世界を君は救えるか×NARUTO
□世界を君は救えるか
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師の予言と復讐編
「――ふむ。目に異常は全く無いな。話の通りなら黒凪の生命力を使って全て万全の状態に"再生"したのだろう。」
「魂蔵を持つ人間が死なずに生き続ける理由は魂蔵にある力が宿主を再生させる為だ。その役目は死しても尚継続される。…筈だったんだがな。」
菊水と白菊がイタチから目を離して彼の背後に立っている黒凪を見る。
そう言えばお前はどういうわけか一度死亡してこの世に生まれているな。…それは何故だ?
その問いに「今更ですね」と笑い交じりに言った黒凪はちらりと此方を見たイタチに微笑んだ。
『大丈夫、私と同じで死ねない身体になったわけだけど終わりが無いわけじゃない。私は一度自分で"終わらせてる"から』
「終わらせた?」
『うん。…私が知る限りの他の魂蔵は私が力を全て抜き取って殺した。私自身の場合は力を一気に全国の神佑地に向けて出しきってから身体を消滅させた。…まあ私を消滅させてくれたのは私以外の人なんだけど。』
笑って言った黒凪に「ふうん。大変だったな。」と真顔で言った菊水に「そんな言い方は無いですよ〜」と黒凪が困った様に笑う。
その様子を見ていたイタチは薬で無理矢理延命していた己の身体が万全の状態になっている事がまだ不思議なのか、何度か手を握ったり開いたりを繰り返していた。
そんなイタチを見ていた白菊は「良かったな」と彼に声を掛けて彼の為にと用意された着物を差し出す。
「これでお前はもう死する事は無いわけだ。余計な事など考えずに戦えるぞ。」
「……。いえ、俺はこれから先に一度も殺されるつもりはありません。」
『!』
「…他人の命を頂いている身ですから。」
そう微笑んで言うとイタチが着物に手を伸ばし背中に大きく描かれた間一族の紋章に目を細める。
そして徐に腕を通すと同時に救護室の扉が開かれた。
「あ、此処に居たぞ。うん。」
「黒凪、新しい任務が…」
「…デイダラ? それに…」
「あ?…なんだイタチ。やっぱりテメェも此処に来たのか。」
木ノ葉の出身だからどうせ来るだろうとは思ってたが。と無表情に言ったサソリにイタチが眉を寄せる。
お前は、と歯切れの悪いイタチにチッと舌を打って「サソリだ」と声を掛ければイタチが驚いた様に微かに目を見張った。
そして黒凪に目を向けると彼女は「驚いた?」と悪戯を成功させた様な顔をして笑う。
デイダラは「テメェもボロボロにされた口か?」と救護室の椅子に座っているイタチに笑いながら言った。
「そうか、殺したと見せかけて仲間に引き入れていたのか…」
『まあそんな所だね。って言ってもあのトビって奴は気付いてたみたいだけど?』
「!…そうですか…。」
そう言って目を伏せるとはっと思い出した様に勢いよく顔を上げるイタチ。
彼の様子に何を言わんとしているか察したのだろう、黒凪が困った様に眉を下げる。
サスケはどうなった。俺と一緒じゃないのか。
目を逸らした黒凪にイタチが微かに眉を寄せる。
『…そのトビって奴が連れて行った。』
「……なるほど」
『ごめんね、普段はみすみす奪われたりしないんだけど…大がかりな術を使ってて余裕が無くて』
「…いや、あの男ならサスケを殺す事はしないでしょう。ただ俺のことをサスケに話されてしまうと厄介ですね」
え、なんでそんなの知ってんのよあの男…。
そんな会話をする黒凪とイタチにデイダラとサソリが顔を見合わせる。
するとイタチが徐に立ち上がり「場所を変えませんか」と呟く様に言って黒凪に目を向けた。
『わかった、私についておいで』
「はい」
そういった黒凪はイタチとともに窓から外にでる。
おい黒凪、任務…。と窓から身を乗り出したデイダラを振り返ると「ちょっと待ってて」と声を掛けて角を曲がった。
その様子に少しむすっとしたデイダラはサソリの元へ戻りすごすごと救護室から出て行く。
一方の黒凪達はとある部屋に辿り着くと呪力を使って異界への扉を開き2人で中に入って行った。
「――此処は…?」
『異界。此処にはとある神様が住んでる。』
「神様…」
『うん、神様。…人間の事なんて何とも思ってない神様らしい神様だよ。』
そう言って手を引いて行くと開けた丘の様な場所に出て視界いっぱいに巨大な城下町と城が見えた。
その様子に微かに目を見開いているイタチの前で偶然側を通り掛かった蟲を捕まえた。
ヒィイイ!なんだぁ!?と話す蟲をイタチが興味深そうに覗き込む傍らで黒凪がその頭部をぐっと両手で掴み顔を近付ける。
『白に映像繋いで。早く。』
【わ、わかったよ…】
ヴヴ、と微かな機械音が入り蟲の真上にモニターが出現する。
そのモニターに映った白は無表情のままにイタチに目を向けた。
それを見た黒凪は「おはよう白。」と声を掛ける事で彼の目を自分に戻させる。
『数分だけ此処に居させて欲しいんだけどさ』
≪…また"補充"か?≫
『それも兼用。でも本当の目的は秘密のお話。』
≪……。了解した。1時間だけそこには蟲も部下も近付けん。≫
ありがと、と笑った黒凪の顔を一瞥してモニターが途切れ、蟲が飛び去って行く。
その様子を見送った黒凪はその場に座ると隣を示しイタチも徐に腰を下ろした。
そして少しの間の沈黙の後に「何処から話しましょうか、」とイタチが徐に口を開く。
『じゃあトビの事について。』
「…トビは奴の偽名です。本名はうちはマダラ。…奴自身そう名乗っていた上、写輪眼を持っていた事から確実だと思います。」
『うちはマダラ? 伝説の?』
「ええ。…奴は何らかの方法で今の今まで生き延び、ずっと木ノ葉への復讐を企てていた…」
実はうちはのクーデターにも乗ずるつもりだったようです。
その情報を耳にした俺は一族を殺す際に自ら奴に接触をし…。
『それはサスケを守るため?相手がマダラなら、里の人間だけじゃなくうちはも恨んでそうだしね』
「ええ」
『そっか…マダラが関わってたことはうちの父様も知らなかったみたいだね。私も初めて聞いたし』
「上層部にもマダラのことは伏せていたからでしょう。その後は、主に奴の動向を探る目的で暁に加入しました。」
俺が加入後にはマダラはしばらく裏方に徹していたのですが、サソリが姿を消したころから新人のトビとして表に出てきていたようです。
その後はご人事の通り、俺とサスケから木ノ葉を遠ざけ…サスケのみを連れ去った。
「おそらく俺自身の寿命も長くはない中、俺を助けるメリットがないと判断したんでしょうね」
そこで一旦言葉を止めたイタチに黒凪が膝を抱え直して縮こまる。
『…サスケを連れ去ったのは木ノ葉への復讐の手助けをさせる為かな。』
「恐らくそうでしょう。サスケにすべてを話すつもりだと思います。」
『そうなればあんたが護った里も、サスケもただでは済まないって事ね。…だから私にサスケを預けようとした。』
「……一応サスケの写輪眼に天照を仕込んでおきました。奴の写輪眼を見た途端に発動する様に。」
しかし恐らく奴には弾かれるでしょう。
そう言って目を伏せたイタチが沈黙し、その場で暫く無言が続いた。
そんな中で黒凪が徐に顔を上げて立ち上がりぐっと身体を伸ばす。
そしてその様子をじっと眺めていたイタチに向き直るとにっこりと笑顔を見せた。
『話は分かった。とりあえずサスケとマダラが攻め込んで来たら里もサスケも護れば良いわけだ。』
「…まあ、そういう事になりますが…」
『どうにかなると思う。…サスケが全世界を敵に回したとしても間一族が引き取って護るし。』
「!」
サスケが大罪人になったって私は受け入れる。
…あんたもサスケのことを嫌いになったりなんてしないでしょ。
黒凪の言葉に「ええ」とイタチが小さく頷いた。
それを見た黒凪が一層笑みを深め「だったら大丈夫!」と言って空を見上げる。
『止めるのが大前提だけど、取り返しのつかない事をやってもまだ道はある。…とりあえずこれで納得してくれない?イタチ』
「……」
『だから何処に居るかもわからないサスケを探しに行こうだなんて風に今は早まらない事。サスケとマダラが姿を見せたらそこに直行しよう。』
「……分かりました」
条件を呑んでくれたイタチに「ありがとう」と礼を言ってから彼に背を向け、徐に俯いた。
そんな黒凪の元に集まっていく"力"にイタチが周辺に目を向ける。
少しだけ歳を取った姿になっていた黒凪の姿が少女のものへと戻って行き、ふっと力が途切れると黒凪の疲れた様な雰囲気も綺麗に消え去っていた。
『…さて、戻ってデイダラ達が持ってきた任務にでも行こうかな。』
「……」
『イタチも来る?ぼーっとしてると色々考えちゃってしんどいでしょ。』
「…ええ」
小さく頷いたイタチの頭をぽんと叩いて入り口を作る。
そして手を伸ばした黒凪は無表情に此方に手を伸ばして来るイタチに眉を下げた。
もうそんな非情なふりはしなくて良いんだよ、イタチ。
黒凪の言葉にイタチが顔を上げる。
『笑っても良いんだよ、あんたは。』
「……はい。」
そうだな、と穏やかな声が耳に届いた。
(黒凪ー。飯ー……イタチィ!?)
(!飛段…)
(喧しいぞ飛段…。……イタチ、遂には貴様も来たか)
(角都、お前まで此処にいたのか)
(成り行きだ。好き好んで来た訳ではない)
(何言ってんのよ最近居心地良さそうでしょー)
(ふざけた事を言うな)
(…くく、随分と打ち解けてるじゃないか)
(でしょ?)
(!?…オイオイ、イタチが笑ってるぜ角都…)
(そんな馬鹿な事が…、…………。)
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