隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  犯罪はご法度、ですよね

  江戸川コナン成り代わりの赤井秀一オチ。
  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。

  ※夢主は女性です。



 どうぞ。
 随分とすんなり開かれた扉に思わずギクッとした。
 それでも意を決した様に黒凪は眼鏡をくいと上げ中に入る。
 ガチャリと閉められた扉は部屋の主らしいシンプルなものだった。
 奥に進んで行ってもシンプルなのは変わらない。
 家具も必要最低限の物だけだった。



「狭いが勘弁してくれ」

『全然狭くないですよ?』

「…君の家は調べてあるんだ」



 やっぱり。まず頭に浮かんだのはこの言葉。
 すると彼は予想していた通り「あれ程の豪邸と比べるとな、」と困った様に言う。
 流石はFBI捜査官、やはり抜かりはない。
 これから共に動こうと言う相手に対して徹底的に調べ上げる。
 …恐らく此方に声を掛けるまでに全て調べ上げていたのだろう。



「不快にさせてしまったのなら…」

『不快になんてなりません。…協力関係にある相手の事を何も知らないなんて致命的ですから』

「…ちなみに諜報活動の経験は?」

『全く無いです。』



 にっこりと笑って言った黒凪に赤井も少し笑った。
 目の前に出される珈琲。
 その色は何処までも黒く砂糖やミルクは全く入っていないのだと判断できる。
 彼の趣味もあるのだろうがその珈琲はまるで自分を同等の人間だと認めている様にも見えた。



『頂きます』

「あぁ、すまない。砂糖は――」

『大丈夫ですよ、ブラックの方が好きです』

「…それは良い。仲良くなれそうだ」



 目の前のソファに座り珈琲を煽る赤井。
 何の模様も無いシンプルな白いマグカップは彼によく似合っていた。
 珈琲を飲んでほっと息を着くと今まで気にならかった事に気が付いて行く。
 まず煙草の香り。かなりきつく部屋に染み付いているという事は彼はかなりの愛煙家だと言う事。
 次に調味料や包丁などと言った調理器具が全くないと言う事。



「…台所が気になるか?」

『はい。…赤井さん、カップ麺や冷凍食品ばかり食べてるでしょう』

「あぁ。体に悪い事は重々承知だが料理が出来なくてな」



 台所の側に置かれているビニール袋には大量のカップ麺。
 あれでは嫌でも体調を崩してしまう。
 自分も1人で過ごしていた時は時々カップ麺に頼っていた事もある。
 しかし蘭の家に居候する様になってからは冷凍食品はほぼ食していない。



『…。本題に入りましょう、赤井さん』

「そうだな。…改めて、俺は赤井秀一。組織に潜入していた事がある。」

『私は江戸川…いや、工藤黒凪です。FBIの人と話すのはジョディ先生達以来ですね』

「ジョディも言っていたよ。頭のキレる小学生が居るとな」



 あはは、と困った様に笑う。
 あぁ、この人には子供らしい愛想笑いもいらないんだ。
 ふとそう過った。



「君とは対等の存在でありたい。そうだな、例えるなら…」

『相棒。』

「ん?」

『あ、でもFBIの人と相棒だなんて私が釣り合わないですね。うーんと、』



 いや、それで良いと思う。
 笑顔で言った赤井に目を向けた。



「俺達は相棒だ。…何があっても君だけは裏切らない事を約束しよう」

『約束しちゃうんだ、』

「あぁ。この先腹を割って話す相手は君だけだと決めている」

『…そんなに信用して大丈夫なんですか?』



 時には信用しないと信頼出来る人間が皆無になってしまう。
 困った様に言った赤井に少し眉を上げた。
 そして数秒程考えて黒凪も目を伏せる。



『丁度私も欲しかった所です。…一緒に無茶をしてくれる人が』

「同感だな」



 顔を見合わせて笑いまた珈琲を飲み込んだ。
 程よい苦みが口の中に広がる。
 ほっと息を着いた黒凪に徐に赤井が体を前に出し彼女を覗き込んだ。



「だが1つだけ君にも約束してほしい事がある」

『?』

「君の姿は小学生。無茶をすると言っても限度はある」



 その限度は理解している筈だ。
 静かに黒凪が頷いた。
 無事に帰れると確信出来る範囲での無茶は容認するつもりだ。…だが、



「君の手に負えない事は必ず手を引く事。…俺が君の元に到着するまではじっと耐えて欲しい」

『…その為の赤井さんですもんね』

「その通りだ。…そして大人である俺が出来ない範囲の事は君に全て任せる」

『はい』



 よし。…それでこそ相棒だ。
 差し出された拳にコツ、と小さな拳が合わさった。




























「…無理をするなと再三忠告した筈なんだがな…」

『これぐらいならどうにかなると思ったもので。』

「いや、明らかに君の範疇を越えている筈だろう。」



 だから赤井さんを呼んだんですよ。
 俺の範疇は組織に対してのみだ。
 呆れた様に言った赤井にニッと笑顔を見せた。



『ほら、来ましたよ』

「…全く」

「ん?…はぁ!?」

『こんばんは。』



 パチッと片目を閉じた黒凪に顔を青くさせたキッド。
 お、おま、此処は…!
 そこで言葉を止めたキッド。
 彼と2人が居る場所はビルの側面だ。



『此処で仲間が迎えに来るのを待つんでしょ?』

「…んだよ、お見通しってか…」



 だったら…!と胸元に手を差し込むキッド。
 しかし一瞬の差で先に赤井が拳銃を取りだした。
 え゙、と固まるキッド。
 赤井の鋭い眼光がキッドを貫いた。



「さて、どうする?」

「…警察の人?」

『違うよ。…私のパートナー。』

「ぱ、」



 此処まで無茶をしているんだ、捕まってくれても良いだろう。
 目を細めた赤井にだらだらと冷や汗が止まらない。
 今のキッドの状況はビルにワイヤー1本でぶら下がっている状況だ。
 赤井と黒凪の場合は赤井にワイヤーが括り付けられ黒凪が抱きかかえられているという状況である。



「い、いやいやいや!流石にこんな所で撃ったら…」

「勿論撃つ気はないさ。…撃たせないでくれよ?」

「は、はは…」

『だいじょーぶ。キッドが動いたらまずは私が麻酔針を撃つから。』



 どっちの方が有利かは、…分かるよね?
 ニヤリと笑って言った黒凪にまた渇いた笑みを溢す。
 そうこうしていると徐々に警察達も集まって来ている様で足元で「キッドー!」と中森警部の声が響いた。
 するとキッドが一瞬其方に目を向け息を吸う。



「こっちですよ、中森警部!」

「何ぃ!?」

「『!』」



 真夜中にキッドを探していた警察の目がビルに向かった。
 止む無く拳銃を仕舞う赤井。
 それと同時にパッと眩い光がキッド達を照らした。
 その様子に目を見開いた黒凪は眉を寄せる。



『しまった、キッドが…!』

「!」



 光に目が眩んだ一瞬を見逃さず姿を消したキッド。
 上空を飛んでいない所からビルの中に入り込んだか、と周りを見渡した。
 すると少し下の辺りにベランダの様な位置があり中に入れる扉がある。



「随分と手際の良い男だな」

『赤井さん、急いで下に…!』

「いや、今日の所はこれぐらいにしておいた方が良い」



 あれだけ警官がビルの中に入っては奴を特定する事は難しいだろう。
 下を見ると大量の警官達がビルの中へ入る様子が確認出来た。
 それに俺もあまり目立つわけにはいかないんでな。
 薄く笑った赤井が黒凪を抱え直しワイヤーの長さを短くしていく。
 エレベータの様に登って行く状況にため息を吐いた。



『確かにこれ以上の深追いは無駄でしょーね…』

「なんだ、拗ねてるのか?」

『いえいえそんな。…ただ、』



 顔を上げた黒凪に習って赤井も顔を上げる。
 上空をハンググライダーでキッドが飛んで行く様が見えた。



『また逃がしちゃったなぁと思いまして。』

「幸運な事に奴の出現頻度は高い。…気長にやれば良いさ」

『あ、他人事だと思ってる。』

「はは、ばれたか」




 ピンチヒッター


 (赤井さん、今から私の言う場所に来れませんか?)
 (はぁ…君は俺をなんだと思っているんだ?)

 (…嫌がってたくせに来てくれるんだね)


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