隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  規格外な上司

  キャメル成り代わりの赤井秀一オチ?
  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。

  ※夢主は女性です。



「黒凪捜査官、帰られていたんですね」

『え? ああ、うん』

「お疲れ様です」



 ありがとう、と笑顔を向けて廊下を歩いて行く。
 時折声を掛けてくれる若手達に笑顔を向けながら歩く廊下は居心地が良かった。
 自分も若い頃は色んな先輩に頭を下げて回ったものだ。
 そう言えばあの時なんて今までとは比にならないぐらい頭を下げて回ったなぁ。
 …なんて、ね。悲しい思い出だなぁ。



「お疲れ様です、黒凪捜査官」

『うん。お疲れ』

「帰ってたのか黒凪」

『お疲れー』



 お疲れ様です、だろう?
 低い声が聞こえてピシッと動きを止める。
 そしてゆっくりと振り返れば。
 目の前に孤を描いた口元を見つけた黒凪は飛び上がった。



『あ、赤井さん!?』

「随分ご挨拶な事だな。先輩に向かって"お疲れ"の一言か」

『お疲れ様です!すみません、ぼーっとしていたもので、』



 焦ってそう弁解すればぽんと頭に片手を乗せられた。
 ぐりぐり頭を撫でられ目を見開く。
 数年前のあの日もこうされた。
 …組織に潜っていた彼の作戦を全て台無しにした、あの時。
 何も言わなくなった黒凪に赤井が眉を下げた。



「お前はいつもこうすると反応が鈍くなる」

『…へっ!?すみません、何か言ってました!?』

「いや、何も言っていないが。…まだ気にしているのか?」

『!…そりゃあ勿論。償いきれませんよ』



 私が忘れたりしたらそれこそ洒落にならない。
 眉を下げた黒凪に赤井がふっと笑う。
 顔を上げれば彼は困った様に笑っていた。
 いつもこんな顔をしてくれる、この人は。
 私の所為で最愛の人を亡くしたこの人は。
 どうして私に対してそんなに優しくしてくれるのだろう。



『…本当にすみませんでした。それしか私には…』

「そんな事無いさ。…今回はあの時の罪滅ぼしに誘いに来たんだからな」

『?…誘う、とは』

「日本で奴等を追う事になった。…手伝ってくれないか?」



 目を大きく見開いた。
 私が行っていいんですか?そう言った黒凪に赤井が笑う。
 行かないっていう選択肢はないのかって?
 行くしかないでしょう、この前のミスを挽回しなければ。



「荷物をまとめておいてくれ、2日後に日本に向かう」

『はい!』

「…前向きなのはお前の良い所だ」

『!…それしか取り柄、無いんですよ。』



 おっちょこちょいだし頭悪いですし。
 でも次こそは絶対失敗しませんから。
 そう言って意気込んだ黒凪に赤井が車の鍵を投げ渡す。
 意味は分かるな?と言った彼に黒凪が頷き赤井の隣に並んだ。



『何処まで?』

「少し遠いんだが、」

『…え、こんな所まで何の御用で…』

「ちょっと野暮用だ。1時間以内に行きたいんだが」



 はい、と一度返事を返してもう一度地図を覗き込む。
 え。まって無理じゃない?この距離で1時間は無理じゃない?
 ばっと赤井を見上げる。
 彼は無理は承知だが、と言う表情をしていた。



『…間に合わせろ、と』

「ああ」

『だったらこんな所で流暢に歩いてる時間が惜しいです!ほら走って!』

「お前のドライブテクならどうにか」



 なりません!そんな事を言い合いながら走る。
 手を掴んで走れば「走るなよー」なんて声を掛けられた。
 ごめんなさーいと言いながら走ればぐっと手が握られる。
 ん?振り返れば急に赤井が速度を一気に上げた。
 逆に引っ張られる形になった黒凪は思わず「え゙」と声を発する。



「さっさと行くんだろう?」

『あ、ハイ…』

「なら走れ。今以上に速く」

『…あの、これが限界…』



 思い切り腕を引かれ転びかけながら走る。
 この人他人を引き摺りながらなんて速度で走るんだ。
 数分で車の元へ辿り着き赤井は助手席にドカッと座った。
 残り50分。車を動かしながら時計を見る。
 隣では赤井が悠々と珈琲を飲んでいた。



『…もう』

「ん?どうした?」

『……いーえなんでも。何が何でも1時間以内に辿りつきたいなーと思いまして』

「間に合わせてくれよ?」



 チラリと赤井を見て思い切りアクセルを踏む。
 ぎゅん、と速度を出して狭い道などを駆使して走り続ける。
 大体の地図は頭に入っていた。
 赤井は珈琲を飲みながら過ぎ去る景色を見て目を細める。



「相変わらず良い腕だな黒凪」

『なんせ必死なもんですから』

「人間、本気になれば大抵の事は出来るさ」

『…ちなみに残り何分ですか?』



 30分だな、と言った赤井に更に速度を上げる。
 くそー…なんで私上司の用事の為にこんなに必死になってるんだろう。
 こりゃ日本に行っても同じだな。
 寧ろ死にかけたらどうしよう。やばいかな。
 ああどうなる私。




 波乱の幕開け?


 (赤井さんって私の疫病神みたいな人なんだよなぁ)

 (黒凪。奴等を撒く事は可能か?)
 (…こんなに大きな車体でバイクを撒けと?)
 (ああ。出来るだろ?)

 (私は確信した)
 (この人が任される任務自体が規格外なんだって)


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