隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  されていても。

  赤井秀一成り代わりのジンオチ。
  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。

  ※夢主は女性です。



「――…最近奴等が周りをうろついてるって話は聞いた?赤井さん」

『耳には入ってる。』



 隣に立つ少年、江戸川コナンと協力して一旦身柄を確保したキールを組織に戻し、それから数か月後の事。
 今も尚共に組織を追っている2人はとある路地の中で並んでそんな会話を交わしていた。
 度々こうして組織についての情報を交換している2人だったが、こうして改まって、その上隠れて会話をするには意味がある。



『どうも私を狙ってるらしいね。』

「うん。…コードネームは"バーボン"。知ってる?」

『知ってるよ。私と特別仲が悪かった組織の人間だ。』



 煙草の煙を吐いて気だるげに彼女が言う。
 そんな黒凪を見て「どうするつもりなの?」とコナンが問うた。
 その問いに暫し考える様に黙った黒凪が徐に口を開く。



『ま、どうにかするよ。ボウヤは普段通りに過ごしていると良い』

「…。大丈夫なんだよね?」

『バーボンに負けた事は一度も無いよ。』



 一種のゲームだと思って楽しくやるさ。
 煙草を口に加えて壁から背を起こした黒凪をコナンが困った様に見上げる。
 自身の危機に対して楽しむ様に行動する所は彼女の駄目な所だ、といつかにジェイムズが言っていた。
 …確かにその通りだと思う。



「あんまり楽しまない様にね、赤井さん」

『…。』



 ゲームに見立てた方がやりやすいんだよ。
 …狙撃も、敵との知恵比べも。
 ほんの少しだけ現実染みてるだけ。
 コナンの言わんとしている事を理解しているのだろう、淡々と彼女が言った。



『あまり堅苦しく考えてると良くない事だって起きる』

「……赤井さんってさ、」

『うん?』

「…恋愛ゲームは得意?」



 コナンが眉を下げてそう問うた。
 その問いに微かに目を見張った黒凪はやがて笑顔を見せて。



『生憎、1番不得意でね』

「…ゲームで不得意なら、現実でもそうなのかな」

『さあ。でも現実はゲームとは違うから…』



 でも多分現実の恋愛は上手な方だと思うけどね。
 …特にドラマチックなやつは得意な自信がある。
 笑って言った黒凪がそう言い残して去っていく。



「(ドラマチックねえ…)」



 脳裏にキールを組織に帰したあとの事が蘇る。
 ――赤井さん、僕の予想だと多分奴等はキールを使って赤井さんを殺しに来ると思うんだ。
 へえ、誰の命令で?
 そりゃあジンとか…。
 そう返答を返せば黒凪は困った様に笑ってこう言った。



『多分その読みは外れるよボウヤ。…あの男はね、出来ない事は出来ないってはっきり言う男なんだよ』

「…え?」

『…私に嘘も付けない様な弱い男だったりするのさ』



 思わず誰の話をしているんだろうと思ってしまった。
 …しかし途端にジョディから聞いた話を思い出して。
 ――ジンと恋人だったって本当だったんだ…。
 声には出さずそう考えて、そして。



「…根拠は?」

『ない。…でもそう言う奴だから』

「……、」



 笑って言った黒凪に「もしも読みが外れたらどうするんだよ」と妙に焦りが出て来た。
 それは自分が彼女の言うジンの人物像を全く想像出来なかったのと、黒凪を信用しきれなかったからだ。
 …本気で赤井さんを愛していたなんて事があるのだろうか。
 それで頭の中は一杯だった。



「…赤井さんは本気で"ない"と思ってるの?」

『うん。…でもそうだなぁ、』



 本当に自分の身が危うくなったら私はどうするんだろうね。
 夜空を見上げて言った黒凪の顔に、初めて不安が混ざった様な気がした。
 結局自分と私ならどっちが大切なんだろう。
 そんな黒凪にコナンは思わず出かかった言葉を飲み込み拳を握る。



「(…俺なら、…俺なら恐らく蘭を…)」

『試した例がないから分からない。…でも私は絶対に自分を取る』



 黒凪の言葉にコナンがばっと顔を上げる。
 その顔を見た黒凪は小さく笑って言った。
 ――怖くなった?…と。
 その言葉にコナンが息を飲むと黒凪は煙草を銜えて火を灯し、口の端から煙を吐く。



『案外ね、自分が大切に思ってても相手はそうでもなかったりするものだよ』

「……、」

『私は確かにあの男に大事にされてたけど…。私はそこまででもなかった』



 それでもあの男はいつか私に好かれる時が来るのではと、ずっと。ずーっと待ってたのかもしれない。
 でもあの男と同等に愛する事なんて出来なかった。
 吐き出した煙が空に登って行く。



『…さて、』

「!」

『ボウヤはどうかな』



 そう言ってしゃがみ、にやりと笑った彼女の顔を今でも鮮明に覚えている。
 怖いと感じた。改めて女性は怖いと。
 …でも不思議とジンが彼女に惹かれた意味も分かる様な気がして。



「(多分ああいう人の事を魔性の女って言うんだろーな…)」



 俺は絶対ゴメンだけど。
 暫しその場で立ち竦み、やがてコナンも路地から出て行く。
 ――事が起こったのはそれから予想していた以上にすぐの事だった。



「…やっとこの時が来た」

『入念に私の周りを嗅ぎまわってただけはあるじゃない。ジョディ達も上手く私から離してるし…。…あぁでも組織にこの事を言っては無いのかな』



 此処にいるのは公安の人間だけらしいし。
 笑って言った黒凪に安室が目を大きく見開いた。
 お前、何故それを。
 焦った様に言った安室に黒凪が煙を吐く。



『さっさと退却させた方があんたの身の為だ、バーボン』

「…はっ、何を…」

『ジンが来る』

「!」



 安室が目を見開き「何を言っているんだか」と笑った。
 貴方が言った通り、僕は組織にこの事を微塵も匂わせてはいない。
 僕が単独行動を頻繁にする事など元々同僚だった貴方なら分かっているでしょう。



「組織の人間が…ましてやジンが此処に現れるなんて事はあり得ませんよ」

『…バーボン』



 呆れた様に煙を吐いて顔を上げた黒凪に眉を寄せる。 
 なんだ、何処を見てる。…僕の後ろに何か、
 あんたももう知ってるだろう、ジンを私が撃った話は。
 安室がゆっくりと振り返る。



『――自分を撃った相手の居場所を、まだ見つけても居ないと思う?』

「っ、(誰も居ない…)」

「降谷さん!!」

「っ!」



 走り出した黒凪に気付いた部下が安室を呼び、彼がはっと振り返りその後を追う。
 安室の部下達も同様に動き出そうとした頃、突然彼等の足元に何者かが拳銃の弾を放った。
 サイレンサーによって発砲音が抑えられたその音は走る安室の耳には届いていない。
 足を止めて拳銃を構える部下達。しかしそんな公安にはもう興味はないと言う様に拳銃を持った人物が静かに動き出した。



『(――確か、2手に別れた公安の片方はボウヤが足止めしてくれると言っていたっけ)』



 ちらりと左側に目を向ければコナンが言っていた通りに公安が追ってくる気配はない。
 全く大した子だ、狙われている私とほぼ同じタイミングで安室の動きに気付き手助けまでしてくれるとは。
 …となれば障害もなく此方を追って来ているであろう右側の公安と真後ろの安室を…。



『(…右側からも此方に来る気配がない…?)』

「っ、止まれ赤井…!」

『(まさか誰かが足止めを…)』

「くそ、あいつら何してる…!」



 バシュッと安室の足元に弾丸が迫る。
 咄嗟に足を止めた安室は周りを見渡した。
 そしてはっと前方を見れば黒凪の姿は無く。
 舌を打った安室は公安の部下に連絡を取った。
 しかし左側から追う予定だった部下達には連絡が取れず、右側の方は何者かに奇襲を受けたと報告が入る。
 一方の黒凪はその"何者か"に草むらへ引きづり込まれていた。



『……。』

「……」

『っ、(髪が鬱陶しい)』



 さら、と目の前に落ちてくる長い髪を片手で叩けば自分を抱きかかえている人物が此方を覗き込んでくる気配がした。
 すると道の方で黒凪を見失った様子の公安や安室が走り回り、やがて去っていく。
 今日の所は引き上げるぞ、と予想以上にすぐ切り上げた安室に目を細め、自分を抱きかかえている人物に目を向けた。



『…あんたも懲りないね。ジン』

「あぁ。つくづく馬鹿馬鹿しい」



 月の光が銀髪を照らし、笑ったジンの顔を見せる。
 その顔を呆れた様に見ていた黒凪はジンに向き直りその眉間に拳銃を突きつけた。
 額の銃には微塵も反応せず、ジンはじっと黒凪を見続けている。
 黒凪は拳銃を降ろさずジンの顔を見上げてにやりと笑った。



『まだ私を馬鹿にしてるらしいね』

「馬鹿になんざしてねぇ」

『私が撃てないと思ってるだろ』

「あぁ」



 平然と言ったジンに引き金に指を引っ掛ける。
 思い残す事は?
 そう冗談半分で問い掛ける。
 するとジンは徐に黒凪に手を伸ばし後頭部に回すとぐっと頭を引き寄せて彼女の唇を奪った。
 その行動に微かに目を見開いた黒凪は離されたジンの唇を見て、そして彼の目を見る。



「殺してぇなら殺せ」

『…此処までしても、私があんたを微塵も思ってやれないとしたら…あんたどうするの』

「どうもしねえ」

『……。馬鹿だね』



 ジンの額に宛がわれていた銃口が離れて行く。
 そうして拳銃が完全に黒凪のポケットに戻されるとジンが黒凪の顔を覗き込んだ。
 黒凪はそんな視線に気付かぬふりをして立ち上がり草の影から出て行く。



『助けてくれた借りがあるから殺さなかっただけよ。変な期待はしないでね』

「……」

『さっさと行って。…私はいつでも』




 あんたを殺せるんだから


 (私を此処まで愛してくれる人なんて)
 (もうあの男以外にいないのではないかと)
 (そう、思ってしまう程に。)


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