世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  繋がりを結びなおして


『お邪魔しま…』

「!」

『わ、グッドタイミング』



 カッと見開かれた目と同時にベッドの上から飛び退き、此方を睨み付けた。
 身体が痛むのだろう、何処と無く角都の表情は険しい。
 そんな角都にゆっくりと近付き、彼が眠っていたベッドの上に病室の端に置かれていたトランクを置いた。



『はい、忘れてた地陸の賞金。』

「…何のつもりだ」

『何ってこれ貴方が稼いだ賞金でしょ?』



 本人の物を本人に返しただけ。
 薄く笑って言った黒凪はトランクの隣に座り、警戒した様に此方を睨んでいる角都を見上げる。
 角都は何かに気付いた様に己の腕を見下し眉を寄せた。



『此処は木ノ葉の発端にある間一族の屋敷の中。…間一族が支配している領域の中ではチャクラは使えない。』

「!」

『多分貴方の触手も使えないだろうし、硬化する術も使えない。』

「……」



 まあ、貴方程の忍なら体術だけで逃げられそうだけどね。
 でもそれをしないって事は私に敵わないと思ってるのか、逃げてまで戻る価値が暁にないか。
 黒凪の目が角都に向くと彼はゆっくりと口を開いた。



「間一族の支配する領域…その中で貴様等間一族の人間も戦う術を失うとは考え難い。」

『……』

「…その考えと共に、お前の言う通り…命を落としてまで戻る価値は暁に無い。」

『そ。やっぱり長い年月を生きた忍は違うね。』



 深く組織を信じなくなったのは里に裏切られたから?
 目を細めて問いかけた黒凪にピクリと角都が眉を寄せた。
 …ま、その話は良いか。そんな組織を信じられない貴方に組織への勧誘なんだけど。



『間一族の仲間になってほしい。』

「…なんだと?」

『丁度今うちは人手不足でね。腕の立つ忍が欲しい。勿論貴方の働きに応じた待遇やお金は払う。』



 任務の最中に正規の賞金首ならいくらでも狩って良い。
 悪くない話でしょ。貴方が私達の"仲間"で居てくれるなら間一族が犯罪者である貴方を護る。
 貴方達みたいな犯罪者にとっては最高の居場所だと思うけど?
 薄く笑って言った黒凪をじっと見つめ「1つだけ聞いておく」と角都が言った。



「先程から仲間になれと言っているが、貴様等間一族が言う仲間とはどんなものを指す」

『家族を護るもの。…あ、間一族に入ったら貴方も家族ね。』

「家族だと? また生ぬるい事を…」

『生ぬるい事を言えるだけうちは裕福なんだよ。』



 仲間殺しはご法度。貴方はキレやすいらしいから一緒に任務に行く人間もちゃんと選抜する。
 だからムカついた時は思うままに動けば良い。
 角都が目を細めた。



「…よく俺の事を分かっている」

『随分と調べたからね。でも貴方は思っていたより面倒見が良いし頭も良い。是非ともうちに欲しい。』

「……」

『どう?』



 …良いだろう。お前達の仲間とやらに加わってやる。
 無表情に言った角都に黒凪が笑った。



『ありがとう。…じゃあうちの救護班から任務に行って良いって許可が下りたら一緒に任務に行こう。』

「…この程度の傷なら任務に向かえるが?」

『万全になるまで治してて。確実に心臓を4つ奪えるように任務組むからこっちも少し時間かかるしね。』



 あ、屋敷内はうろちょろしても良いけど怪我人が出たら謹慎だから。
 そう言って部屋を出て行った黒凪に続いて角都も部屋を出る。
 振り返って角都を見上げた黒凪はため息を吐いた。



『早速外出るんだ…。初めての場所ってちょっと怖くて外出られない事無い?』

「……」

『(無視か。)』

「いってぇ!なんで先に首引っ付けたんだよスゲーいてぇじゃねーかよォ!」



 飛段の声が聞こえた救護室の前で角都が足をぴたりと止める。
 お、と顔を上げると何も言わずに角都が扉を開いた。
 ん?と振り返った菊水が角都の姿に微かに目を見開く。
 そんな菊水に目も向けず角都は飛段に近付いた。



「…フン。見事にバラバラにされたらしいな」

「うっせェ!テメェなんざ死にかけてたらしいじゃねーかよ!」

「バラバラよりはマシだ」

「んだとォ!?ってマジで痛ェ!」



 角都とやら。まだ傷は完全に癒えていない、病室へ戻れ。
 無表情に言った菊水に角都の目がチラリと向いた。
 菊水はそんな角都に怯える様子も無く何も言わずに睨み続ける。
 その様子を見ていた白菊は持ち場を離れて机の上を見回し、やがて隅に置かれた布を手に取った。



「あとで回収した口布と全く同じものだ。これを持って病室へ戻れ」

「……」



 小さな体で角都の足元へ行き、両手を伸ばして口布を差し出した。
 そんな白菊を見た角都は口布を受け取ると何も言わずに部屋を出て行く。
 気配が病室に素直に戻っていく様子を感じ取り黒凪の目が菊水に向いた。



『驚きました。菊水さん強いですね』

「当たり前だ。何年此処に居ると思ってる」

「いでっ」

「白菊、追加の糸。」



 飛段を見れば既に両腕と頭、左足まで全て胴体にくっついている。
 その様子を見ていると菊水が黒凪を見て「ああそうだ」と側から1枚の紙を出した。
 この紙を閃に渡してやってくれ。頼まれていたものだ。
 あ、わかりました。と紙を受け取った黒凪は再び処置が始まって痛いと喚き出した飛段に目を向ける。
 小さく笑った黒凪は服の袖からジャシン教のネックレスを取り出し、飛段の額を軽く叩いた。



「あ?」

『ネックレス着けてあげるから頭あげて。』

「おー…、いって!」

『あーほら頑張って。』



 ぐっと頭を筋肉で上げた飛段の首にネックレスを通してやり、続いて額当ても首に着けてやる。
 そうして全ての身体がくっ付けられた飛段はゆっくりと立ち上がった。
 完全にくっついていないのに普通に腕やらを動かせる飛段に菊水が嫌なものを見た様に眉を寄せる。



「全く…暁とは奇妙な人間の集まりだな…」

『だから強いんですよ。…飛段は角都の隣の病室で療養ね。全部くっついたら任務行くから』

「療養ォ?マジかよ、クソ暇じゃねーかよ…」

『良いから療養。案内するから大人しく寝るの。』



 うへー、と嫌な顔をしている飛段の腕を引いて病室へ入り、ベッドに座った彼に笑顔を見せた。
 そうして「じゃあね」と手を振るとぷらぷらとやる気のない様子で手が振り返される。






























『閃、これ菊水さんから。』

「ん?…あ、頼んでた飛段のカルテだな…」

『カルテ!?ついさっき連れて来たばっかりなのに…?』

「知らねーの?あの人カルテの作成すげー速いんだぜ。…特に"俺等側の人間のカルテは"な。」



 閃の言葉に目を見開いて顔を上げた。
 その目を見返した閃はすぐにカルテに目を通すと「やっぱりな」と呟いて黒凪に向き直る。
 座れよ、と促されて座った黒凪を見た閃はゆっくりと話し始めた。



「冥安は俺達みたいに"あの頃"の記憶が無かった。だからチャクラを扱えず、呪力を扱う自分自身がずっと謎だったんだ。」



 湯隠れは平和主義だったからチャクラを使えなくても別段のけ者にされたりは無かった。
 でもやっぱり自分自身が謎って言うのは堪えたらしくてさ。
 代わりにロボットや人形等の人型のものを動かす力があるのも自分自身で気味悪がってたらしい。
 だからこそ自分の力は一体なんなのか。…それをずっと探し続けてた。
 そしてやがて冥安は木ノ葉にいる間一族が同じ力を扱っている事を知る。



「そして一旦は1人で里を出て木ノ葉に向かおうとしたらしい。でも外の世界はそう甘くはなかった。」

『…あぁ、湯隠れ出身って平和ボケしてる所あるもんね。(飛段も馬鹿正直だし…)』

「まあな。…で、1人で歩いてた所為で他国の忍にボッコボコにされたんだと。」



 そこでボロボロになった若い頃の冥安を拾ったのがジャシン教だ。
 最初はジャシン教の方も新しい信者を見つけるつもりで居たらしいが、やがて冥安の特殊な能力に目を付ける。
 そして兼ねてより強い忍を生み出す実験を模索していたジャシン教は冥安に話を持ちかけ、



「自分を馬鹿にした他国の忍に自分の力を思い知らせる為に、その人体実験に参加した。」

『……。』

「だけどその人体実験はとても成功するようなもんじゃなかった。そもそもチャクラを持った人間と呪力を持った人間は全く別のものなんだ。」



 チャクラを持っている人間に呪力は扱えないし、呪力を持っている人間はチャクラを扱えない。
 しかもこの世界にとっては呪力は未知数の代物だ。
 だがジャシン教と冥安はチャクラを持っている忍に呪力を与えようと何度も人体実験を行って、何人も犠牲にしてきた。



「…やがて唯一生きていた被検体はチャクラを大幅に失い呪力を手に入れた。それが飛段だ」

『!』

「とは言っても多数でやる上に時間を掛ける様な封印術とか、水の上を歩く程度の事ならチャクラを使用できるみたいだけどな。」

『…不死身になったのは何故?』



 偶然の産物。
 閃の言葉に「は?」と眉を寄せた。
 元々チャクラを持っている人間に呪力を無理矢理共存させたんだ、その化学変化って事になってるらしい。
 そんでジャシン教は偶然にも不死の身体を持ち呪力を扱えるようになった飛段に更なる実験を開始した。



『……。』

「あ、ちなみに飛段もあんな奴だからな。ジャシン様の為にってずっと乗り気だったらしいぜ。」

『えー…、ある意味幸せな性格してるわ…』

「確かにな。…んで次に始めたのはあの呪いの方法についての実験だ」



 不死身の飛段を単身で敵地に乗り込ませるだけでもかなりの働きが見込まれたが、なんせチャクラを大幅に失ってるからな。
 だったら冥安の様に自分以外のものに何らかの影響を不死を使って与えた方が何倍も効率が良い。
 そこで呪いってのに手を出したわけだ。
 自分達が殺したい相手と飛段を使って呪殺する。



「それで出来上がったのがあのふざけたまじないだな。右も左も分からねー状態であれだけのまじないを完成させたのは凄いと思う。」

『そうねえ。ちょっと面倒だけど段階を踏む事でかなり強力な呪殺を可能にしてる。』



 よくやったもんだよ、そうすれば飛段は相手の死ぬ寸前を見る事は無い。
 そりゃあ死ぬ瞬間に相手がどうなってるか気になるよね。と目を細めて言った。
 そんな黒凪に小さく笑った閃は「むかつく?」と徐に問いかける。
 黒凪はそんな言葉に頷いた。



『…私達みたいな不死は他人の死が無ければ死の恐怖を知る事は出来ないんだよ。…死ぬと言う事を恐れられないやつは人間じゃない。』

「…あぁ、その通りだと思うよ。…俺だって頭領や良守が死んだ時はもう無理だと思ったしな」



 あんな思いはもうごめんだ。
 部屋に空しく響いた声は、静かに消えて行く。



 合意のち仲間入り。

 (なー角都ー)
 (……)
 (…さっきから何読んでんだよお前…)
 (正規の賞金首の顔写真だ)


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