隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  犯罪はご法度、ですよね

  江戸川コナン成り代わりの赤井秀一オチ。
  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。

  ※夢主は女性です。



『…疲れたぁ』



 ずーん…とソファに寝転んで頭をクッションに押し付ける。
 不思議な事に彼女の周りでは偶然では片付けられない程に事件が頻発していた。
 今日で連続5日目だ。盗難事件に密室殺人、奇妙な事故に連続殺人…。
 その他にも色々と事件が頻発している。



『……。もしかして死神って私の方だったりして…』



 以前に目暮警部が小五郎を死神呼ばわりしていたが、今のとなっては自分がその死神なのではないかと本気で疑ってしまう。
 自分自身が事件を引き寄せているのなら回避する方法は無い。
 …まあ、自分が居ない所で可笑しな推理をされるぐらいなら其方の方が良いかもしれないが。



『…うー…』



 それにしても疲れた。心が折れそうだ。
 死体には慣れているし、難解な事件ならどちらかと言うと心が躍る。
 しかしそんな事が立て続けに起きてみろ、私の体力は限界だ。
 むすっと顔を顰めたまま携帯をいじり、ふと浮かんだ顔に動きを止める。



『(…なんでだろう、赤井さんと話したくなってきた)』



 まああの人はどんな状況でもテンションを変えないし、考え方も変わらないし。
 こんな風にすぐに疲れてしまう自分とも事件で簡単に心躍る自分とも違うあの人をリスペクトしたい部分は大きい。
 …だからこそ今のこの状況についての話をしてみたい。…のかもしれない。



『……。(えいっ)』



 赤井秀一と記された画面の通話ボタンを思い切って押した。
 そしてドキドキしながら通話に出るのを待てばやがてコール音が止まり「留守番電話に――」と続いた無機質な女性の声にすぐさま通話を切る。
 …そりゃそうか、と眉を下げた。
 FBIの捜査官であるあの人が暇な筈がないし、今だって何処かに潜入していたりするのかもしれない。
 普通は携帯の電源を切っていても可笑しくない様な職業の人だ、何度か鳴るコール恩にわくわくした時間だけでも十分だろう。



『…。』

何ぃ!?近くの道で転落事故だあ!?

ちょ、お父さん!?

『…はあ…』



 ほうら、また来た。
 気だるげに身体を起こして外に出る。
 徐に周りを見渡せば確かに少し離れた場所に人だかりが出来ていた。
 そこに突っ込んでいく小五郎の背中にため息を吐いて身体の小ささを利用して人混みを進んで行く。
 そうして本日の事件の謎解きが始まったのだ――。





























『…疲れた』

「あ、疲れちゃったの?黒凪ちゃん」

『んー…』

「さっさと風呂に入って寝ろってんだ。」



 項垂れる黒凪を横目にそう言って去って行った小五郎をじとっと睨む。
 そんな黒凪に蘭がタオルを渡して「先に入ってるね」と風呂場に向かっていった。
 それを見送り徐に携帯を開く。今は20時、そろそろあの人の仕事も終わってるんじゃないだろうか。



『……。』



 昼間に押したボタンは随分と軽い。
 ぽちっと押して携帯を耳に押し当てた。
 …不思議だ、電話を掛ける事への緊張は消えたのに応答を待つドキドキは変わらない。
 数秒の後に切れたコール音にドキッとする。先程よりも随分と早くコール音が切れた。



≪黒凪か?悪いが今は忙しい、車で帰ってる最中なんだ。急ぎか?≫

『あ、いえ。また後で掛けます』

≪悪いな。22時ぐらいなら電話出来る筈だ≫

『はい。忙しいのにすみません』



 切れた通話に携帯をじっと覗き込む。
 随分と焦った声だった。あの人には珍しく畳み掛ける様に掛けられた声に此方も焦ってしまったではないか。
 と言うか急ぎの用だと思われてるんじゃないかな、私の所為で急いで帰ろうとしたりしないと良いな。
 …私のちっぽけな相談を聞いたら"なんだそんな事か"って落胆するんじゃないかな。



「黒凪ちゃんー?お風呂入らないのー?」

『あ、今入るよ!』



 携帯を置いて急いで風呂場へ向かう。
 焦った気持ちを風呂場で落ち着けよう、それが良い。
 そんな事を考えながら風呂場に入ればにっこりと笑った蘭が迎えてくれた。



「今日の事件はすごいトリックだったね。」

『うん…。でも流石おじさんだよ、真犯人を見つけて捕まえちゃうなんて!』



 にこにこと笑ってそう言えば蘭も「うん!」と嬉しそうに笑って頷いた。


























 …22時5分。
 そろそろ大丈夫なんじゃないだろうか。
 足を抱えて携帯を持ち、画面を覗き込む。
 軽く操作すれば画面に"赤井秀一"と表示された。



『……。わっ!?』



 携帯が突然着信を知らせた。
 驚いて画面を見ると変わらずそこには"赤井秀一"と記されている。
 すぐさま通話ボタンを押して耳に押し当てると「あぁ、出たな」と少し安堵した様な赤井の声が聞こえた。



『こ、こんばんは』

≪あぁ、こんばんは≫

『…えー…と、』

≪電話をすぐに取れなくて悪かったな。≫



 い、いえ!突然電話した私も悪いですし!
 焦った様に言えば小さく笑って「そうか?」と赤井が言った。
 あれ、なんだか今日は声色が優しいな。
 電話だからかな、そんな事ないよね。



『今日もお仕事お疲れ様です。FBIも忙しいですよね』

≪何年もやってるんだ、それ程苦痛じゃないがな。…君こそ疲れてるんじゃないのか?≫

『!』

≪俺が聞ける範囲の話なら聞いてやれるが…≫



 わ、見抜かれてる。
 そう思った瞬間に顔に一気に熱が集まった。
 すごいなあ、大人の人は何でも分かるんだ。
 …私はまだ子供なんだなぁ。
 微かに眉を下げて口を開いた。



『最近事件が多くて、ちょっと疲れちゃったんです。…ただそれだけで』

≪ほう。それは災難だったな≫

『これで3日連続ですよ?もう私死神なんじゃないかって思っちゃって』

≪何言ってる、自分を卑下する様な事は言うな≫



 目の前の事件を放り出さない君は死神なんかじゃないさ。
 …そう、ですかね。そう返せば「あぁ」とはっきり赤井が言った。
 思わず笑みが零れる。えへへ、と笑えば「ん?」と向こう側からも笑っているかのような返答が返る。



『…赤井さんがいつも側に居てくれたら事件だってすぐに解決するんですけどねえ』

≪そうか?俺より君の方が推理力は上だろう?≫

『何言ってるんですか、もう。私なんてまだまだですよ。…赤井さんが居ないともうなんだか駄目で…』



 本当、私って1人ぼっちだったら無力なんですよね。
 窓から月を見上げてそう言うと「随分と疲れてるな」と赤井の呆れた様な声が聞こえてくる。
 しまった、ちょっと自虐的過ぎた?



≪いつでも会える。もう少し踏ん張れ≫

『…はい』

≪君が限界を迎えるまでには会える筈だ。また俺が連絡を入れる≫

『…はい。』



 じゃあそろそろ切るぞ。早く眠ればおのずと体力も回復するさ。
 はい、と返事を返せば「ちゃんと眠れよ」と念を押す様に言った赤井に小さく笑う。
 分かってますよ。そう言えばやっと納得した様に「あぁ」と返答が返り通話が終了する。



『(…15分も経ってる)』

「(なんだ、あれだけ話して15分か)」




 早く時間が進むとき


 (…通学路に車が止まってたりしないかなあ)
 (今頃は学校で勉強中だろうな…)


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