隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  天秤が揺れる時

  ジン成り代わりの赤井秀一オチ。
  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。

  ※夢主は女性です。



 バシュ、と嫌な音が耳に入り込む。
 その音と同時に指先にあった盗聴器がはじけ飛び、突然の事に目を大きく見開いた。
 ばっと振り返り、狙撃か、と呟いた細身の男、コルン同様に体を背後に向ける長身の女性。
 彼女の持つ銀髪が太陽の光に反射し、深緑の瞳が微かに細められた。
 その視線の先にはかなり距離が離れたビルが1つ。
 周りを瞬時に見渡すが、真正面のビル以外に狙撃出来るほどの高さがある建物は見当たらない。



『…あのビルか?キャンティ』

「多分ね…」

『コルン、貸せ』



 返事を聞かずに奪い取ったライフルのスコープを覗き込み、正面のビルを見る。
 ビルに立ち、此方を見ている男が見え、よく見ようと目を見開いた。
 そこに立っているのは薄く微笑んだ黒髪のニット帽をかぶった男。
 あの男は良く知っている、過去に自分の部下の様な男だったが、結局はFBIの犬だった男。
 予想はしていた。700ヤードはあるこの距離で豆粒ほどの大きさの盗聴器を狙撃出来る奴なんてそうそういない。
 久々に見る顔だ、と薄く微笑んだ彼女は目を細め、引き金に指を置いた。



「ジン…。誰だ」

『ライ、いや…赤井秀一』

「な、ライだって!?」

『っ!?』



 赤井に向かって標準を定めていたジンと呼ばれた女性は目を見開いてスコープから少し距離を置いた。
 それと同時に頬を掠った弾丸に眉を寄せ、ベルモット達が目を見開く。
 あの男、正確に右目を狙ってきやがった。
 そんなに私が憎いか、と少し笑う。
 すると2、3発連続してジンの体を貫いた。
 それに焦りを感じたのか、キャンティが何発か発砲するがこの距離だ、当たる筈は無い。



『…あの野郎、防弾チョッキの隙間に弾丸を入れてきやがった…』

「姉貴、大丈夫ですかい!?」

『……そんなに憎いか、ライ』



 赤井は笑って自分を見るジンに笑みを深めた。
 あぁ、憎いさ。と毒を吐いてもう一度標準を合わせる。
 次は頭。下手に足を撃って留まらせても危険なだけなら、いっそ此処で仕留めた方が良い。
 ジンは傷口を抑え赤井の方向に顔を向けたまま後ずさる。
 撤収するぞ、と声を掛ければキャンティが眉を寄せたがジンの様子を見てライフルを降ろした。
 だがもう1発弾丸が迫りジンの髪を擦り抜けて行く。
 外れた事に微かに赤井が目を見開きスコープから思わず目を離した。
 そして再び確認する様に覗き込めば確かに自分が放った弾はあの女を殺していない。
 ジンは眼光を鋭くさせると徐にキャンティのライフルを奪った。



『…私を殺す気だったか』

「え、ちょっとジン…」

『……ふざけるなよ…』



 ジンは目を細め、引き金を引いた。
 弾丸は真っ直ぐ赤井に向かい、彼の肩に命中する。
 痛みに眉を寄せた赤井は肩を押さえ再びスコープを覗き込んだ。
 が、そこには既に組織の姿は無くジン達はビルの中の階段を駆け下りる。
 そんな中でキャンティが徐に前を進むジンに向かって口を開いた。



「流石だねジン。やっぱりアンタの銃の腕は並外れてるよ」

『そう思うならお前ももう少し精進するんだな。キャンティ』

「あら、私にはムキになった…そうね、火事場の馬鹿力って所かしら?そう見えたけれど」

『馬鹿な事を言うなベルモット…。いい加減にその頭撃ち抜くぞ』



 あら怖い。とベルモットが肩を竦め車に乗り込んだ。
 すぐにアクセルを踏んだウォッカはハンドルを切り、先程まで居た場所から遠ざかる。
 ジンはハンカチで口元を伝っていた血を拭い息を吐いて窓の外を眺めた。
 するとウォッカが運転をしながら何気なく口を開いてこう言った。
 「あれ程の狙撃技術を持った赤井が外してくれて助かりやしたね」と。
 目を細めたジンは何も言わなかったが徐にクス、と笑ったベルモット。
 彼女は「馬鹿ね」とウォッカに言い放つと口元を吊り上げて足を組み替えた。



「あの男がジンを撃てる筈無いじゃない」

「え?」

「でもジンも迷い無く撃った事だし、これで晴れて決別できたんじゃないかしら?ねぇ、ジン」

『……知らねぇ』



 つれないわね。とベルモットが煙草を取り出した。
 その様子を困惑した様に見ていたウォッカは何も聞かない事にしたのか前方に目を戻す。
 話題が終わった。そう思ったのも束の間、ウォッカはベルモットの次の言葉に更に眉を寄せた。
 「――…でも、貴方も撃ち抜こうと思えば出来たでしょう?」その言葉を聞いたジンは「何の事だ」と無表情に言い返す。
 その言葉に笑みを深めたベルモットは「素直じゃないのね」と煙を吐き出した。



「赤井秀一にその気があれば貴方は今この世にいなかった筈だわ」

『…心配するなベルモット…。次会った時は確実に殺すさ』

「彼にその気がなくても?」

『…何の話だ、ベルモット。殺されたいのか?』



 最後の言葉にむっと眉を寄せたベルモットは沈黙し、煙草の灰を窓から落とした。
 彼女もやはり最高幹部に近い存在であるジンの事は怖いらしい。
 ベルモットは徐に息を吸い込み静かに煙を吐く。
 本当に素直じゃない。自分の様に男なんて利用してしまえばいいのに。
 目の前で傷口を気にしている彼女に言ってやりたい。
 ベルモットは赤井秀一とジンの関係も大体想像はついている。
 女の勘だが、2人は確かに――…。



『…ったく、貫通してねぇな…』

「大丈夫ですかい?早く医者に診せねぇと…」

『あぁ…。弾を取り出すのに時間が掛かりそうだ』



 ジンは口に広がる鉄の味に眉を寄せ、水を喉に流し込んだ。
 そして冷えたペットボトルを額に押し付けるとすう、と目を細める。
 何故あの時頭を狙わなかったのか――。
 先程のベルモットの言葉の本質はこれだろう。
 肘をつき、目を閉じた。



『(狙えなかった、が本心って事か?)…殺しても良かったんだがな…』

「…姉貴?」


「―――仕留めたと思ったんだがな…」

「…珍しいわね、貴方が外すなんて」



 ジョディの言葉に不調だったかもな、と目を細めた赤井。
 赤井は手元の缶コーヒーを口に含み缶を机に置いた。
 そして赤井は肘をつき「ふむ…、」と窓の外に目を移す。
 数秒間黙った赤井はやがて小さく笑うと「あー…」と低い声で呟いた。
 その様子を見たジョディは怪訝に眉を寄せ、遠目に見ていたコナンも不思議気に首を傾げる。
 コナンにとって彼はまだあまり知らぬ存在だがジョディの表情からしてあまり見せない表情なのだろう。



「…惚れた弱み、だな」

「え?」

「いや、こっちの話だ」

「ちょっとシュウ?」



 立ち上がった赤井は空になった缶コーヒーを振り扉を開いて部屋から出て行った。
 一瞬でも考えた自分が懐かしい。組織か、FBIか。
 いや、正確には…彼女か、FBIか。
 彼女とは勿論ジンと呼ばれたあの長身の女性の事だ。
 長い銀髪に細い体。黒い帽子を深くかぶり、いつもコートのポケットに拳銃を隠し持っている物騒な女。
 昔の話だが…確実に自分は彼女に惚れていたのだろう。
 あんなに冷たい目をした女に見事骨抜きにされていたようだ。
 だからだろうか。あの日の出来事に希望があった様に思い込んでいたのかもしれない。



《FBIの犬だったんだってな。ライ》

《やっぱりばれたからアンタは任務に来なかったのか》

《当たり前だろう。誰が行くかよ、裏切り者の所になんざ》

《冷たいな…》



 困った様にそう返せば電話の向こう側でクツクツとトーンの高めな笑い声が聞こえた。
 そして数秒経つと真横を弾丸が通り過ぎ目を見開いた赤井はすぐに建物の陰に入り込む。
 ちらりと顔を覗かせれば拳銃を構えた女性…ジンが立っていた。
 彼女は目を細めて携帯を持ち上げると「さよならだ」と声を掛けて真上に銃を撃つ。
 パアン、と音が響きジンは笑うと赤井に背を向けて歩いて行った。
 正直な所、自分には組織の情報は殆ど与えられていなかった。
 そこを考慮して見逃してくれた。…のかもしれない。
 だが今回は見逃す筈も無く、自分の右肩を彼女は正確に撃ち抜いた。



「……いや、俺が先に挑発したか」

《…私を殺す気だったか》

「そりゃあフラれても仕方がないな…」



 声は直接聞こえなかったが口の動きで大抵は読み取れる。
 自分が先に撃った。自分が先に彼女を傷付けた。
 ジンはそれを確認する様に傷口を手で押さえ、自分に向かってそう言っていた様に思う。
 「私を殺す気だったか」…ああ、確かに殺す気だった。
 だが殺せなかったのかもしれない。手元が狂った原因は必ず何かあるだろうから。
 ―――まあ、何はともあれ。



『「これであいつとは終わりだ」』




 もう、戻れないのだから


 (どちらかが死ぬまで、)
 (いや、2人が共に息絶えるまで)
 (永遠に私達/俺達はもう――)

 (ならばせめて)
 (その命は自分が)
 (終わらせてみせよう)

 (…愛しい、恋人さん)


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