隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  そのを向けられて

  安室透成り代わりの赤井秀一オチ。
  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。

  ※夢主は女性です。



「久しぶりだな、黒凪」

『―――。何だよ、顔ぐらい見せろビビり』

「そう言う訳にもいかない」



 振り返った先に居たのは、帽子を深くかぶりマスクを付けている赤井。
 彼は微かに見える目を細めると両手をポケットに無造作に突っ込んだ。
 赤井は暫く地面をじっと見ると徐に顔を上げた。
 前ではコナンと並んで自分を見る彼女がいる。



「…変わらないな」

『は?髪でも伸ばして欲しかったわけ』

「いや、」



 …本当に変わらない。
 自分に反抗的な話し方も、髪をがしがしと掻きながら話す癖も。
 明美とは正反対の短い髪も、色白の明美とは違う色の濃い肌も。
 ふっと思わず笑みを浮かべれば、なんだよと眉を寄せて黒凪がこちらを見る。



「……俺の顔を覗き込む癖も、あの頃と同じだな」

『!』

「お前はよく、俺が考え込んでいると帽子をずらして覗き込んできた」



 優しく目を細めて、そう言った。
 そんな赤井を見た黒凪は目を見開いたまま数歩後ずさる。
 あんなに優しげな彼の眼差しを見た事があっただろうか。
 …いや、あったな。"あれ"は宮野明美に向けていた目だ。
 では、向けられた事はあったか?…勿論NOだ。



『何、さ。なんでそんな機嫌良いの』

「さあな」

『………』



 徐に目を逸らせば、コナンの怪訝な視線が突き刺さる。
 チラリと彼を見下して微笑めば、コナンは少し微妙な笑みを見せた。
 黒凪は目を細めて赤井を見る。
 彼を前にすれば、過去の思い出が蘇るようだった。



《また明美ちゃんか?大》

《ん?あぁ…》

《……お前さ、私と一緒にいて良いのか?》

《…明美は気にしない》



 明美、ねぇ。
 どす黒い感情が胸に広がるのが分かった。
 クソッたれ。嫌な女。本当に。
 ムカつくんだ、明美ちゃんからのメールに目を落とす大も。
 彼女に返信する大も、それを嬉しげに読んでいる明美ちゃんも。



《なあ、聞いてんの?》

《?》

《……聞いてなかったな?》

《…その口調、いい加減にやめたらどうだ》



 誤魔化す様にそう言った赤井の頭をぺしっと叩く。
 赤井は帽子を深くかぶり直し、再び携帯を覗き込んだ。
 嫌いだ、私を無視して携帯を見るお前なんて。
 そんな事を思い出しながら、黒凪は目を伏せて息を吐いた。



『…明美ちゃんの事は、残念だったな』

「……あぁ。」

『何もしてやれなくて悪かった。彼女が銀行強盗をやらされていたなんてこれっぽっちも…』



 そこまで言って、これは只の言い訳に過ぎないと気付いた。
 だから私はすぐに言葉を切り「…ごめん」と素直に謝罪の言葉を彼に伝える。
 赤井が裏切った時点で彼女が死ぬであろう事は分かっていた。
 …何も出来なかった。それは彼も一緒なのだ、彼はどれだけ悲しんだのだろう。



『……本当に嫌な女だよな。お前の事毛嫌いして、…でも親友だったのに』

「……」

『親友の恋人1人、護れなかった』

「…。お前が気にする事じゃない」



 くしゃ、と髪を掴んで黒凪は項垂れた。
 赤井は徐に手を伸ばし、黒凪の頭を撫でる。
 黒凪は目を見開いて赤井を見上げた。
 見上げた先の彼の表情はとても優しかった。



「俺は責めない」

『……ありがと』



 ぽす、と赤井に凭れ掛かる黒凪。
 そんな彼女の頭を抱え込み、赤井は車に隠れているコナンに笑みを零す。
 一方コナンは呆れた様にため息を吐くとその場に座り込む。
 折角の2人の再会なのだ、自分が邪魔をしてはいけない。



『…そろそろ離して。いい加減ベルモットに感付かれる』

「……そうだな。」

『お前さ、』

「ん?」



 明美ちゃんが居るのにそう言う事するなよ。と冗談交じりに黒凪が言った。
 心外だな、と笑えば黒凪が眉を下げて笑う。
 赤井は目を細めると「お前が考えている意味じゃない」と言い放った。
 黒凪は「は?」と微かに目を見開き赤井の目を見る。



「明美の事は愛していた。だが俺は」

『…ちょ、ちょっと待って』

「お前の事も」

『ちょっと待てって!』



 必死の形相で止めに掛かる黒凪だったが、赤井の言葉は止まらなかった。
 「愛している」と言う赤井の言葉にビクッと反応して大きく目を見開いた。
 そしてマスクをずらし、顔を近づけてくる赤井。



『……本当に、そう思ってんの?』

「勿論。あまり胸を張れたものじゃないがな」

『…馬鹿じゃないの…』



 黒凪は顔を片手で覆い、ばっと踵を翻す。
 車に乗り込み、車の側でしゃがみ込んでいるコナンに声を掛けた。
 立ち上がったコナンを見た黒凪はアクセルを踏もうとしたが、運転席を覗き込む赤井に動きを止める。
 窓を開き、彼を睨む様に見る黒凪。



「…顔、真っ赤だな」

『……るさい。』

「返事は貰えないのか?」

『…あんたがその気なら、考えてやらんでもない』



 そう言えば、赤井はふっと笑って一言。
 「そうか」と言った。
 ふんと顔を背けた黒凪は窓を閉じ、ハンドルに手を持っていく。
 そしてまるで今まで赤井とは話していなかったかの様に平然とアクセルを踏み込んだ。
 その様子を見ていた赤井も同様に今まで黒凪と話してなどいなかったかのように歩き出す。




 胸を張って話せたなら。共に居られたなら。


 (お前は内側から)
 (俺は外側から)
 (確実に、奴等を潰す為に。)

 ((これが少しでも))
 ((彼女の弔いになれば、なんて。))


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