世界を君は救えるか×NARUTO

□世界を君は救えるか
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  記憶の旅路


「――…何処だ此処…?」

「俺が知るか。」



 不機嫌なサソリをちらりと見てデイダラが困った様に周辺を見渡した。
 何処かの屋敷の様だ。和式で、外ではピヨピヨと鳥の囀りも聞こえてくる。
 しかし途端に「違う。」と静かで重く厳しい声が聞こえた。
 その声に顔を見合わせ気配を消して側の襖を開く。
 外には黒髪の少女と黒髪の男が立っている。



『…っ、』

「それは絶界だ。それでは他人を拒絶するだけになってしまう。」



 お前がやるべき術は創りかえる為のものだ。それでは根本的に違う。
 それじゃあ宙心丸を完全に封印する事は出来ない。
 男の言葉に「…はい」と感情を押し殺したような声で少女が答えた。
 そんな少女に畳み掛ける様に男が言う。



「先程から同じ様な事ばかりじゃないか。…良いか黒凪。お前が父を信じぬ限り術は完成しないぞ。」

『…はい』

「…え」

「は?」



 黒凪…?そんな2人の思考が一致する。
 そして不機嫌な表情で男に背を向けた少女の顔が見えた。
 黒髪で、彼等が知っている姿よりも少し幼いがその姿は黒凪そのもので。
 大きく目を見開いた2人の視線の先で黙り込んだ黒凪に困った様に眉を下げた時守が「散歩にでも出て来る」と言って姿を消した。



『…っ、』



 途端に黒凪の目に涙が浮かび、ぼろぼろと涙が頬を流れ落ちていく。
 その様子にデイダラが眉を寄せ、何故かすぐにこの考えが浮かんだ。
 本当はあんな修行なんてしたくないんじゃないか。あんな事などせず、



『…やっと絶界ができたばかりなのに…』

「(もっと他の事とか、褒めてもらいたかったり、)」



 …人は力が無くたって、役立たずだって大切に思われるものだよ。
 黒凪の言葉が過る。…この言葉を彼女に掛ける人間は誰も居ないのだろうか。
 独りぼっちで誰にも認められず彷徨う彼女を掬い上げる様な人は、居ないのだろうか。



【おやおや、また泣いてるのかい?】

『…まだらお』

【時守様も必死なのさ。そろそろ時間が無いからねぇ…】

『…それはわかってるよ。…はやく強くならなきゃ、父様が私を作った理由がなくなっちゃう』



 わたしは、宙心丸を封印する為に生まれて来たんだから。
 光の無い目で言った黒凪に酷く痛んだ胸元をデイダラが抑える。
 眉を下げた斑尾が「悲しい子だねえ、可哀相に。」そう言った。



『――見つけ、あ゙。』

「うおっ!?」

「っ!」

『……しまった、私が干渉した所為で変に歪んで2人がまた別の空間に…』



 項垂れてそう呟き、ちらりと無心に結界術を練習する幼い頃の自分を見る。
 その様子に眉を下げ、すぐにまた亀裂を作り中に入って行った。
 亀裂を閉じる寸前に聞こえた。



「黒凪、どうか。」



 どうか早く役に立っておくれ――。
 ブツッと世界を区切る。
 2人に嫌なものを見せてしまったかな。そう思う。
 …ねえ、貴方達はどう思った?昔の私を見て。
 随分とちっぽけだったでしょ?…私だってちっぽけだったんだよ。





























「っ、次は何処だ…!」

「……。」

「おいデイダラ。何黙ってやがる」

「え、…あぁ…」



 歯切れの悪いデイダラが周辺を見渡した。
 また屋敷の中だ。しかし先程とは何かが違う。
 …そう、例えば年代だとか、そんな感じが違う様な。
 そう思った時だ。彼等の声が聞こえたのは。



「これから来る人はさ、良く言えば分かり易くて悪く言えば単純すぎる感じの人なんだ」

【あ?】

「好きな相手にはあり得ないぐらいに優しくて、嫌いな相手にはかなり無慈悲になる。」

【…俺に気に入られろってのか】



 まあそう言う事だね。
 笑い交じりの声が聞こえて耳をそばだて、襖をほんの少しだけ開く。
 中では胡坐を掻いた正守と鋼夜が静かに会話を交わしていた。



【俺は媚を売る様な真似はしねぇぞ】

「そんな事はしなくて良いよ。…大丈夫、お前は絶対に好かれるよ」

【…?】



 頭領と、確かあいつ黒凪の影に居る…。
 そう呟いたデイダラにサソリが小さく頷いた。
 そんな中で「あ、外に居るね。」と呟いたのか鋼夜に言ったのか判断し辛い口調で言って正守が立ち上がる。
 そして部屋を出て外で黒凪と一言二言交わすと共に部屋の中へ戻ってきた。



「――…こいつをとある山に帰したいんだけど…」



 やがて始まった鋼夜についての会話。
 その中で見た鋼夜と黒凪のやり取りは既視感があった。
 鋼夜の矛盾の痛い所を突き、捻じ伏せ、そして自分の側に居るように言う。
 相手は拒否しているのに、それがなんて事無い様な顔をして無理やりに自分の懐へ放り込む感じ。
 そして彼女は真剣な顔で言うのだ。



『私ならあの山の封印を解く事が出来る』

【……】

『たとえ100年経とうと、500年経とうと絶対に解いてあげる。だからそれまでは私と一緒に居な。』



 自分と一緒に居る事がお前の為だとあの女は自信満々に言ってくる。
 馬鹿げていると此方が思っていても、いつの間にかその言葉の通りになっている。
 そして彼女はこれまた的確に相手の欲しいものを提示するのだ。



《この傀儡が君にとっての最後の人間の部分。…人間だった頃を思い出すたった2つだけのもの。》



 眉を下げて彼女が言っていた言葉を思い起こす。
 俺の、最後の。たった2つだけの。
 そう呟いて小さく笑った。



「――なんにも変わらねえ」

「うん?」

「…あいつはなんにも変わらねえな…」



 ――あの女は俺に砂の悪しき風習に染まり過ぎていると言った。
 大事な何かを理解してないと。
 人間は武器だ。武器は壊れても修復できる。
 …人間が武器であるなら、何故俺の父と母は壊れてしまったのか。
 …父と母が武器であるなら、何故変わってしまったのか。何故帰って来なくなってしまったのか。
 ……何故、実際に武器にしてみれば虚しかっただけなのか。



「(変わらないものは、傀儡だけなのか)」



 人は変わってしまうものなのか。…もしもそうなら俺は、人ではいたくない。
 サソリ、デイダラ。
 そんな2人の名を呼ぶ声が聞こえて振り返る。



「…黒凪」

「……」

『大丈夫だった?どれぐらい時空移動した?さっきのと今ので2回だけ?』

「…あぁ」



 そっか…。そんな風に安堵して息を吐いた黒凪をじっと見つめる。
 あそこに居るお前はいつのお前だ?
 無表情にそう問うたサソリに黒凪がちらりと目を向けた。
 そして懐かしそうに目を細めると口を開く。



『120年ぐらい前かなあ』



 その言葉に2人は特に驚かなかった。
 明確に何年生きているかを彼等に伝えた事は無かった筈だが、なんとなくそう言った事は分かっていた様だ。
 そんな中でサソリは1人考えていた。
 この女は変わらない。120年も前からずっと。今まで。…ずっと。



『それじゃあ帰ろうか。あんた達だけじゃ帰れないでしょ。』

「…あぁ」

「……。」



 デイダラとサソリがちらりと襖の先に居る黒凪に目を向ける。
 彼女は鋼夜を影に押し込み、正守と会話をして襖に手を掛けた。
 そして襖を開くと火黒が姿を見せ、影の中に居る鋼夜を覗き込む。
 続いて限や閃も姿を見せた。そうして楽しそうに話す黒凪を見て眉を下げる。



『――…ん?』

『あ、まずいこっちに気付いた。帰るよ。』



 焦った様に亀裂を作って振り返った黒凪の視線の先でデイダラとサソリが近付いてくる過去の黒凪を待つ様に足を止める。
 襖が開かれ、過去の黒凪のきょとんとした瞳が2人を映した。



『…誰?』

『(やば、ドッペルゲンガーとか怖過ぎるし…)』



 黒凪が咄嗟に亀裂に隠れ、デイダラが過去の黒凪の頭に手を乗せる。
 過去の黒凪は不思議気な顔をしてデイダラの手を見上げる様にした。
 …不思議だ。あの頃の私は彼等を知らないから攻撃でもしそうなのに。
 自分自身にそんな風に思いながらはらはらしてデイダラとサソリを待つ。
 デイダラが徐に口を開いた。



「…お前には分かりっこねえって思ってた」

『?』

「…でも、お前なら分かってくれるんだろうな。うん。」



 そうとだけ言って手を離し、サソリがぼそりと言う。
 そのまま変わるなよ、と。
 その言葉に「ん?…うん…?」と不思議気な顔をしたままで過去の黒凪が答えた。
 その様子に小さく笑って「またな。」とデイダラとサソリが伝えて亀裂に入る。
 そんな2人をじっと見ていた黒凪は限達の己を呼ぶ声に振り返った。



「どうした?なんかあったのか?」

『…ううん、何でも。何か変なの居たけど。』

「変なの?」

『うん。…なんか変な2人だった。』



 亀裂が完全に閉じられ、3人で空間の中を歩いていく。
 やがて元の世界に戻り全員で間一族の屋敷へ入って行った。
 するとどたどたと焦った様な足音が聞こえ、利守が飛び出してくる。
 そしてすぐに此方を見ると頭を下げた。



「ごめんなさい!」



 勢いよく放たれた謝罪の言葉に思わずデイダラとサソリが固まり、頭を下げたままで「迷惑ばかり、ごめんなさい」とまた利守が言う。
 そんな利守の頭に黒凪が手を乗せた。



『迷惑上等。あんたは子どもなんだからもっと周りに迷惑かけても良いぐらいよ。』

「!」

「違いねえな。ガキのくせに一丁前に謝るな。」

「実際は結構面白かったからチャラにしてやる。うん。」



 3人の言葉におずおずと頭を上げて利守が嬉しそうに小さく微笑んだ。
 すると翡葉が姿を見せ、黒凪を呼び寄せる。
 翡葉に近付いて彼の報告を聞いた黒凪が「え、そんな事なってたの?さっきまで普通に居たけど…。」そんな風に言うと翡葉が肩を竦めた。



 共感できる人、変わらない人。

 (これからもしも彼女を失うかもしれない窮地に立たされたら)
 (恐らく自分は後先考えず飛び込んでしまうのではないかと、思う。)


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