世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  認めて、自分を


「おーい旦那。サソリの旦那ー」

「るせえ。今は傀儡のメンテナンス中だ、話しかけるな」

「ここ1週間ずっとそうじゃねえか!うん!」

「仕方ねえだろ。さっさと直さねぇと気分が悪い」



 それっきり無言になってしまったサソリに舌を打ってのそのそと地下牢から出て行く。
 そうして外に出たデイダラはイライラとした様子で部屋に引っ込んで行った。
 その様子を見ていた黒凪は暫し考えると小さく頷いてデイダラに声を掛ける。
 返事のない彼を辛抱強く部屋の前で待っていると観念した様に襖が開かれた。



「……。」

『…何さ、不機嫌な顔して。』

「何の用だ。うん」

『随分とストレス溜まってるみたいだし、一緒に任務でも行く?』



 もう此処に来て1週間。流石に起爆粘土で戦いたいでしょ。
 じっと黒凪を見ていたデイダラは少し目を逸らし考え込む様に黙った。
 その様子に「ね?行こうよ」と再び声を掛けると少しして小さく頷く。
 小さく笑った黒凪はじゃあ準備して、と声を掛けて部屋から離れて行った。
 そうして数分後、屋敷の入り口で待っていた黒凪の元にデイダラが現れる。



『あ、来た来た。…えっとね、今日の任務は暗殺で…』



 つらつらと説明し始めた黒凪の言葉を素直に聞くデイダラ。
 聞き終わると目的地を注げて黒凪が両手をデイダラに向かって伸ばした。
 その様子に眉を顰めて「なんだ、うん」とデイダラが怪訝に聞き返す。



『背負って。』

「は?」



 私運動神経が悪過ぎて足凄く遅いの。
 だから背負って、と両手を伸ばす黒凪にデイダラが露骨に眉を寄せる。
 そこで改めて感じた。目の前の少女は自分よりも随分と幼い姿をしていると。
 見た目の幼さには最初から気付いていたが、その言動や行動からどうしても年相応には見えなかったのだ。



『早く。じゃないと任務一緒に行けないよ。』

「…ったく…」



 背を向けてしゃがんだデイダラの首に腕を回し、デイダラが黒凪を持ち上げる。
 そうして共に目的地へ向かい始めた。
 道中でずっと無言のデイダラをじっと見つめ、黒凪が徐に口を開く。



『ね、暁に戻りたい?』

「…別に。そこまで暁に思い入れがある訳じゃねえからな…うん」

『ふーん。…まだ私達には慣れない?』

「…。」



 君、部屋に引きこもるかサソリの所に行くかだもんね。
 その言葉にもデイダラは何も返さない。
 暇なら私の所に来ればいいのに。
 そんな黒凪の言葉にチラリとデイダラの目が向いた。



『芸術の話とか色々と教えてよ。そりゃあサソリみたいに芸術性とか分からないから退屈かもしれないけどさ』



 ちょっとずつ理解していくつもりだし。
 そんな黒凪の言葉にデイダラが目を伏せた。
 それとも私の事は苦手?
 そう問い掛けた黒凪の言葉にゆっくりとデイダラが口を開いた。



「オイラはお前みたいな奴は嫌いだ。うん」

『私みたいなってどんな奴よ。』

「……」

『…君さ、私みたいに天才肌の奴が嫌いなんでしょ。』



 ぴく、とデイダラの眉が少し動いた。
 分かり易い…。
 思わず目を細めた黒凪。
 途端にデイダラと黒凪が同時に顔を上げる。



『…あ。』

「ふむ、間一族の暗殺者が来たと聞いておったが…」



 儂の様な老いぼれには子供が2人で十分だと?
 目を細め殺気を放った老人。
 その姿を見た黒凪は思わずと言った風に目を見開きその様子にデイダラが少し振り返る。



「顔見知りか?うん」

『…んー…遠い昔の知り合いって感じ…?』



 ガシャン、と低い音が響き渡る。
 その音と共に空高くにある太陽が覆い隠され巨大な影が2人を飲み込んだ。
 顔を上げた黒凪はそこに立つ巨大な兵器、黒兜に思わず渇いた笑みを浮かべる。



『はは、こっちに来てもそれ使うんだ。』

「これは禁術によって生み出された最強の戦闘兵器、黒兜」

『驚異的な再生能力を持つ途轍もなく頑丈な兵器。…だよねえ、冥安』

「?黒兜を知っておるのか、お主」



 きょとんとした冥安に眉を下げ、手始めに黒兜の腕を結界で囲み押し潰す。
 予想通り傷1つ付いていない腕に目を細め黒兜に攻撃の指示を出した冥安をチラリと見た。
 やはり"覚えている"様子はない。
 前世での記憶を持っている人間は今の所八割程知っているが、その中でもごく僅かな人物が記憶を無くしている事がある。
 冥安もその記憶を無くしている僅かな人物の1人らしく、前世で裏会所属の幹部だった事など今では全く覚えていないのだろう。



『デイダラ、あいつかなり頑丈なんだけど君の攻撃で傷付けられるかな』

「はっ、オイラの芸術を舐めるなよ。うん」



 そんなに頑丈ならC2だな…うん。
 ぼそっとそう呟き両手をポーチに突っ込んだデイダラは取りだした両手を重ね合わせる。
 そうして作り上げられた起爆粘土は龍の形をしていた。



「オイラの十八番、C2ドラゴンだ。おい間ァ、お前も乗れ。うん」

『間はうちにいっぱい居るから黒凪。』

「んな事はどうでも良いだろ」

『良くない。』



 そんな小言を交わしつつC2ドラゴンの上に乗った黒凪はデイダラと共に上空に飛び立った。
 冥安が黒兜を操りその巨大な拳が振り上がる。
 C2ドラゴンの口から大量の小型起爆粘土が地面に落下して行った。
 小さな起爆粘土は地面に潜る様にして姿を消し、振り上げられた拳に向かってC2ドラゴンの口から巨大な龍が発射される。



「喝ッ!」



 膝に龍が直撃した事で黒兜が体勢を崩し倒れ込む。
 するとすぐさま地面に埋まっていた地雷が発動し黒兜を爆発が飲み込んだ。
 その様子を黙って見て居た黒凪は振り上げられた拳を結界で弾きデイダラがすぐさま上空に逃げる。
 C2ドラゴンの爆発威力で破損した様だったが黒兜の驚異的な再生能力によって再生し始めていた。
 その様子を見たデイダラは舌を打ち何度か龍を発射する。



「…埒が明かねぇな、うん」

『そだねえ。…にしても動きが鈍いな、冥安も歳だから…、っ!』



 背後から迫った黒い大きな手。
 黒兜のものだと察知した黒凪は2人が乗るC2ドラゴンが掴まれた事を知るとすぐさまデイダラを振り返る。
 全く気配が察知出来なかった黒兜に反応が遅れデイダラは巨大な手にC2ドラゴンと共に掴まっていた。
 ばっと振り返ると冥安が不気味に微笑んでいて、その顔を見て眉を寄せる。



『(舐めてた、あの頃より全然性能が良い…!)』

「まずは1人じゃな。」



 ブンッと振り降ろされたもう1体の黒兜の拳。
 その拳を見ていたデイダラは思わず眉を寄せた。
 彼の視界の隅には振り返った黒凪が居る。



「(あーあ、こりゃ見捨てるな。うん)」

『っ、馬鹿!諦めるんじゃない!』



 はっと目を見開いたデイダラの視界に飛び込んできた黒凪が映り込む。
 彼女はデイダラを抑えている黒兜の指1本を結界で滅して彼を蹴り落とした。
 そしてすぐさま自分も離脱しようと動くが時既に遅く、振り降ろされた拳に呑まれていく。
 空中で体勢を立て直したデイダラは地面に着地し黒兜の攻撃で爆発したC2ドラゴンを見上げた。



「(…オイラを庇ったのか…?)」



 爆風と共に落下してきた黒凪の腕が地面にゴトッと落ちる。
 その腕を見たデイダラはゆっくりと己を見る2体の黒兜に眉を寄せた。
 どうする、逃げるか?
 逃げた方が良いに決まってる。
 何度攻撃を仕掛けても無かった事になるなら自分には不利だ。
 分かっている。分かっているのに、



「…チッ!」



 がばっと両手をポーチに突っ込みチャクラを練る。
 …君さ、私みたいに天才肌の奴が嫌いなんでしょ。と彼女の言葉が過った。
 そうだ、オイラはあの女が嫌いだ。気に食わねえ。
 気に食わなかったんだ、なのに。
 ぽん、と優しく叩かれた肩に目を見開いて振り返る。
 そこには先程死んだ筈の黒凪が立っていた。



『いやー、予備で持って来てた暁のコートが此処で役立つとは。』

「…それオイラのか、うん」

『ちょっと貸しててね。さっきので服バラバラになったから』



 その言葉を聞いて眉を寄せる。
 やはり先程死んだんじゃないのか。…なら何故生きている。
 口を開きかけたデイダラを遮るように黒凪が彼の肩に片手を乗せた。



『デイダラ、さっきの奴をもう1回黒兜の両足にぶつけて。1体ずつ確実に処理していく』

「…勝算はあるのか、うん」

『私が黒兜の額に触れたら勝ち。…ね、簡単でしょ。』

「…。…解った、懸けてやるよ。」



 両手をポーチから出して再びC2ドラゴンを作り上げて上空に単身で飛び上がっていく。
 そうして先程黒兜の足を破壊した起爆粘土を黒凪に近い方の黒兜に直撃させた。
 倒れていく黒兜を一瞥してもう1体と冥安の気を引く様にデイダラが動き始める。
 倒れ込んだ黒兜の目の前に結界で足場を作って移動し、その額の中心に手を触れた。



「…!?」

『はい、まずは1体。』



 黒凪が触れた途端に力尽きた様にバラバラに砕けて倒れた黒兜。
 その様子に目を見開いた冥安の隙をついて再び起爆粘土をもう1体にぶつけたデイダラは黒凪を振り返る。
 すぐさまもう1体の目の前に辿り着き額に手を当てた。
 途端に倒れた黒兜に唖然とする冥安の前にデイダラが降り立つ。



「これで一丁上がりだ、うん。」

「っ、馬鹿な…!」



 C2ドラゴンの口から龍が放たれ冥安に向かって行く。
 元々冥安本体に戦闘能力が無い事は分かっている。
 いとも簡単にデイダラの起爆粘土に直撃して死んで行った。
 それを見送った黒凪はC2ドラゴンの上で腰を下ろしたデイダラの元へ近付いて行く。



『お疲れ様。疲れた?』

「…。…なんであの時オイラを助けた」



 C2ドラゴンの上に居たとは言え、あの短時間でオイラを庇うのは躊躇すれば確実に失敗していた筈だ。
 …つまりお前は躊躇せず、考える事すらせずにオイラの前に突っ込んで来たって事だ。
 怪訝な目を向けながら言うデイダラに間髪入れず返答する。



『――なんでって、家族だからでしょ。』



 当たり前の様に放たれた言葉に、理解が追いつかなかった。
 …意味が分からなかった。
 でも己の命を顧みずに自分を助けた事だけは事実で。
 その事実が、何故か温かく感じられた様な気がした。

























 それからも何度か共に任務をする様になった。
 あの劣性を強いられた戦いがあったにも関わらず任務の難易度は随分と高く、この状態こそが己やサソリを引き抜いた経緯なのだと理解し始めていた。
 そんな風に理解しつつも共に任務にあたるこの少女の事を理解しようとして、何度も失敗して。
 やがて先に彼女を打ち負かす手を考案出来てしまう。
 …そしてオイラは、



「おい」

『ん?』

「…オイラと戦え」



 遂に啖呵を切った。
 その言葉を聞いた彼女はもっと何かしら反応をするかと思っていたが。



『…そ、分かった。』



 随分と落ち着いた様子で、そう返したのだ。



 
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