隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  血の繋がりがなんだってのよ。

  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。
  赤井秀一とその妹のお話。



 帝丹小学校1年B組、出席番号29番羽田黒凪。
 彼女の前の出席番号である灰原哀は黒凪ととても仲が良い。
 その理由は2人が何処か似ている…基"気が合う"為である。
 羽田黒凪と言う女子生徒は寡黙で無表情。頭が良く運動神経も抜群、おまけに美人。
 彼女の特徴を上げれば大抵が灰原と似ている事は頷ける。



「…え?」

『……』



 思わず出た声が沈黙の中に溶けていく。
 此処は病院の一室。コナンはFBIと協力して水無怜奈をこの米花中央病院に匿っている最中だ。
 その最中に、コナンは水無怜奈の病室と間違えてとある病室の扉を開いてしまった。
 そして病室のベッドの上で本を読んでいた羽田黒凪と鉢合わせたのだ。



「(入院してるのは知ってたけどよりにもよって"ここ"かよ…!)」

『…ねえ。悪いけど入るか入らないかにしてくれる?』

「え、あ、…ハイ…」



 とりあえず中に入ってまた後悔。
 出て行けばよかったのになんで入るんだよ俺ー!
 わーっと頭の中だけで暴れているとちらりと彼女の冷たい目が此方に向けられた。
 彼女の手にあった本は閉じられている。



『で、何?…お見舞いなわけないわよね。さっきの顔だと』

「う、うん。…えっと…」

『……。誰かのお見舞いならさっさと済ませて帰りなさい。今此処はちょっと危ないから』

「…え」



 危ないってなんで。…まさか、
 一瞬だけ過った可能性に頭を横に振った。
 いやいや、知ってる筈がない。
 今この病院で誰を匿っているか、…何が起ころうとしているかなど。


















 あたふたと焦る同級生を呆れた様に眺めて再び本を開く。
 羽田黒凪は現在帝丹小学校に在籍している小学1年生。
 しかし彼女の実年齢は18歳。では何故小学生の姿なのか。
 それは彼女が謎の組織によってAPTX4869を飲まされた人物であるから。



『……。』



 彼女の兄弟には長男に赤井秀一、次男に羽田秀吉、妹に世良真純が居る。
 全員の名字が違う中で唯一次男と同じ苗字を名乗っているのが黒凪だ。
 その為に現在彼女は次男である秀吉の元で暮らしている。
 だがつい一週間前に事故に遭いこの米花中央病院で入院しているのだ。



《やあ黒凪。調子はどう?》

《普通。》

《そっか。…そう言えば日本に兄さんが来てるの知ってる?》

《え、知らない…》



 黒凪の事を兄さんに連絡しておいたし、もしかしたら手が空いたら来てくれるかもよ。
 そう言っていた兄の言葉はすぐに現実になった。
 秀吉が見舞いに来た3日後に秀一が姿を見せたのだ。…しかしその様子はただ見舞いに来ただけではない様だった。



《悪いな黒凪。今組織の人間をお前の病室の隣で匿ってる》

《え゙。》

《あまりお前に迷惑はかけないつもりでいるが、お前も組織に関わった人間だからな…》



 時間が空けば様子を見に来る。お前も十分気を付けてくれ。
 …そう長男である秀一が言っていた。
 だから黒凪は迷い込んだコナンに向けて言い放ったのだ。
 早く去れ、と。…しかし此処で予想外の事が起きた。



「コナン君?…あら、コナン君こっちへ来るって言ってたんだけど…」

『!(…ジョディさん…?)』

「あ、ジョディさん、僕は此処…」



 慌てた様に扉へ向かって行くコナンの背中は私の前から逃げる口実が出来たと喜んでいるようだった。
 しかし彼が扉を開いた瞬間に見えた人物はその扉を開けようとしていた秀一で。
 わ、と目を見開いたコナンは此方を驚いた様に見下す秀一に目を向ける。



「あ、赤井さん…。病室は隣、」

『秀一!』

「…え?」

「すまないボウヤ、少し待ってくれ」



 コナンの横を通って中に入っていく秀一。
 え、…え?と目を見開いたコナンはそんな秀一について行き顔を覗かせた。
 嬉しそうに両手を伸ばす黒凪に秀一が手を伸ばし、ぎゅっと黒凪が彼に抱き着く。
 ええええ!?と目をひん剥いたコナンに秀一が黒凪を抱きしめたままで目を向けた。



「悪いな、会った時は抱きしめるのが習慣なんだ」

「(抱きしめるのが習慣…!?)」

「大方病室を間違えたんだろう?…こいつは妹でな。偶然にも隣の病室で入院していたからよく見舞いに来てたんだ」

「え、妹…えええ!?」



 混乱している様子のコナンに眉を下げて身体を離した妹の側に立ち彼女の頭に片手を乗せる。
 妹の黒凪だ。どうだ、似てないだろう。
 薄く笑って言った秀一と黒凪は確かに似ていない。



「こいつは父親似でな。」

『そんな事はどうでも良いよ。…なんで秀一と江戸川君が知り合いなの』

「組織とのいざこざに彼も関わってる。随分と頭が切れてFBIも重宝していてな」

『…組織に関わってる…?』



 眉を寄せてそう言った黒凪にコナンの頭が更に混乱する。
 組織の事を平然と話すと言う事は彼女も組織に関わっていると言う事か?小学1年生の身で?
 そこまで考えて過った1つの仮説にドクンッと心臓が動いた。
 まさか、…まさか。



「…ボウヤ、俺達の前では君の事を隠さなくて構わない」

「っ!」

『……成程ね。同類か』

「…まさか羽田さんも組織の毒薬で…?」



 同時に頷いた秀一と黒凪にコナンが大きく目を見開く。
 そんなコナンの背後にある扉がガラッと開かれると彼は過敏に反応した。
 そして恐る恐る振り返るとそこに立っていたのはジョディ。



「…あら?コナン君」

「あ、ジョディ先生…」

「シュウは居る?」

「あぁ。どうかしたか」



 黒凪から離れて病室をジョディと共に出て行く秀一。
 残ったコナンと黒凪が顔を見合わせる。
 最初に口を開いたのは黒凪だった。



『秀一が紹介したとおりだけど、私は彼の妹。本当は今年で…えーと、18歳?』

「…俺は工藤新一、17歳…。」

『するっと年齢が出るって事は小さくされて間もないみたいね』

「!」



 私はこの身体になってもう3、4年ぐらい経つかな。
 秀一の他に兄が1人と妹が1人居るから皆に助けられて暮らしてる。
 無表情でつらつらと話す姿は秀一に似ている様な気がした。



『…秀一と一緒に捜査出来るなんてよっぽど頭が良いのね』

「いや、そんな事は…」

『謙遜は要らないわ。秀一に認められるだけ凄いわよ』



 ボウヤ、行くぞ。
 そんな声が扉越しに掛けられる。
 振り返ったコナンに「ねえ」と黒凪が声を掛けた。
 再び黒凪を見たコナンは彼女の表情に一瞬だけギクッとする。



『秀一と一緒に居られるからってあんまりいい気にならないでね。秀一に近付く奴は女も男も許さないから』

「あ、うん…」

『…ジョディさんと秀一が近付かない様に見張ってて。』

「え」



 良い?そう言って凄んだ黒凪に思わず「分かった」と返事をして病室を出る。
 …あれだけ露骨にされれば気付く。彼女が兄である秀一にどんな感情を持っているかなど。
 秀一達と外に出て車の元へ向かう。
 扉の側で秀一が顔を上げ、手を振った。
 顔を上げれば丁度真上辺りに黒凪の病室がある。



「…仲が良いんだね」

「ん?あぁ…。黒凪は兄弟の中でも特に俺に懐いていてな」

「("特に"どころじゃないと思うけど…)」



 病室から秀一に手を振る彼女の表情は恋する乙女そのものだった。
 色々と皆複雑な恋をしているものだ。
 正体を明かせずに好きな人の元で過ごしている自分と何処か似ている様な気がした。




 結ばれる筈のない恋


 (絶対に報われない恋をしてしまった苦しさは)
 (どれ程のものなのだろう)

 (黒凪、カステラ食べるか?)
 (食べる!)
 (そんなに嬉しいならまた明日も持って来るとしよう)
 (ありがと、嬉しい!)

 ((…キャラ違い過ぎねえ…?))


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