隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  されていても。

  赤井秀一成り代わりのジンオチ。
  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。

  ※夢主は女性です。



 アンタが憎い。
 殺す事に躊躇さえしない程、憎い。
 スコープを睨みつける様に目を細め、口元が吊り上った。
 大きく目を見開き、手元の引き金を2回程引く。



「――――っ、」

『…く、はは』

「……"テメェ…"」



 自分が撃った弾丸が命中した男、ジンがそう呟いた。
 口の動きが読めるから、私はあの男がなんて言ったかなんてすぐに分かる。
 でもアンタには分からせてやらない。
 だから態とスコープを狙撃してやったんだ。



『死ね、くそ野郎』


「…………」

「ジン!?」

「兄貴…!なんて野郎だ、何発も命中させやがって!」



 使い物にならないライフルを降ろし、肩を抑える。
 その様子に目を見開いたキャンティとウォッカが声を上げた。
 うるせぇ、と小さく呟くと睨む様に向かいのビルを見る。
 「誰だ」と言うコルンの声に静かに答えた。



「…赤井、黒凪」

「!…ライね?」

「あぁ…。チッ、相変わらず良い腕してやがる…」

「何嬉しそうに言ってんだい!コルン、奴を…!」



 狙撃しろ、そう言う様に言ったキャンティ。
 素直にライフルを構えたコルンだったが、無駄だ、とジンが低い声で言った。
 お前でも撃てねぇよ、と言うジンの言葉にライフルを降ろすコルン。
 すると再び弾丸がジンの肩に命中した。



「っ…」

「……凄いわね、同じ場所に2発目を…」

「兄貴!撤退しやしょう!」

「…あぁ、そうだな」



 ジンの言葉に弾かれる様にライフルを抱えるコルンとキャンティ。
 彼等も狙われたくはないのだろう。
 700ヤードはある距離から小さな的を正確に撃ち抜く、あの女に。
 ジンが背を向けた。それを見た黒凪は引き金を引いた。



「ぐ、」

「また命中させやがった…!」

「…遊んでるみたいに撃つのね、彼女。」

「っ、構うな、急げ」



 ジンが掠れる声でそう言い、急いで屋上から建物の中に入り込む。
 こうなれば狙撃は出来ない。
 ライフルを降ろした黒凪は目を細め、煙草に火をつけた。
 此処でジンを殺せば、他の奴等がどう動くか分からない。
 此処で殺すのはあまりに危険だ。



『ジン…。アンタは私に隠れて"殺し過ぎた"』



 それが無ければ、貴方を愛していたかもしれない。
 そう。私の親友である宮野明美を殺した時点で私は貴方を許せなくなった。
 ポケットに入れていた携帯が震え、取り出して耳に押し当てる。
 焦った様なジョディの声が聞こえて小さく笑った黒凪はライフルを肩に傾ける。



≪ちょっと黒凪!彼等を撃ったのは貴方!?≫

『いかにも。』

≪驚いたじゃない!事前に伝えておいてくれないと…!≫

『彼等があの屋上に来るっていう確証がなかったもので。次からはちゃんと連絡する』



 もう、と一言言って通話が切れる。
 携帯をしまった黒凪は片手をポケットに突っ込んで歩き出した。
 ギイイ、と重いコンクリートの扉が閉まっていく。
 チラリと見た空は晴天だった。



「……あんな趣味が悪い女の何処が良かったの?ジン」

「あ?何の事だ、ベルモット」

「あら?貴方のお気に入りだったじゃない。有名よ?」

「知らねぇな」



 カチッと煙草に火をつけ、煙を吐くジン。
 その様子を見ていたベルモットは小さく笑い、ウォッカに目を向けた。
 彼もベルモットの言う"噂"は知っているらしく、チラチラとジンに目を向けている。
 ベルモットは静かに足を組み、空を見上げた。



「貴方が毎晩彼女の部屋に通ってるって専らの噂だったわよ?覚えてないの?」

「…………」

「とぼけても無駄よ。貴方目に見えて彼女にご執心だったから。ねぇ?ウォッカ」

「え、あ、…えぇ…」



 ギロ、と向いた双眼に冷や汗をかいて目を逸らすウォッカ。
 その様子にくすくす笑っていたベルモットはチラリとミラーを見上げた。
 ミラーにはジンが辛うじて映っている。
 ジンを見る様に少し移動したベルモットは彼の表情に微かに目を見開いた。



「(…やっぱりね)」

「…………。」

「兄貴、医者の所に寄りやすか?」

「…いや、別に良い」



 でも…、とウォッカの目がジンの肩に向かう。
 ジンの肩には合計で3つの風穴が空いている。
 黒いコートの所為か、あまり血は目立って見えないが服を破る様に空いた穴が目立つ。
 とても大丈夫には見えない傷である上、3つの内の1つの傷口には2発銃弾が通過しているのだ。
 ベルモットが「診てもらいなさいよ、念のために」と声を掛け、ジンが黙った。
 それを肯定だと取ったベルモットはウォッカに目を向ける。



「じゃ、じゃあ向かいやす…」

「……チッ」



 肘をついて外を見るジン。
 銀色の長髪がする、と肩から滑り落ちた。
 銀髪が光に反射して微かに眩しい。
 目を細めたジンは帽子を深くかぶった。



《おい、ライ》

《組織以外ではそれで呼ばないでくれる?》

《…そういや、赤井黒凪ってのはやっぱり本名らしいな》

《あら…、調べたんだ》



 悪びれる様子も無く笑った黒凪。
 FBIに同じ名前の日本人捜査官が居るようだが?と言うジン。
 彼に目を向けた黒凪は他人じゃない?と首を傾げる。
 ジンは静かに目を細め、黒凪の癖が強い黒髪を掴んだ。



《裏切るなよ?黒凪…。お前は殺したくないんでな》

《さあ…。貴方次第じゃない?》



 そう言って笑った黒凪にジンはニヤリと笑みを向けた。
 殺したくない、と言うのは確かに本心だったと思う。
 それをあの女に晒した理由は自分にも分からないが。
 ただ、俺は確かに赤井黒凪を愛していた。




 以下同文、って所かしら


 (凄いんだね、赤井さんって…)
 (え?)
 (悪い人達を追い詰めたんでしょ?僕憧れちゃうなぁ)
 (ふふ、私の様な大人になったらいけないよボウヤ)
 (…どうして?)
 (……内緒。)

 (愛していた人を殺さなければならない私の様になんて)
 (なっては駄目。)


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