世界を君は救えるか×NARUTO
□世界を君は救えるか
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カカシ外伝
そうして中に入り、3人の気配にリンの側に立っている男が此方に目を向ける。
仲間ではなく敵であるカカシ達の姿を見た男は呆れた様にため息を吐いた。
「ったく…どいつもこいつもガキ相手に何やってんだ…」
「…。リンのチャクラが何か変だ。」
「恐らく幻術に掛けられてるんだろう。俺達の情報をすぐに聞き出そうとしたんだ」
「ほう、ただのガキじゃないらしい」
なら徹底的にやらせて貰うぜ。
そう言って武器を構えた男にオビトとカカシもクナイを構える。
同時に走り出した両者がぶつかりあい、その様子を火黒が少し離れた場所で傍観する。
3人で掛かれば余計に手間だと考えての行動でもあり、単独での戦闘を得意とする火黒が面倒だと思ったが故の行動だった。
火黒が考えた通りにオビトとカカシだけの連携で上手く敵を倒し、2人がリンの元へ駆け寄っていく。
その様子を火黒はやはり一歩も動かず眺める。
「解!」
「!…カカシ、オビト…」
「助けに来たぞリン!もう大丈夫だ!」
「よし、さっさと此処から出よう」
リンを立ち上がらせて3人で入口へ向かって歩いてくる。
するとカカシとオビトに倒されていた男がゆっくりと身体を起こした。
その様子にいち早く気付いた火黒はカカシ達に声を掛けようとするも、すぐさま印を結んだ男に後れを取る。
途端に男の術によって岩場が崩れ始めた。
「な、…走れ!」
「リン!」
「っ…!」
いち早く崩れ始めた入り口を火黒が刀で切り裂いて通り道を作る。
そうして振り返るとそのタイミングでカカシが左目を負傷しているが故に真上から降って来た瓦礫に気付かず、直撃して倒れてしまった。
その様子に気付いたオビトがすぐさま戻りカカシを抱えて逃げようとするが、己に向かって落ちてくる瓦礫を見上げてカカシを放り投げる。
それを見た火黒が徐に足を踏み出して物凄い速度でオビトに近付いて行く。そして手を伸ばし、微かに目を見開いた。
「(…なんで助けようとしてる?)」
脳裏に過った疑問に足を止める。
死んでも良いと任務の前に結論付けたじゃないか。
黒凪が護れだなんて言っていない。…じゃあなんで俺はこんな所まで必死になって走って来てるんだ。
――馬鹿馬鹿しい。こいつを助けた所で――…。
「オビトー!!」
「(何になるってんだ)」
手を引っ込めた瞬間に瓦礫がオビトに降り注いで行く。
そして自分に降り注ぐ瓦礫を全て刀で斬り落とし、静かになった周辺に徐に己の掌を見下した。
「(危なかったな、今のは)」
「オビト!オビト…!」
「っ、オビト!!」
「(あそこでコイツを助けてたら、もう)」
俺は恐らく妖には戻れない。
瓦礫に右半身を潰されたオビトに駆け寄るリンとカカシを眺めながらそう思う。
力なく話すオビトにカカシが地面に拳を振り下し、泣きそうな声で言った。
「何が隊長だ、何が上忍だ…!」
「っ…」
「最初からオビトの言う通りにリンを助けに来ていれば、こんな事には…っ」
「…あぁ…そういやぁ、忘れてた…」
お前への、上忍祝い…。
オビトの言葉にカカシとリンが顔を上げる。
これは…役に、立つ筈だ…。
そう言って左目を開き、カカシに目を向けた。
「俺の、写輪眼。…お前に、やる」
「!」
「リンなら…此処で、移植出来るだろ…?」
俺は此処で死ぬけど、お前の目になって。…一緒に、これから先も。
そう言って目を細めたオビトにリンが覚悟を決めた様に涙を拭い、カカシを呼び寄せる。
早くしなければオビトが本当に死んでしまう。
そんな気持ちがあったのだろう、カカシは思っていたよりも早く切り替えた様に眉を寄せながらリンに近付いた。
「…火黒…お前への、プレゼントは…ない、けど…」
「あ?…あー、別にいらね。俺は物は持たねえ主義だし」
「…そう、かよ…。…なら良かった…」
オビトがそう言ってリンに目を向ける。
リンはすぐに移植を開始し、腕の良い彼女は数分で移植を成功させた。
左目にオビトの写輪眼を宿したカカシは外に居るオビトの仇を殺して来る、と言って瓦礫を破壊して外に出て行く。
それを見送った火黒は目を閉じてリンと手を繋ぐオビトの側にしゃがみ込み口を開いた。
「あいつが居れば助かったのになァ。運が悪いぜ、お前。」
「あいつ…?」
「お前みたいな死に掛けた奴も助けられるぐらいのとんでもねェのが居るんだよ。今は居ねェけどなァ」
「…は、そうかよ…」
…会えると良いな。そいつと、さ。
オビトの言葉に目を見開いて、それから笑う。
よくまだ会ってないって分かったな。
その言葉にオビトも苦しそうな顔で笑った。
「見てりゃ、分かるよ」
お前、寂しそうだったから。
オビトの言葉にまた火黒が目を見張る。
すると敵を倒したカカシが姿を見せ、リンに手を伸ばした。
そろそろ敵の増援が来る。カカシもオビトも、リンもそれは理解している。
「…行け、リン」
「っ、オビト…」
「増援が、もう、」
「土遁・裂土転掌!」
そんな声に肩を跳ねさせ、リンがオビトに目を向ける。
オビトは「いいから」と声を掛けるとカカシに向かってこう言った。
リンを頼む、と。
その言葉に「あぁ」と返答を返したカカシに満足げに微笑んだオビトを見て、リンがカカシに手を伸ばす。
火黒は脚力だけで瓦礫の外に跳び出した。
「オビト…!」
「っ、…行こう、リン」
「(あーあ、胸糞悪ィ)」
気持ち悪くて吐き気がする。なんだこの感じ。
胸元を不愉快そうに掻く火黒の手をリンが掴んで走り出す。
もう片方のリンの手はカカシが握っていた。
…何だこれ。なんで仲良く手なんか繋いでんだ。
眉を寄せて手を振り払い、追って来ている敵に目を向ける。
「(妖に戻れば収まるか?)」
「火黒!?」
「!」
「行け。鬱陶しいから」
1人で戦う気!?
リンの言葉にカカシも仕方がないと言う様に武器を構える。
しかし振り返った火黒の目に思わず動きを止めた。
「分からねェか?俺ぁお前等が邪魔なんだよ」
「…火黒…?」
「お前等なんざどうでも良い。…俺は独りにならねェと」
「…何、言ってる」
独りにならないと戻れねェ。
何言ってんだよ!火黒の言葉にそう返したカカシの足元にミナトから貰った火黒の刀が突き刺さる。
あいつを斬り捨てた。それで多分十分だ。
そう言ってニヤリと笑った火黒が日の落ちた空に目を向ける。
「なァ…俺を"そっち"にまた連れて行ってくれよ」
「火黒!」
火黒の身体に敵が投げたクナイが突き刺さる。
ごふ、と血を吐いて笑ってからクナイを身体から抜いて此方に駆け寄ってくるカカシの腕に投げつけた。
クナイが腕に突き刺さったカカシが痛みに足を止め、リンが驚いた様にカカシに駆け寄る。
どんどん敵が投げるクナイが突き刺さっていく。カカシやリンに向かって行ったものもある程度は手の平で受け止めた。
血塗れになっていく火黒にカカシやリンが眉を寄せる。
「断ち切っただろ?一瞬でも気に入ったあいつをさァ」
「何を言っているんだあのガキは…」
「気味が悪いな。さっさと殺ってしまうぞ」
「火黒、本当に死ぬぞ!」
カカシがそう叫んだと同時にカカシが持っていたミナトから受け取ったクナイの術式が動き出す。
途端にカカシの側にミナトが現れ、敵を睨んだ。
しかし血塗れの火黒に目を向け大きく目を見張る。
「火黒!?」
「なァ、頼むよ…」
「火黒!その傷は…!」
「俺を"そっち"に」
連れて行け。
その言葉と同時に空から雷が火黒に向かって落ちてくる。
雷に撃たれた火黒が黒こげになってその場にしゃがみ込んだ。
その様子に目を見開いて固まっているカカシだったが、好機だと武器を火黒に投げつける敵にミナトが向かって行く。
「う、うそ…火黒…!」
「リン、医療忍術を!」
ミナトの言葉に弾かれる様にしてリンが火黒に駆け寄っていく。
しゃがみ込んでいる火黒の身体は焼け焦げ、肌の色も黒くなっていた。
そんな火黒を涙目になりながら治療するリンと呆然とその背中を眺めているカカシ。
カカシにとって先程の火黒の行動は自分達を護っている様にも見えていた。
だからこそ、先程のオビトの事と同時に己の心に重くその事実が圧し掛かる。
「(また、また俺が不甲斐ないばかりに…)」
「カカシ」
「(本当に、何が隊長だよ)」
「カカシ!」
ミナトの声にはっと顔を上げる。
目の前に立っているミナトの肩には焼け焦げた火黒が担がれていた。その背後には泣きじゃくるリンが居る。
とりあえず体勢を立て直そう。行くよ。
そう言って歩いて行くミナトの後をカカシもリンと共に追った。
その後、ミナトの手助けもありすぐに任務を完了させたカカシ達は火黒を抱えて木ノ葉へ戻る事となる。
奇跡的にも火黒はあれだけの大火傷を負いながらも里に帰るまでの間を生き延び、負傷者でごった返している木ノ葉の病院で治療を受けた。
結果的に火傷の後が治る筈もなく、彼は包帯を身体に常に巻き、もはや忍としては活動する事は無理だろうと診断を受ける事となった。
【…あ?なんだよお前。気持ち悪ィな】
「そう言うなよ。今日退院だって聞いたから来ただけだろ」
【里に居る間もずっと俺の病室に居たろ。…しかも今日はリンも一緒かよ…】
「何よ、私だってカカシと一緒に里に居る間は毎日病室に行ってたでしょ!」
気持ち悪ィんだよお前等さァ…。
呆れた様に言った火黒に「退院おめでとう」とカカシが彼の肩に腕を回す。
そんな肩にも、顔にも頭にも包帯が巻かれている。
火傷の影響で目の周りの皮膚も熔けてしまったのか、両目ともぎょろりとしていた。
そんな風に変わり果てた火黒の姿にカカシもリンも嫌な顔一つしない。
そんな2人をまた呆れた様に見て火黒が空を見上げる。
【(あーあ、さっさと来ねェかな)】
自分の事をこれだけ思ってくれている2人を前にしても彼女の記憶が薄れる事はない。
オビトの言葉通り、ずっと待ち続けているのだ。…まだ、会えていない。
妖に成った自分を見て「見慣れた姿だね」なんて笑っていた時守を見ても何も嬉しくなどない。
彼女に会わなければ、この虚しさはずっと付き纏う。
虚しさが消えない
(こちらの世界で出会った1人の人間の影響でこの姿に成った俺を見たあいつは)
(どんな反応をするだろうか)
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