世界を君は救えるか×NARUTO
□世界を君は救えるか
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火の意思を継ぐ者
『イタ…じゃない、仮面君。我愛羅を。』
「あぁ」
「!」
黒凪が我愛羅から手を離すと同時に彼の身体を自分に向けさせ、イタチが写輪眼を見せる。
途端に我愛羅が膝を着き、ぐったりとした。
それを見て驚いた顔をするナルト達に目を向けて結界を解き、3人を念糸で捕えて引っぱり上げる。
「っ、我愛羅は…」
『大丈夫、ちょっと眠らせただけ。行くよ。』
再び奥へと進む黒凪達に今度はナルト達がついて行く形で進んで行く。
そうこうしている内に前方にカカシの背中が見え、彼の側へ着地した。
すぐにナルト達がカカシに駆け寄り声を掛けるが、操られているカカシは何も返さない。
「カカシ先生、…カカシ先生ってば!」
「なんで聞こえないんだってばよ…!」
「!…ナルト、カカシさんの右手首…」
サイの言葉にカカシの右手を掴み、その手首にある術式に目を向ける。
術式に眉を寄せている間にもカカシは操られた人形の様にふらふらと歩いて行くだけ。
あれは時限式の術式だよ。何があっても時刻通りに発動する。
そんなサイの言葉に「まるで歩く時限爆弾みたいじゃない…!」とサクラが眉を寄せた。
途端に背後にシカマルが着地し「その通りだ」と声を掛ける。
『…あれ?あんたの所にうちの人間が来てない?』
「来てたよ。敵をさっさと倒した後は俺等を先に進ませようとしなかった。」
『じゃあなんで…』
「相手は6人、こっちは9人だ。それにあいつらは俺等を傷付ける事が出来ないみたいだったからな、俺1人だけ抜けさせて貰った。」
あー…、と黒凪が片手で顔を覆う。
そんな黒凪を横目に「あの術式は敵がカカシ先生を取り込もうと無防備になったタイミングで万華鏡写輪眼を発動させるものだ」とナルトに向けてシカマルが言った。
その言葉に「そんな…綱手のばーちゃんが最初からカカシ先生が死ぬ事を覚悟の上で…?」と唖然とナルトが呟く。
彼等が目を伏せる中で黒凪達が気にせずカカシを追い、シカマルがちらりと目を向けた。
「……。助けられるのか?」
『その質問には答えかねるけど、卑留呼は私達が殺すからそこは気にしないで。』
「カカシ先生は!?」
『助けられそうだったら助けるよ。でも生憎君等の術式に関してはからっきしでね。分かんないのが本音。』
黒凪の言葉に「駄目だ!カカシ先生も助けねえと…!」そうナルトが食い下がり、黒凪達を越えてカカシの元へ走って行く。
そんな背中をサクラとサイが見つめ、顔を見合わせてついて行った。
その様子に息を吐いてシカマルも続く。
「待てナルト!お前の声は今のカカシ先生には届かねえ!」
「届かせてみせる!」
【へえ、君が?】
「!」
届くと良いなァ。
笑って言った火黒をナルトが一瞬だけ睨んでカカシの元へ走って行く。
すると「待ちくたびれたよはたけカカシ。よく来たね。」と周辺から響く様に卑留呼の声が聞こえた。
その声に青筋を浮かべてナルトが足を止め、周辺を睨む。
「何なんだよお前は!なんでカカシ先生を…木ノ葉を目の仇にするんだ!」
「――昔、木ノ葉には卑留呼と言う男が居てね。今や三忍と呼ばれる自来也、綱手、大蛇丸とは同期だった。」
しかし卑留呼には彼等のような優れた忍としての素質が無かった。
だから1人孤独に動物実験を繰り返し、鬼芽羅の術を完成させようとした。
…その頃は第三次忍界対戦でね。その中でも激戦区だと言われた神無毘橋での戦い…。
そんな卑留呼の声に火黒が思い起こす様に目を細める。
「その戦いからはたけカカシ、のはらリン、そしてそこに居る火黒が戻ってきた時はそれは驚いたさ…。だがそれ以上に驚いたのはカカシの左目だった。」
はたけカカシは殉職したうちはオビトの写輪眼をその左目に譲り受け、その血継限界を自分のものにしていた。
…これだと思った…!鬼芽羅の術で血継限界を我が物にすれば三忍など取るにも足らぬものだ!
しかしその研究に勘付いた火影によって抹殺されかけてしまってね…。
「…お前も木ノ葉の忍だったのか…!」
「…さあカカシ、こっちへおいで。君で5人目だ。」
そしてお前の血継限界を取り込む事によって私は不死の完全忍者になれるんだよ…!
ふらふらと近付いて行くカカシに「駄目だカカシ先生!」とナルトが声を掛けるが彼の足取りは止まらない。
くそ、と眉を寄せて卑留呼を倒すべくナルトが走って行く。
その後にサクラとサイも続き、そんな彼等に手を伸ばそうとしてシカマルが一歩を踏み出すが、足首を負傷しているのかその場で膝を着いてしまった。
そんなシカマルに黒凪がばっと目を向ける。
「っ、」
『!』
「待て、そいつに忍法は使うな!」
「多重影分身の術!」
大量の影分身が卑留呼に向かって行くが、嵐遁による突風で殆どを消滅させられ、冥遁によりチャクラごと吸収される。
次に空から一直線に超獣偽画に乗ってサイが突っ込んで行くが、そちらも冥遁によって吸い込まれ、目を細めて刀を振りかざしたサイの一撃を鋼遁で受け止めた。
そして次に拳を振り降ろしたサクラの攻撃を迅遁で避け、高速で攻撃を繰り出しサクラを殴り飛ばす。
吹き飛ばされたサクラをナルトが受け止め、その側にサイが着地し、シカマルも駆け寄った。
「今の奴はチャクラを吸い取るだけじゃない、奪い取った血継限界も自在に扱えるんだ!」
そう言ったシカマルを見てナルト達と黒凪達に向けて卑留呼が左手を向ける。
冥遁・邪自滅斗。その言葉と共に彼の左手の印の部分から青い炎が吹きだし、物凄い威力で全員を包み込んだ。
全員を黒凪が結界で護り、彼等の安否を確認するとカカシと共に中へ入って行く卑留呼に目を向ける。
『あの術式が発動したら結局カカシさんは死ぬんだっけ?』
「あぁ、恐らくな。発動する前に卑留呼を叩くのがベストだろう。」
『金管日食まで後何分かな。』
【気にせず行こうぜ。あいつが死ぬんだったらそう言うタイミングだったって事だろ。】
駄目だ!カカシ先生を死なせるわけにはいかねえ!
ナルトの声に黒凪達が振り返る。
どん、とナルトが強く結界を叩き、彼の鋭い眼光が此方に向けられた。
そんなナルトの肩をシカマルが掴む。
「我儘は言うなナルト。…俺達は未来の里の子供達を護らなきゃならねえ。この世界が滅んだら全部――…」
「俺だって里を護ろうとしてんだよ!」
「何処が…!」
「未来の里の子供達に木ノ葉は仲間を犠牲にする里だって、それが木ノ葉の忍だって伝えるのか!?そんなの辛いだけだろ!こんなのは俺の大好きな木ノ葉の忍じゃねえ!!」
俺は護るんだ!俺の大好きな木ノ葉を、未来の里の子供達の為に護ってやりてえんだよ!!
シカマルが大きく目を見開いて動きを止める。
里を、護る。…未来の子供達の、為に。
自分の言葉を復唱する。そう言われてしまえば、俺はナルトに何も言い返せない。…何も。
『…、行くよ。』
「黒凪…!」
『私はね、里の子供なんてどうでも良い。里と言う器があればそれで良いんだ。』
…だけど私は君の事が結構好きだし、完全に無視をするのはちょっと心が痛むね。
黒凪のその言葉にナルトが大きく目を見開き、シカマルも怪訝な顔をして彼女を見上げる。
それと同時にナルトの真後ろに結界を作り、彼を結界から1人押し出した。
そしてナルトを見て小さく笑うと「行こうか」とカカシの元へ向かう。
ナルトも顔を引き締めると黒凪の後に続く。金管日食まで後十秒と言う所にまで近付いていた。
「――さあ、金管日食が始まる。カカシ…私と君はやっと1つに成れるんだ…」
「止めろ!カカシ先生には手を出すな!」
【あーあ、良いのか?行っちまったぜ、あいつ。】
『それはこっちの台詞。あんたこそいいの?カカシさん取り込まれるけど。』
あいつが行ったし態々行くほどでもねえかな。
ナルトの背中を見て笑って言った火黒にちらりと目を向ける。
そして黒凪が徐に呆れた様に息を吐いた。
『あんたねえ、今回に関しては本当に何がしたいのか分かんないんだけど。ナルトをつれて何がしたかったわけ?』
【…俺はさァ、懐かしい景色が見られそうだからアイツを連れて来たんだよ。】
周りを気にせず独走するあのバカを、それ以上のバカが必死に連れてこうとするんだぜ。面白くね?
そんな風に言う火黒に黒凪がナルトに目を向ける。
金管日食が始まり、ボコボコと気泡を割る気味の悪い液体の様なものに包まれていくカカシと卑留呼の元へナルトが突っ込んで行き、共に飲み込まれて行った。
その様子を写輪眼で見ているイタチが微かに目を細めた。
「時限式の術が発動した。このままだとナルトごと飲まれるぞ。」
『あれ、ほんと?じゃあ火黒行こう。』
【は?どうすりゃ良いんだよ。】
『引きずり出せば良いんじゃない?ナルトを。…ついでにやりたければカカシさんも。』
はー…、わぁったよ。
そう言って火黒が両手に刀を出して走り出し、ナルトが飲み込まれた辺りに刀を突き刺して物凄い勢いで斬り込んでいく。
そしてナルトの片手を見つけると力任せに引き摺りだし、もう片方の手が掴んでいるカカシの手を見ると一瞬だけ動きを止めて小さく笑った。
カカシの手を掴み、彼ごと引きずり出して2人を放り投げる。
ごん、と頭をぶつけた様な音が響き、ずざざ、とカカシも勢いのままに転がって行く。
その様子を傍観する様に黒凪達は眺めているだけだった。
【もっと奥の方にめり込んでるかと思ったけどわりと浅いトコで頑張ってたんだなァ、ナルトクン?】
「っ〜、カカシ先生は!?」
【ん?…あ、壁にぶつかったなァあの体勢は。】
壁の側で倒れ込んでいるカカシに近付いて彼の腕を掴んで起き上がらせる。
ぐったりとしているカカシの顔を覗き込んでぷらぷらと揺すった。
その隣にナルトも近付きカカシの名を呼ぶ。
それでも反応の無いカカシにナルトが力なく座り込んだ。
「…救えなかったのか…?」
【…。死んだんだったらもう意味ねえな。さっさと卑留呼の野郎を――】
「そりゃあ無いでしょ…」
【あ?】
微かなカカシの声にナルトが顔を上げて笑顔を見せる。
目を開いたカカシがそんなナルトを見て、それから火黒に目を向けた。
「こんなトコで何してんの、お二人さん。」
【俺ぁ卑留呼を殺しになァ。したらなんかお前が変に関わってたからついでに助けただけだ。】
「俺を助けた?…へえ、お前がねえ…」
【あー、言い方が悪かったな。お前を助けたのはこいつだったわ】
ナルトを示した火黒に「へー…」と目を細めたカカシの手をぱっと離し、力なく尻餅を着いた彼を横目に火黒が立ち上がる。
そして徐にゆっくりと起き上がった卑留呼に目を向けた。
卑留呼も此方を見ると月光の下で口を開く。
「危うい所だった…私もカカシ諸共神威で飛ばされるだったよ…。…しかしまさかカカシの教え子が私を救ってくれるとはね…。」
【まだ元気そうじゃねえの。殺し甲斐があるなァ】
「…まさか私の計画の全てが終わったとでも思っていないだろうね…。まだ金管日食は終わっていない…」
地の利、天の利はまだ私にある。
そう言ってゆっくりと立ち上がった。
カカシ。君も殺して…人の利もこの手にしてみせよう…!!
途端に卑留呼の巨大なチャクラが溢れ出し、儀式の為の建物をも破壊していく。
それを見て動こうとするナルトとカカシだったが、体力を消耗しているらしくすぐに動けそうにはない。
『仮面君、2人を連れて行って。卑留呼は私達で対処する。』
「…了解。」
イタチが一気に足を踏み出し、ナルトとカカシを抱えて走り出す。
カカシは顔を上げてイタチの仮面を見ると微かに目を見開いた。
その仮面は…。そう言ったカカシにイタチが仮面の下で小さく微笑む。
そんなイタチは倒壊する瓦礫を全て避けて距離を取り、外に居たシカマル、サクラ、サイの元へ着地した。
「ナルト、カカシ先生!」
「って事は…!」
6人で卑留呼を見上げる。
卑留呼の目がちらりとカカシに向けられたと同時に6人の前に黒凪、火黒、鋼夜が立ち塞がった。
そんな3人の背中にカカシが眉を下げる。
「てっきり俺は里に被害が及べば出て来るもんだと思ってたよ。君等幹部組は。」
『幹部組?』
「俺達は君等の事をよく知らないからさ。だから特に重要な任務で出て来る君等をそう呼んでんの。」
『へえ…。…ま、強ち間違ってもないですけど。』
確かに私達幹部組?は滅多な事では表に出ません。
ただ今回は卑留呼の件で他里から要請が入っていたのでね。
『あ、でもナルト達を態々連れて此処まで来たりはしないなあ。ましてカカシさんを助けてこんな面倒な状況にするなんて事は。』
「…へえ、一体誰がそんな面倒な事を君にさせた?」
『ご想像にお任せします。』
「――君達諸共全員殺してあげよう――!」