世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  暗部


「――…少しは暗部に慣れたか?」

「…いえ」

「そうなのか? 意外だな。」

「まだ任務に就いた事が無いので」



 火影様の護衛も任務の内だぞ。
 そう言ったカカシに振り返って「暗部は暗殺戦術の特殊部隊では?」とイタチが問い掛けた。
 その言葉に「戦時中じゃないからな」とカカシが答える。
 火影室の扉の左右に立つイタチとカカシ、そして天井にぶら下がる火黒。
 中から現れたヒルゼンが3人に目を向けず口を開いた。



「カカシよ」

「はい」

「儂はあくまで公式に小隊を派遣する。じゃがこの任務には裏があると言うダンゾウの意見も無視は出来ん。今回は儂の命では無い。…ダンゾウの指示を仰げ。」

「分かりました」



 ヒルゼンが去って行き、火影室の中に居るダンゾウが口を開いた。
 表向きは平和外交となっている今回の任務は林の国の忍である般若衆と国境で情報の交換を行うものだ。
 しかしダンゾウはこれを罠であると考えており、ヒルゼンもその考えに同意した。



「通常任務を行う部隊に暗部を護衛に着ける。そして相手が裏切り攻撃を仕掛けてきた場合は1人残らず殺せ。」

「…殲滅ですか」

「木ノ葉は裏切りを許さぬ。それを見せつけて来るのだ。」

「俺とイタチ、火黒のスリーマンセルを希望します」



 カカシの言葉に「良いだろう」とダンゾウが答える。
 その答えに小さく頭を下げたカカシにダンゾウが続けて声を掛けた。



「カカシよ。儂は暗部としてのお前を買っている。改めて根に引き抜きたいぐらいにな。」

「御冗談を。」

「いや、お前には資質がある。闇と言う資質が…。」

【俺をビビって引き抜く度胸もねェくせに偉そうに言うなよなァ。】



 ぎろ、とダンゾウの目が火黒に向いた。
 火黒は仮面の下でにやりと笑うと「俺等に手出しも出来ねェ腰抜けが。」と続けて言い放ち、地面に降りる。
 その音の無い動きにダンゾウはぴくりとも動かない。



【カカシを買うんなら、徹底的にコイツを孤立させる事だ】

「…火黒」

【下手に群れさせてコイツの資質を奪うなよ。】



 そう言って歩き出した火黒に「申し訳ございません、ダンゾウ様」と声を掛けてカカシも歩いて行く。
 イタチは何も言わずに火黒を目で追うとカカシの後ろをついて行く様に歩き出した。






























「それでは諸君!青春の熱き闘志を燃やして、いざ行くぞー!」

「ちょ、待って下さい隊長ー!」

「……。」

「…あの人達は今回の任務の真意を知らされてはいないのですね。」



 走り去って行くガイを笑いながら見ていた火黒と無表情に見ていたカカシを見上げて言ったイタチは「あぁ」と頷きながら仮面をつけるカカシから目を逸らした。
 今回の事を知っているのは上層部と俺達暗部だけだ。そう言って走り出したカカシについて行く。
 火黒も徐に仮面をつけると一気に足を踏み出した。



「――…火黒さん。」

【あ?】

「「!?」」

「ああすみません、驚かせましたね。」



 即座に武器を構えたカカシとイタチにそう言って現れたのは扇七郎だった。
 七郎かァ?と目の前の存在に問いかけた火黒にカカシが驚いた様に目を向ける。
 彼が名前を呼ぶ様な相手は自分やオビト達の他に初めて見た為だ。



「どうぞ足を進めてください。僕はついて行きながら話したい事を火黒さんに話すので。」

【…だとよ、カカシ】

「信用出来るのか?」

【あァ。俺の身内だ】



 身内。それはすなわち間一族と関係のあるもの。
 間一族の人間か?と怪訝な目を向けるが、少年はカカシなど見向きもせずに火黒の側をふよふよと浮かんで付いて来ていた。
 イタチの目がちらりとカカシに向けられる。
 カカシは何も言わず任務に集中しろ、と視線で応えた。



「1年程前から里の周辺を僕達扇一族が守護しているのは知ってますよね?」

【あー…、確かそうだったなァ】

「僕も9つになったわけですし、外の守護を今日から任せられたんです。」

【そりゃご苦労なこった】



 扇一族。その名にカカシがぴくりと反応した。
 確か元々実力の高い木ノ葉の一族としてそれなりの地位を持っていたが、1年程前から里の守護を任される様になり、重宝される様になったと聞く。
 だが間一族と関係があると言うのは初耳だ。…いや、それより。



「(その扇一族が最も重んじるべき里の守護をこの少年が…?)」

【あの頃は随分好き勝手やってただろ?ちゃんとすんの?】

「ちゃんとしますよ、やだなあ。また好きにやってたら黒凪さんに怒られちゃうじゃないですか。」

【あれ?君わざと黒凪に怒られてたんじゃなかったんだ?】



 変な言い方しないで下さいよ!
 そんな会話をする2人を横目に見るカカシをイタチがじっと見る。
 すると目的地である国境に近付いて来た為にカカシが徐に口を開いた。



「そろそろ目的地だ。火黒。」

【あ?…だってよ七郎クン。そろそろ帰った方がいいんじゃねえの?】

「あれ、もう国境近くまで来てましたか。それじゃあまた。」



 手を振った七郎に「おー」と生返事を返して火黒が目を逸らす。
 そして3人で足を止めると視線の先でガイ達と般若衆が落ち合った。
 まず最初にガイが巻物を手渡し、次に般若衆が巻物を差し出す。
 しかし瞬時に異常を察知したガイは巻物を蹴り飛ばし、上空で巻物が爆破した。



「交換するのは巻物だった筈だが!?」

「…チッ、――木ノ葉は我等に攻撃を仕掛けた。よって我等もそれ相応の対処をさせて貰う。」

「ふん、とんだ言いがかりだな!」

「「土遁・岩石崩し!」」



 大量に隠れていた般若衆が術を発動して攻撃を仕掛けてきた。
 それを見たカカシ達がガイ達の前に降り立ち、カカシの土遁で攻撃を防ぐ。
 飛び散った破片を火黒が刀で斬り、ちらりとガイと共に来ていた忍に目を向けた。



【さっさと逃げなァ】

「あ、あぁ!」



 ガイ以外の2人が走り出し、それを見て構えたカカシ達と共にガイも般若衆を睨み上げる。
 お前も逃げろ、ガイ。そう言ったカカシに「任務の途中で逃げられるか!」と言い返してガイが再び落ちて来た瓦礫を伝って般若衆の元へ向かって行った。



「!体術だけであれだけの動きを…」

「感心してる場合じゃない、行くぞ。」

「はい。」

【全員皆殺しで良いよなァ、カカシ】



 ガイに殴られる般若衆を見て言った火黒に「…あぁ」とカカシが頷いた。
 その返答を聞くや否や、すぐさま手近なものから頸動脈を斬って行き、舞う鮮血にガイが目を見張る。
 そして振り返るとカカシが雷切で、イタチがクナイや手裏剣で般若衆を躊躇する事無く殺していった。
 最後にはガイが殴って気絶させた般若衆まで止めを刺す様に火黒が刀で貫き、その様子に「止めろ!」と火黒の胸ぐらを掴む。



「何をやってるんだ火黒!…お前もだ、カカシ!」

「止せ、任務中に暗部の名を呼ぶ奴があるか。」

【…。お前名前何だっけ?】

「俺はガイだ!それより何故殺す必要が――」



 これが俺達の任務なんだよ。
 そう言ったカカシの表情は仮面に隠されて見えない。
 そんな変わり果てた同期の様子にガイが息を飲む。
 やがて火黒の胸ぐらを掴む手の力がゆっくりと抜かれた。






























「後は俺と火黒で報告に行っておく。お前は任務完了で良い。」

「はい。……あの、隊長」

「なんだ?」

「その左目の写輪眼はご自身で開眼されたものではないですよね。」



 あぁ、と頷いてカカシが目を細めた。
 この写輪眼は友から託されたものなんだ。決して仲間を死なせるな、と言う思いと一緒にな。
 その言葉を聞きながらじっとカカシの写輪眼を見ていたイタチが再び口を開く。



「本来の自分とは違う力を手に入れた事に違和感はないのですか。貴方はうちはの者ではありませんが、その写輪眼がある限り貴方はうちはの力も持つことになる。」

「……」

「…自分がどちらの忍なのか。そんな事は考えたりしませんか。」

「ああ。考えた事が無い。」



 すぐにそう答えたカカシに「そうですか…」とイタチが目を伏せる。
 その様子を見て背を向けたカカシと共に火黒も歩き出そうとしたが「副隊長はどうですか」と言うイタチの言葉に気だるげに振り返った。



「副隊長は間一族ですよね。でも今は里の手足として、暗部として…」

【俺ぁどっちのモンでもないんだなァ、それが】

「え、」

【ずっと俺は、……あー、やっぱいいや。】



 お前に話す事でもねェし。
 そう言って歩いて行った火黒にイタチは次こそ何も言わなかった。
 カカシも歩いて行く。2人の背中を何も言わずに見送り、イタチが徐にアカデミーの方向へ歩き出す。
 わらわらとアカデミーから出て行く生徒達の中にふと目に付いた少女が居た。



「(…白髪)」

《聞いてよ兄さん!アカデミーの同期にさ、なんか変な兄弟が居るんだ!》

《変な兄弟?》

《うん!三つ子で、3人共髪の毛の色が違うんだ!白と、金と、黒!》



 最初に出て来た白髪の少女と共に歩いて行く金髪の少年と黒髪の少年。
 ああ、彼等がサスケが言っていた…。
 そう考えながら眺めているとサスケが現れ、此方に気付いたサスケが笑顔で駆け寄ってきた。



「任務はもう終わったの?兄さん!」

「ああ。一緒に帰ろう、サスケ」



 共にうちはへの道を歩く。
 聞いてよ兄さん、と毎回同じ切り口で始まるサスケの話に笑顔で徐に耳を傾けた。
 一方のカカシは慰霊碑の前で静かに刻まれた名を見つめている。
 その背後に立ったガイに目を向けず昼間の任務の時の事を詫びた。
 するとガイもカカシに謝罪の言葉を述べ、共に慰霊碑を見つめる。
 …この場に火黒の姿は無かった。



 あの人の言葉が胸に突き刺さっていた

 (自分はどちらの人間でもない。…ならばあの人は一体誰なのだろう。)
 (そんな考えがぐるぐると回る。)
 (俺は、…一体誰なのだろう。)

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