隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  美しい花にはがある 

  寺井黄之助成り代わりのオチ未定。
  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。

  ※夢主は女性です。



 坊ちゃん。準備は整いました?
 顔を覗かせた女性にグッと親指を立てる。
 その様子を見た女性はにっこりと笑った。
 彼女が深くかぶる帽子からは手入れされた白髪が覗いている。



『では行きましょうか。本日も予告通りにお願いします。坊ちゃん』

「だから坊ちゃんは止めてって。じいちゃん。」

『坊ちゃんこそじいちゃんは止めてください。苗字が寺井だからって。』

「えー。父さんも面白がってそう呼んでたから抜けねーんだよ、今更。」



 歳を取った今、本当に洒落にならないんですよ。
 眉を下げて言った黒凪に怪盗キッドがニヒヒと笑った。
 野次馬の車が集まる中を目立たぬ程度に抜けながら予告の場所へ急ぐ。
 白髪が風で揺れる。確かに彼女も年を取った。…筈だ。



『あ。』

「おっとっと、」

『すみません。帽子が飛んでしまいました』



 バックミラーを覗く。
 そこに移る女性はどう見ても20歳ぐらいの女性だ。
 ほんっとどうなってんだろ…。
 目を座らせてじっと眺める。
 彼女が年を取った象徴と言えば完全に色の抜けた白い髪。
 しかしその美貌と合わせるとプラチナブロンドの綺麗なお姉さんだ。



「…じいちゃん、何歳だっけ」

『何度言えば良いんですか…。72歳ですよ。』



 歳を取りましたねぇ…うふふ。
 そんな事を呟きながらハンドルを回した。
 やがて予告を出した建物の側に車を止め彼女は怪盗キッドに手を伸ばす。
 帽子を受け取った彼女は深くかぶりまた笑みを見せた。



『さて。行きましょうか』

「…うん」



 にっこりと笑ってもその頬に皺なんて浮かばなくて。
 ワイヤーでビルを登って行く怪盗キッドを黒凪は見送った。
 さて。と彼女が車を覗き込む。
 そこには怪盗キッドの服装がもう1着入っていた。



























『では成功を祝いまして、乾杯。』

「かんぱーい。」

『坊ちゃんはオレンジジュースです。』

「…デスヨネー」



 優雅にワインを傾ける黒凪を横目にオレンジジュースを喉に通す。
 やっぱり今夜の彼女の活躍ぶりからも72歳だなんて思えない。
 何せ…。



《怪盗キッドだ!追えー!》

《(お、じいちゃん上手くやって…)》



 次の瞬間に見えた光景に目をひん剥いた。
 彼女に囮を任せる事は度々あったがその様子を実際に目にするのは今回が始めて。
 彼女はバク転やら側転やらを難なくこなしニッと警部達に笑顔を見せているではないか。
 …なんて事だ。あれじゃあ確かに本物だと勘違いするに決まってる。



「(あの囮が72歳のおばーちゃんだとは誰も思わねえよな…。つかありえねーし。ありえてるけど)」

『今日も来ていましたねえ、あの小さな名探偵。』

「ん?あー…居たなぁ」

『彼だけが私が偽物だと何度も何度も…。若さが足りないんですかねぇ。』



 いやいや、と快斗が眉を下げて言った。
 そんな快斗ににこりと笑ってワインを飲む黒凪。
 黒凪を横目に「んー…」と快斗は呟きながらオレンジジュースを傾ける。
 でも確かにあのガキンチョには毎回毎回囮がばれちまう。どうしたもんか…。
 次は会わないと良いですね。坊ちゃん。
 笑って言った黒凪に頷いた。…のが、つい1週間前だ。



「今回は見逃してやるよ。…ただ、その見返りとして協力してほしい」

「協力ぅ!?」

『………。』



 ミステリートレインにて潜入していた2人は目の前の少年、コナンが言った言葉に顔を見合わせた。
 暫しの沈黙の後にふっと笑った黒凪。
 コナンは「ん?」と片眉を上げた。



『やってあげれば良いんじゃないですか?』

「お、おいおいしゃべるなよ…」



 女性に扮しているキッドがその声色のままそう注意した。
 中年女性に扮しているのがキッド、車椅子に乗っている老婆が恐らくキッドの協力者。
 キッドの言葉から声色は変えられないようだし、声の通り女だと推測できる。
 老婆はコナンを見るとにっこりと笑った。



『但し。』

「?」

『この列車に乗っている゙黒い鴉゙に我々の事が勘付かれなければ、ですがねえ』

「!?」



 コナンが大きく目を見開いた。
 どうなんです?と老婆が目を細める。
 何故その事を、そんな言葉を飲み込み何も知らない様子のキッドを横目に口を開いた。



「も、勿論大丈夫…。キッドにはとある人物に化けてもらうだけだから。」

『あらそう。なら構いません』



 でも覚悟しておいてね。
 声は年配の筈だ、なのに何故こんなにこの人に対して違和感を覚えるのか。
 恐らく今の姿は本当の姿ではない。それか?いや、



『キッドに何かあれば貴方を殺します』

「(…誰だ?)」



 誰かに似ている。
 何故かは解らない。…けれど。
 確かに何処か、誰かに。



『ではどうぞ、キッド』

「…1人で逃げられるのか?」

『勿論ですよ。お気になさらず』



 笑った黒凪を横目にコナンと共に歩き出すキッド。
 黒凪は車椅子を動かし個室に入ると変装を解きすぐさま他の変装に切り替える。
 キッドの変装は黒凪の居る部屋の隣で行われた。
 ほぼ同時に姿を見せるキッドと黒凪。
 コナンは横目で黒凪を見て目を見開いた。



「(ベルモット――!?)」

「勘違いすんなよ。あれも変装だ」

「!」

『ではキッド、また後で』



 変装だと分かっているのにやっと声と姿が一致した様な気がした。
 去っていく姿は50代程の美しい外国人。
 コナンは依然目を見開いてその背中を見ている。
 すらりと高い背に金色の長髪、白い肌の美しい女性。
 その姿は恐ろしい程に宿敵ベルモットにそっくりだった。




 謎多きオバサマ


 (なあキッド)
 (んあ?)
 (あの人は一体…)
 (あー…。俺の大事な相棒ってトコかな)
 (そ、そうか)

 (だがさっきの姿は)
 (まるでベルモットの姉や母親の様な…)


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