。
 黒凪も急いで後を追い、2人して洗面所にて変装の準備を始める。
 2人で並んで変装をすると些か洗面所が狭い。
 邪魔、や退けと言い合いながら変装をし、急いで車に乗り込んだ。
 珍しく急いでいる様子の赤井、基沖矢に目を移した黒凪は窓の外を見る。



『そんなに大変な状況なの?』

「状況がどうと言うより、監禁されているなら早く助け出してやらんとな…」

『確かにそうだけれど。…部屋着で飛びださなきゃならない程?』

「別に構わんだろ。普通の服装だし」



 とはいっても昨日の夜から同じ服を着ているのだ。
 多分鼻が利く人には汗の臭いとか…。
 数秒程黙っていた黒凪は徐に車のグローブボックスを開きファブリーズをシュッシュと振りかけた。
 いつの間に入れたんだ、と言った沖矢に覚えてないわと答えた黒凪。
 数分で杯戸シティホテルに辿りついた2人は急いで中に入り、暗号で解読したホテルの前に着く。



「……遥、僕の後ろに」

『ほい!』



 しゅたっと手を挙げ、沖矢の背後に。
 沖矢はチャイムを鳴らすと体勢を低くした。
 ガチャリと扉を開いて顔を覗かせたのは一人の女性だった。
 年齢は50〜60歳程だろうか。
 予想外の登場に動きを止めた2人。
 女性は数秒程ぽかんとすると「もしかして、」と口を開いた。



「新名任太朗の謎を解いて此方に…?」

「!…えぇ…」

「まあまあ!どうぞこちらへ!」

『え、ちょ、昴!?』



 女性に手を引かれた沖矢はすぐさま反射的に黒凪の手を掴んだ。
 2人は中に入り込み、閉じた扉に振り返る。
 そして恐る恐る中に入り込めば、ベッドの上に寝転んでいた男性がのそりと振り返った。
 彼は2人を見ると嬉しげに笑顔を見せ、眼鏡を外し涙を拭う。



「遂に…、遂に解いてくれたのですな…」

『遂に…?』

「私はずっと待っていたんです、謎を解いてくれるファンを…」

『……ファンを…』



 チラリと沖矢を見上げる。
 沖矢は今朝本を読んだばかりでファンと言うには些かほど遠い。
 が、新名さんが咳をするとぱっと表情を切り替え笑顔で彼に近づいた。
 様子を見れば一発で分かる、新名さんはもう長くない。



「2か月程前に新刊が出た時はとても嬉しかったです」

「おお、そうかそうか」

『あたし達、2人揃って新名さんのファンで…。本当に面白い作品をありがとうございました』

「うむ。……いやあ、嬉しいものですな…。」



 涙ぐむ新名さんに続いてその奥さんや主治医の方まで涙ぐむ始末。
 顔を見合わせた沖矢と黒凪は眉を下げ、笑顔を見せた。
 その後新名さんの病状は悪化、最期もやはりありがとうと言いながら彼はこの世を去った。
 ……そのすぐ後に何故かコナン達が到着したのだが、互いに事情を説明する事はもう少し後になりそうだ。




 光の速さで解決!


 (俺と服部よりも先に解決しちまうなんて…)
 (やっぱり赤井さんはすげぇな、黒凪さん)
 (秀一はFBIの経験でフランス語も話せるから早かっただけよ)

 (…にしてもファンの誰よりも謎を解くのが早かったって)
 (それはそれでどうなんだろう)


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