隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  恋せよ乙女!

  世良真純成り代わり。
  安室透寄り。恋愛要素薄め?



 ――お嬢ちゃんに夢はあるか?
 え?と目の前のベースに夢中になっていた黒凪が顔を上げる。
 さっき言ってたじゃないか。お兄さんが大好きで、お兄さんみたいになりたいって。



『(…あー…。…そうだ、確かに言った。)』



 何でお兄さんを追いかけたんだい?って聞かれた時に、そんな事を言った。
 って事は君の夢はお兄さんみたいになる事?
 続けて問いかけられて「うーん」と駅のホームの天井を見上げる。



『確かに兄さんみたいにはなりたいけど、…そうだなぁ…』

「女の子で定番って言ったら結婚とか?」

『あ、うん!結婚もしたい!』



 イケメンが良いなぁ…。金髪で、背が高くて。
 仕事が出来てお金持ちで…、
 ぽんぽん出て来るその結婚相手の条件に困った様に私を抱える男の人が笑っている。
 そうだなぁ、例えるなら。
 条件が多すぎてまとまらず思わず周りを見渡した時、丁度良く背が高く金髪の男の人が見えて指を刺した。



『こんな感じの人!』

「!」

「…ははっ、お嬢ちゃん男を見る目があるなぁ」

「?」



 怪訝な顔をして首を傾げる金髪の男性はどうやら後ろに居る人の知り合いの様だった。
 スコッチ。誰だその子は。
 金髪の男性がそう言う。…成程、この人はスコッチと言うのか。
 そう思ってギターを教えてくれていた男の人へ目を向ける。



「ライの妹なんだってさ。」

『ライ?スコッチ?…あだ名?』

「うん。あだ名だよ。」

『カッコいいね、あの人はなんて言うの?』



 そう言って再び金髪の男性を指差す。
 お、興味津々だなー。と笑ってスコッチが「あいつはバーボンって言うんだよ」と教えてくれる。
 バーボン?と呼びかけて首を傾げれば呆れた様に眉を下げてそのバーボンが小さく頷いた。



「君の言う通りにバーボンは金髪だし背も高い。おまけにイケメンだ」

『うん、カッコいい。』

「カッコいいってさ。」

「……ありがとう」



 バーボンが礼を述べると心なしか嬉しく感じた。
 後ろで笑うスコッチはどう見たってふざけている。
 それじゃあバーボンと結婚するかい?
 そう言ったスコッチにバーボンが「おい…」と声を掛ける。
 そんなバーボンを見て黒凪もスコッチの悪ふざけに加担する事にした。



『でも私はイケメンに釣られて愛の無い結婚はしないんだ。』

「お、良い事言うねえ。」

『だから私がバーボンさんと結婚するのは、バーボンさんも私を好きになってから。』



 バーボンさん"も"ってもう君はバーボンの事が好きみたいじゃないか。
 笑いながら言ったスコッチに「そうだよ!」と笑顔で言う。
 バーボンさんは格好良いから好き!
 …今ではあの頃の私はどうかしていたんじゃないだろうかと思う。
 初めて会った男に向かって何を言っているのか。



「だってさ。どうするバーボン」

「……」



 ほーら、困ってる。
 下の方からバーボンを見上げてそう考える。
 此処は夢の中の筈なのに随分と記憶に忠実だなぁなんて思った。
 …と言う事は次に掛けられるバーボンの言葉は…。



「分かった。もしも俺が君の事を好きになったなら結婚しよう」

『わー、本当!?』



 こんなの仕方がなく言ったに決まってる。
 結婚しないなんて言ってしまえば面倒な反応が返って来ると予測しての言葉だろう。
 でも夢見がちなあの頃の私には、それはとても嬉しい言葉で。
 それはもう――…



『…今でも夢に見るくらいに……』

「随分と大きな寝言だな。」



 ベッドの隅に座って携帯を操作するメアリーを見て起き上がる。
 しょぼしょぼする目を擦って大きな欠伸を漏らした。
 あの金髪のイケメンは今何処で何をしているのだろう。
 あの頃にもう成人だったならそろそろ30代ではないだろうか。



「今日は何処かへ行くんだったか?」

『園子ちゃんと蘭ちゃんに喫茶店に呼ばれてる。だから早く準備しなきゃなぁ…』



 もう一度欠伸を漏らしてのそのそと動く。
 そうして準備を済ませてメアリーを残して喫茶店ポアロへ向かった。
 中に入って既に座っている園子、蘭、コナンの元へ歩いて行く。
 店の中に居る店員の金髪に目が行った。
 店員が此方に向かって歩いてくる。…もう少しですれ違う。
 すれ違った店員にビタッと思わず足を止めて振り返った。



『え、あの!』

「はい?」



 振り返った男の人に目をゆっくりと見開く。
 金髪。背が高い。…イケメン。
 …あの、何か?困った様に笑って言った男性に「あの、」と声を掛けると「はい」と返される。
 …言葉が出ない。えっと、…あー…。



『…お兄さんっておいくつですか…?』

「…はい?」

「ちょっと世良さんどうしたのよ急に…。ナンパじゃあるまいし」

『うん、ナンパ…』



 ナンパなの!?とコナン達の声が重なる。
 あの、何歳ですか?
 驚く程に言葉が出て行く。まるであの夢の中の自分に戻ったみたいに。
 もう一度問いかけると「今年で29歳ですかね…」と男性が困った様に言った。
 黒凪はじーーーっと穴が空く程に男性を見つめると少し迷った様子で口を開く。



『…バーボンさん?』

「!」

「(ええ!?)」



 安室は表情を変えなかったがコナンは一気に顔色を変えた。
 どうして世良が知ってる!?その言葉がぐるぐると回る。
 バーボンとは黒の組織に潜入している公安である降谷零の組織でのコードネームだ。
 その名前を組織に関係のない彼女が知っている筈がないのに。



『…違いますか…?』

「えー…っと、僕は安室透と言ってバーボンと言うあだ名は…」

『……本当に…?』



 眉を寄せて顔を覗き込んでくる黒凪に「えっと…」と困った様に笑う安室。
 もー違うって言ってるでしょ!そう言って彼女を引きはがしてくれた園子に安室が内心で礼を言う。
 そうして引き摺られて行った黒凪を見送り、安室は小さく笑って目を伏せた。



「(全く、相変わらずだなぁ…)」

『絶対そうだと思うんだよ…』

「だから違うって!」



 コナンが安室に目を向けると安室は小さく微笑んだ。
 …とりあえずは大丈夫、と言う事だろうか。
 そう考えてコナンが黒凪に目を向ける。



「ねえ、そのバーボンさんって誰なの?」

『え、あぁ…。兄さんの友達のイケメンなんだけど…』

「…イケメン」

『うん。イケメン…』



 イケメン過ぎて昔告白してさあ。
 そう言った黒凪に「おおお…」と蘭や園子が少し引いた様子で言った。
 そんで結婚してほしいって言う話になったんだよ。
 真顔でそう話す黒凪にコナンも離れた場所で聞いている安室も呆れている。



『そしたらそのバーボンさんが言ってくれたんだよね。"もしも俺が君の事を好きになったなら結婚しよう"って』



 コナンの目が安室に向く。
 安室はすぐさま目を逸らした。
 …私を悲しませないために言った建前だってのは分かってるんだ。
 その言葉にコナンが黒凪に目を向けた。



『でもこう…燃えるわけよ』

「「燃える?」」

『本当に私に惚れさせてやろうって。』



 ぐっと拳を握って言った黒凪にコナンと安室が同時にがっくりと顔を伏せた。
 そんで結婚するんだ!絶対!
 笑顔で言う黒凪に「どーするんだよ安室さん…」と言ったコナンの視線がザクザク安室に刺さっていく。



『でもバーボンさんが本当にどうやったって見つからないなら…』



 黒凪の目がカウンターに立っている安室に向けられる。
 彼は少しギクッとした。
 ああ、また私は初対面の人に向かって何を言おうとしているのか。
 でも不思議とあの頃と同じ行動をとってしまう。…不思議と、あの頃と重ねてしまう。



『バーボンさんが駄目なら安室さんを狙いに行くね!安室さん!』

「え、ええー…」

「(この面食いめ…)」

「(せ、世良さんなんか凄い…)」



 園子と蘭が思わず呆れかえる中、黒凪はそう宣言すると安室ににこっと笑顔を向けた。
 恥ずかしげもなく自分が好きだ好きだと言う黒凪に思わず頬を微かに染め、再び蘭達に目を向けた黒凪にため息を吐く。
 …どうやら随分と面倒な人に好かれたらしい…。
 今は亡きスコッチに微かな恨みを抱きつつ、注文された珈琲を淹れる事に意識を傾けた。




 これぞ極限の面食い少女。


 (なんでそのバーボンさんが"好きになったら"なの?そんなに好きなら無理矢理結婚しちゃえばいいじゃない)
 (何言ってんの、それじゃあ愛が無いじゃん)
 (あんた愛まで求めてんの…)
 (愛の無い結婚なんてしんどいだけだろ?)

 (安室さんすげー奴に懐かれたな…)


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