隙ありっ Short Stories

□隙ありっ 番外編
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  小さな

  探偵連載番外編。
  降谷零と夢主のお話。



「――…事故?」

「あぁ。大学に向かう途中で車に撥ねられやがった」

「(車!?)」

「…とは言ってもそこまで深い傷だった訳じゃねェ。アイツにはそれなりに仕込んでるからな」



 だがまだ意識が戻ってない状態だ。
 煙草の煙を吐きながら無表情に言ったジンに歪みかける表情を必死に抑え込む。
 無表情でジンを見上げていればジンが徐に口を開いた。



「あの女は幹部の中でも少数にしか姿を見せてねぇ。あいつの目が覚めるまで監視していろ」

「…は?俺が監視…?」

「そうだ。生憎俺は任務で1ヶ月程此処を離れる。他の幹部も同じ様なモンだ」

「…。」



 丁度手が空いてるのがテメェだけなんだよ。
 不満げな顔にでも見えたのだろうか、ジンがそう言った。
 煙を吐いて胸元から鍵を取りだし降谷に投げ渡す。
 そうして「任せたぞ」と拒否権が無い事を改めて言い放ち背を向けて歩いて行った。
 ため息を吐いて降谷もジンに背を向け黒凪の部屋へ向かう。





























「…失礼します」



 返事が無い事は承知の上でそう声を掛けて中に入り込む。
 相変わらず重い扉を完全に閉めて内側から鍵を掛けた。
 …やはり牢屋の様だと思いながら眠っている黒凪の側に座る。
 顔を覗き込めば幸いにも顔には傷は見当たらなかった。しかし頭には大きく包帯が巻かれている。



「……。」



 徐に手を伸ばし目に掛かった前髪を退かしてやる。
 変わらず眠ったままの黒凪に一度息を吐いて布団を首元まで引き上げた。
 そこでふとベッドから出ている彼女の片手を見つける。
 布団の中に入れようとその片手を掴めば予想以上の小ささに固まった。



「(…なんだ、思ったよりも小さい…)」



 両手で持ち上げ指を絡めてみる。
 そうしてふにふにと握って見れば男の手よりも華奢で柔らかい感触がした。
 へー…、と珍しいものでも見る様に夢中で触っていると徐に黒凪の手に力が入り握り返される。
 ビクッと固まると彼女の目がゆっくりと開いた。



『…あれ?零君だ…』

「あ、はい…。おはようございます…」

『…あぁ、私気を失ってたのね。それじゃあ零君は私の監視役かしら』

「…あの、」



 大丈夫よ。小さく笑った黒凪に微かに目を見開いた。
 この部屋に盗聴器も監視カメラも無い。
 私が毎日確認してるから。笑って言った彼女に眉を下げた。



「事故だと聞きました。…大丈夫なんですか?」

『大丈夫よ。撥ねられた時にどうにか受け身を取ったから腕のかすり傷と頭のたんこぶくらいで済んだの』

「…そうですか、良かった。」



 困った様に笑って言った降谷に「うん」と微笑んで返答を返す。
 寝転んだままで笑っている彼女はとても綺麗で、思わず見とれかけた自分を無理に動かした。
 目を逸らした降谷に黒凪が笑う。



『私ね、すぐに目を逸らされちゃうの』

「え」

『あ、悲しんでるわけじゃないのよ。…でも大君もこっちをあまり見てくれなくてね』



 零君はよく見てくれるのにね。
 笑って言った黒凪に降谷が微妙な笑みを向ける。
 無意識とはいえ赤井とシンクロした事が嫌だったのだろう、少し機嫌が悪くなった様に見える降谷に黒凪が眉を下げた。



『…大君の事、嫌い?』

「…嫌いですよ。貴方を放って逃げる様な奴は」

『仕方がない事よ。…貴方も危なくなったら迷わず逃げて』



 私は生きている人が好き。
 死んだ人を愛し続けるなんて器用な事は出来ない。
 生きてる貴方が好きよ。
 彼女の言う"好き"があの男に向けられたものとは180度違う事は分かっている。
 それでも喜んでしまう自分が情けない。



「…っ」

『…ね。』

「…はい。」



 目を逸らしたままでそう言えば黒凪が安堵した様に笑った。
 まさか赤井が彼女を放って逃げ出した理由は…、いや、考え過ぎか。
 たとえそうだとしても彼女を危険に遭わせるぐらいなら命を懸けてでも。



「(お前なら出来た筈だろ…赤井…!)」

『また大君の事考えてるでしょう』

「!」

『あの人の選択は正解よ。自分の命は自分で護ってねって私最初に言ったんだもの』



 繋がれたままの手を見下して言った黒凪にはっと目を見開いて視線を降ろす。
 思わず離しかけた手を止め、徐に彼女の手を握る手に力を籠めた。



「僕は赤井じゃない」

『!』

「僕は貴方に嫌われたとしても自分のやりたいようにやります。…貴方を第一に考える」

『……』



 貴方を全力で護ってみせますよ。
 眉を下げて言った降谷に目を見開いて、徐に黒凪も眉を下げた。
 ありがとう。そう言った彼女に降谷が顔を上げる。




 護ってみせる


 (あんなに真っ直ぐな人を愛せないなんて)
 (なんて私は贅沢なんだろう)


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