隙ありっ Short Stories

□隙ありっ 番外編
16ページ/16ページ



  四月馬鹿

  探偵連載番外編。
  エイプリルフールに因んだ番外編。
  夢主と赤井秀一は変装済み。



『秀一、……秀一、寝ぼけていても良いから聞いてね?』

「…なんだ……?」

『これから出かけるわ。朝ご飯はとりあえず作っておいたから食べてね。』

「……お前変装は…?」



 これから会う人には変装が要らないのよ。
 小さく笑って言った黒凪に暫し沈黙して寝起きの表情に眉間の皺がプラスされた。
 そしてのそりと起き上がり目をしばしばさせながら掠れた低い声で彼が問う。



「誰と何処に行くんだ…?」

『零君とドライブ。』

「…………」



 …は?
 素っ頓狂な声が返される。
 そして「夢か…?」と現在の状況を疑い始めた。
 そんな赤井に「どうしたのよ変な顔して。」と黒凪が小首を傾げる。



「…なんで彼なんだ…?」

『なんでって、貴方は知らないかもしれないけれど私と彼はよく一緒に遊びに行ってるわよ?』

「……いや、そんな事ないだろ…」

『そんな事あるわよ。彼優しいのよ?紳士的にエスコートしてくれるの。』



 そう言うと彼は黙り込んでしまった。
 そして己の眉間を指で抑えながら考える様に唸り、項垂れる。
 そんな赤井にため息を吐いて「それじゃあ行くからね。」と背を向けた。
 その手を赤井の手がぱしっと掴み取る。



「…今まで行ってたにせよ、それは俺にとって気持ちの良いものじゃない」

『…気持ちが良くないって言われても困るわよ…。もう約束しちゃってるんだから、今日だけでも我慢――』

「行くのを止めるまで離さない」

『……。』



 黒凪の手を掴む赤井の掌に微かに力が籠められる。
 その様子に小さく笑ってベッドに腰を下ろし、赤井の顔を覗き込んだ。
 徐に向けられた彼の不機嫌な目にふにゃりとした笑みを向ける。



『――…嘘。』

「…は?」

『嘘よ、嘘。冗談。』

「……」



 また「は?」と言いたげな顔をした赤井に携帯の画面を向ける。
 そのロック画面には4月1日、日曜日の文字。
 暫し黙り込んでやっと合点が行った様な顔をした赤井に黒凪が笑顔のままで小首を傾げた。



「…お前な…」

『あはは、引っかかった。』

「寝起きから驚かせるなよ…」

『寝起きじゃないと貴方引っかからないじゃない。』



 …覚えてろよ。そんな恨み節のような事を言った赤井に黒凪がこの上なく嬉しそうに笑った。
 そんな黒凪に片眉を下げて微笑み彼女の手を離す。
 寝起きの温かい赤井の手が離れた黒凪の手は空気に触れてほんの少しだけ体温が下がった様に思えた。




 来年も、再来年も。


 (っ、げほっ)
 (え、どうかした?朝ご飯に何か混ざってる?)
 (おま、…塩と砂糖…)
 (…間違ってた?)
 (いや?間違ってない。)
 (……。)
 (くく、引っかかったな。)
 (……覚えてなさいね。)
 (…覚えてるよ。ずっと。)


 2018.4/1
 
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ