隙ありっ Short Stories
□探偵作品関連
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―――鈍器で思い切り頭を殴られたようだった。
それぐらい、衝撃だった。
初めて会った時、初めて目があったあの時。
不思議気にこちらを見上げる大きな瞳に、まず思った事は己を工藤宅まで連れてきた工藤有希子に似ていると思った。
そして次に、綺麗な子だと。そう思った。
「……何?」
≪何度でも言ってやるさ、お前が殺したあいつには婚約者がいた≫
「……、」
≪…婚約者はまだ高校生だったんだぞ?≫
彼女がどれだけ悲しんだと思っている!
その言葉が再び頭に響く。
高校生。婚約者。…公安。
脳裏に黒凪が浮んだ。
まださほど仲も良くなかった頃。
《婚約者?》
《ええ。…ま、貴方には関係ない事ですけど》
《…そうか、》
励ます言葉も、何も掛けてやれなかった。
公安所属だったという黒凪の婚約者。
殉職したと聞いた。
自分の職業も決して関係が無いとは言い難い。
彼女が俺に話した理由はこれ以上近づいてくるなと、そういう意味だと思っていたのに。
「(…まさか)」
《貴方には関係ない事ですけど》
携帯を閉じた赤井はキャメル、と声をかけた。
はい、と返事を返したキャメルはすぐにハンドルを切り、車を走らせる。
赤井は無表情のまますっと空を見上げた。
…そう言う事か、黒凪。
「(あの言葉は俺への当て付けだったんだな)」
「―――寝ちまったのか?黒凪」
「ああ。相当疲れたようだな」
ぷつ、とコナンが徐に防犯カメラの電源を落とす。
それを見た優作は変装を解き、にっこりと微笑んだ。
久々に会った2人は会えなかった日を埋めるように当たり障りない会話を始める。
そんな時、急いで工藤宅に帰ってきた赤井はリビングに入り、黒凪を見つけるとぐっと眉を寄せた。
『……、』
「…黒凪」
『…んー…』
「……寝てるのか?」
そんな風に声をかけながらしゃがみこむ赤井。
おい、と耳元で声を掛けるが起きる気配はなかった。
あどけない寝顔にぐっと胸が締め付けられる。
それと同時に降谷の言葉が過った。
「…まだ、高校生だったな」
『………』
「(…悪かった、)」
くそ、と髪をくしゃりと掴み黒凪に顔を近づけた。
一瞬躊躇したが、眠る黒凪にキスをした。
流石に目覚めたのか、黒凪は薄く目を開く。
するとすぐに見えた赤井に驚いたのか、黒凪は大きく目を見開いた。
『…え。沖矢、さん』
「……今は赤井だ」
『赤井さん…。じゃなくて!』
がばっと起き上がる黒凪。
すると間髪いれず赤井が黒凪を抱きしめた。
ぎゅう、と強く抱きしめられた黒凪は「え?」と混乱した様子で赤井を見る。
そして頭が冴えた黒凪は動きを一瞬止めると徐に彼の背中に手を伸ばした。
『…わかっちゃったの?ま、降谷さんがあそこまでヒント出したんだもんね』
「……悪かった。知らなかったんだ」
『うん、』
「でも俺は、」
うん。と頷く。
赤井はためらう様に言葉を止めて、かすれる声で言った。
「好きなんだ」と。
その言葉に涙を零した黒凪はうん、と頷いて赤井にすり寄る。
「初めて会ったときから、」
『うん』
「…ずっと、今まで。」
『……うん。』
私も。
たった一言の返事。
それだけでも十分だった。
その一言に色んな重みがあった。
たった一言で埋まってしまうもの
(これでよかったのかな?)
(…それで良いんだよ)
(……。ありがと。)
(貴方の事も、大好きでした。)
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