隙ありっ Short Stories

□隙ありっ 番外編
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  違うのだ

  探偵連載番外編。
  夢主と赤井秀一は変装済み。
  ※神崎遥と上原由衣刑事は瓜二つ。



「…美味しい…!」

『でしょ!?ねーちょっと勘ちゃんも食べてみてくださいよ!』

「勘ちゃんって呼ぶんじゃねえ…!」



 つかコイツはあんまり信用すんなって言っただろ上原ァ…!
 そんな勘ちゃんの声が聞こえてきそう…、と眉を下げた上原は大和に目を向けず再びサンドイッチを口に含む。
 …それにしても美味しい。本当に美味しい。



『此処の店員さんが作るサンドイッチ本当に美味しいんですって!勘ちゃ…大和警部も早く食べて!』

「っせえ、食べりゃいいんだろうが…」

「(…また神崎さんにそっくりな人が…)」



 遠目に自分が作ったサンドイッチで盛り上がる3人を見ながら安室がそう思う。
 そんな彼の視線の先では大和がサンドイッチを頬張り顔のそっくりな2人が大和の反応を今か今かと待っていた。
 どれだけ眺めていても思う、神崎さんと彼女の前に座る女性はそっくりだ。
 …双子でもないのにそんな事があり得るのだから、不思議な世の中だと思う。



『どうですか?美味しいでしょ?美味しいですよね?』

「いちいち煩ぇよ。」

「え、美味しいよね?勘ちゃん」

「…まあな」



 でしょー!と同じ顔で笑って2人が言う。
 その顔を見て大和は「はー…」と呆れた様に息を吐いた。
 そんな大和はガラス越しに見えた男に少し眉を寄せる。
 サングラスをかけ、頭には黒いキャップ帽、口元にはマスク。そして手元には大切そうに抱えられている鞄が1つ。
 そんなあからさまに怪しい姿が現れればどうしても目が行くもので。



「…あの人、何だか怪しいわね…」

「あぁ。どうも何か仕出かしそうな…、!」



 抱えていた黒い鞄の中から拳銃を取り出し、男が無差別に発砲し始めた。
 ガタッと立ち上がり大和と上原が店を出て行く。
 安室は発砲音に振り返り出て行った大和と上原を見ると黒凪に目を向けた。



「神崎さん、あの方々…」

『大丈夫です、あの人達刑事さんだから――…』



 パァンッと再び響く発砲音に外に目を向ける。
 大和と上原が犯人の前に行く様子を見ていると遠目に灰原達少年探偵団の姿が見えた。
 ひゅ、と息を飲む。そろそろ下校時間だし、偶然にも通り掛かってしまったのだろう。
 黒凪がすぐさま走り出して灰原の元へ向かって行く。
 そんな中でよりにもよって犯人の目が灰原達少年探偵団へ向けられた。
 すぐさま前に出るコナン。灰原も歩美達を路地に寄せる。



『(待って、撃たないで…!)』

「止めろ!ガキなんざ撃つんじゃねえ!」

「止めなさい!」

「下がってろおめーら…!」



 色んな声が聞こえてくる。
 男を止めようとする大和と上原の声、男を睨んで子供達に声を掛けるコナンの声。
 ――そして、



「早く隠れなさい!早く!」

『(――志保、)』



 大切な妹の声。
 パンッと音が響く。
 コナンが目を見開いて顔を背け、彼の真後ろの壁に弾丸が当たった。
 そこは灰原の真横。彼女も驚いた様にめり込んだ弾丸を見ている。
 …頭が、真っ白になった。



「…え」



 灰原が走って来ている神崎遥の姿に目を見張る。
 思わず上原を見た。…違う、上原刑事じゃない。――お姉ちゃんだ。
 そう思って再び目を向けた時、黒凪は地面に落ちていたペットボトルを正確に男の目元へぶつけた。
 その衝撃で倒れた男に大和と上原がすぐさま駆け寄り、黒凪は灰原の目の前で足を止めるとがっと彼女の両肩を掴む。



『大丈夫!?さっきの弾当たってない!?』

「だ、大丈夫よ。落ち着いてお姉ちゃ…遥さん、」

『で、でも貴方の隣に弾が、っ、だいじょ、』



 ひゅ、と変な呼吸をし始めた黒凪に目を見開いた灰原。
 コナンもそんな黒凪の様子に気付いた様で焦った様に此方に駆け寄ってきた。
 胸元を抑えて速い呼吸を繰り返す黒凪に「どうしたの…?」と怖くなったのか歩美の目にも涙が浮かんで行く。
 元太や光彦も焦り始め、その様子に安室や大和も駆け寄ってきた。



「落ち着いて遥さん、ゆっくり息吸って…」

「どうした?」

「どうやら過呼吸の様ですね。子供達が襲われて驚いてしまったんでしょう」

『は、っ、』



 安室が黒凪の側でしゃがみ込み彼女の背中を擦る。
 僕と一緒に息を吸って吐いてください。
 そう言って横で落ち着かせるように一緒に呼吸をする安室。



「…大丈夫だ。もうあの男は捕まえた。誰もガキ共を傷付けたりしねえよ」

「遥さん、私は大丈夫だから、」



 黒凪の前にしゃがんで大和が言うと灰原も大和の隣に立って黒凪にそう言った。
 やがて黒凪の呼吸も落ち着いて行き、皆が息を吐いて肩の力を抜く。
 落ち着いた黒凪を見た安室も安心した様に眉を下げると徐にコナンに目を向けた。



「コナン君、沖矢さんは今は大学に?」

「ううん、多分家にいると思う。電話して来てもらうよ」

「うん。その方が良いだろう」

『…ありがとうございます安室さん…。大和警部もありがとうございました』



 疲れた様に言った黒凪に「あぁ」と頷いて大和が立ち上がる。
 上原も警察に男を引き渡してから此方に駆け寄ってくると黒凪の様子に少しだけ顔色を変えた。
 どうかしたの?と問うた上原に大和は「まあ色々な」と濁すと徐に立ち上がる。



「詳しくあの男について話さねえとな。行くぞ上原。2人居れば足りんだろ」

「え、ええ…」



 そう言ってパトカーに近付いて行く大和と上原。
 そんな彼等の側にスバル360が停車した。
 2人が車の中から現れた青年に目を向けるとあちらも気付いた様で、此方に軽く会釈をすると黒凪に駆け寄っていく。
 その背中を見送った大和は上原と共に警視庁へ向かった。



「――…遥!」

『…昴』

「大丈夫かい?」

『うん、皆が助けてくれて…』



 過呼吸なんて初めてだからすっごく吃驚しちゃってね、と話す黒凪を見て大丈夫そうだと判断したのか、沖矢は安心した様に息を吐いた。
 そんな沖矢に「どうも」と声を掛けたのは安室。
 沖矢も安室を見ると「あぁ、ありがとうございました」と頭を下げる。
 その様子に安室は少し困った様に眉を下げた。



「大学生でしたよね?時間の方は大丈夫でしたか?」

「ええ。でも授業があっても来てましたよ、彼女の命には代えられませんし。」

「そうですよね。…一応落ち着きはしましたが、病院で診察を受けてくださいね。何かあると怖いですし…」

「はい。ご親切にありがとうございました」



 黒凪の肩に手を添えて共に車へ向かって行く。
 そんな沖矢の背中を見送った安室は"やっぱり違うか"と目を細めた。
 自分の中の記憶にある赤井は彼女の為に駆けつける様な男ではない。
 …彼女の無事を見て、本気で安心する様な男ではないのだ。




 やはり違うのだろうか


 (記憶の中の"奴"なら)
 (此処へは来なかった)


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