世界を君は救えるか×NARUTO
□世界を君は救えるか 番外編
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だ、大丈夫大丈夫っ!此処は気丈に振る舞って自分の実力を見せるのよ!そうすれば面白い女だって言ってくれる!それがパターンだものっ!
そう頭の中で一度シュミレーションをして息を吐く。
そして渾身の冷たい表情を作り正守に目を向けた。
「…私は貴方達を助ける為に来たのよ。」
「助ける?」
「そう。だって私は貴方達より強いんだもの。」
「……。」
全く話の筋が定まっていない所から恐らく彼女の話はその場で作った作り話だろう、と正守、再不斬、白が予想する。
それに無理やりきりっとした顔をしているが実際は口の端の方がぴくぴくと震えて表情が崩れかかっている。
あれは自分に酔っている人間の反応だ、と白が正守と再不斬に耳打ちをした。
「(うふふ、迷ってるわね…。きっと私の只ならない強さを察したんだわぁ!)」
「どうしますか、やっぱり怪しいですよ」
「うん、俺もそう思う。(黒凪に見せるまでも無いかな、これは…)」
「"引っ掛けて"みるか?」
ちらりとルリを見て言った再不斬に正守が小さく頷いた。
それを確認した再不斬はチャクラを使えないにも関わらず一瞬でルリの真後ろに移動してクナイを振り下す。
その様子を見ていた"神"はルリの天使の翼を引っ張り出した。
ばさっと自分の意志に関係なく開いた翼に「ひゃっ」とルリが振り返ると翼に動きを止めた再不斬が居る。
「(え、今私試されたのぉ…?)」
「……。再不斬、戻っていいよ。」
突然の純白の翼に正守も暫し沈黙してから再不斬を呼び戻した。
素直に戻った再不斬はクナイを仕舞いながら再びルリの翼に目を向ける。
この屋敷の中で人間離れした芸当を出来るのは間一族の人間だけ、そんな風に再不斬や白は教えられていた。
そしてその"間一族"と言う括りの中に居る人物には明確な血の繋がりなど無い場合も存在すると。
「(あの世界の人間か…?でもそうなるとなんで俺は覚えてないんだ?)」
「…再不斬ごめんねぇ、驚いちゃったぁ?」
「!」
「怪我、なぁい?」
心配そうに眉を下げて言えば再不斬が警戒した様子で「あぁ」とだけ返答を返した。
そんな再不斬の隣に座っている正守は「まさか俺も記憶を一部無くして…?」と様々な事に思考を凝らしている。
すると良守も同じ状態だったらしく「なあ、」と耐え切れなくなった様に口を開いた。
「此処で変化出来るって事はさ、お前俺等側の人間なんだろ?」
「俺等側ぁ…?」
「呪力を使うって事だよ。…でも俺、お前の事全然覚えてなくてさ。」
「あ、そりゃそうだよぉ。私はねぇ、良守くぅん。貴方達の世界とも別の世界から来たのぉ。」
え、更に別の世界…?と良守が問い返すと正守も驚いた様に顔を上げた。
その様子に確かな優越感を感じたルリは「ふふん」と笑みをこぼすと得意げに話し始める。
私の世界ではねぇ、貴方達は漫画の中のキャラクターなのぉ。だから私は未来を知ってるって事なのぉ!
相も変わらず話の筋がぐちゃぐちゃでよく分からない。しかし彼女が言う異世界が正守達にも知らない世界なのであれば。
「(…ちょっと得体が知れないな…)」
得体の知れない存在は組織の為に排除するに限る。
しかも彼女の面倒を好んで見る程暇がある訳でもない。
どうしたものかな、と考えている間にも彼女は「未来を知ってるって事はぁ、皆をその危険から守れるって事なんだよぉ」などと得意気に話していた。
「…なぁ、ルリだっけ。」
「なぁに?良守くぅん。」
「違う世界から来たっていうけど、なんで?」
「なんでぇ?…皆を護りたいからだよぉ?」
親に言ってきたのか?心配してるんじゃねーの?
そんな良守の言葉に「良いの良いのぉ!どうせ親なんて私の事なんかぁ、どうでも良いんだからぁ!」と言ってぷいっと顔を背けた。
その様子にげんなりとする正守達だったが、良守だけはその言葉を真剣に聞いている。
「なんでだ?何かされたのか?」
「聞いてくれるぅ?実はぁ、ルリの母親も父親も血が繋がってないのぉ。」
「……」
「そんな両親を信じられるわけがないじゃなぁい?優しくされたって嘘なんだろうなぁって思ったりしてぇ〜…」
悲しげに言っているつもりだろうが、血が繋がっていない両親が暴力を振るってくるならまだしも優しくしてもらっているのだろう。
それをなぜ彼女はそこまで悲劇な事の様に話せるのだろうか。
遂には真剣に聞いていた良守もその話に首を傾げ始める始末。
ああどうしたものかと考えていると正守の部屋の襖が徐に開かれた。
「失礼します。任務を終了したので報告に…」
「イタチッ!?」
「…?」
驚いた様に叫んだルリに目を向けたイタチが無表情のまま小首を傾げる。
すると「何してんだイタチ、早く入れ。うん。」と言いながらデイダラが顔を覗かせルリが更に大きく目を見開いた。
そして更にそんなデイダラの後ろから現れたサソリにルリは溢れ出す喜びを抑えられない様に口を押える。
「(うそ、うそでしょっ、特に好きな3人が居るぅっ!)」
「ん? 誰だコイツ、うん」
「んな事はどうでも良いだろ。…おい頭領、さっさと報告書に記ししろ」
「うん、それはまた後で。それより黒凪居る?」
喜びの真っ只中に居たルリの耳に聞き慣れない名前が飛び込んでくる。
…え?と顔を上げ、必死に記憶をたどった。
黒凪、黒凪…。何度も考えるが該当するキャラクターが出てこない。
混乱するルリだったが、周りの会話は彼女など気にせずどんどん進んで行く。
「黒凪は玄関だ。鼻緒が切れたんだと。」
「鼻緒を修復してから来ると…。」
「あ、じゃあその内来るね。」
誰なの、黒凪って…。
そう呟いた途端に「正守ー。」とこれまた聞いた事のない少女の声がする。
え…?と顔を上げたルリは姿を見せた白髪の少女に目を見開いた。
見たことが無い…いや、漫画の中で似たようなキャラクターを見たことがある。
白髪の子供…。
「…ちゅ、宙心丸…?」
『え』
心底驚いた様に向けられた黒凪の目と凍りついた室内。
え?とルリが振り返ろうとした途端に結界が一瞬で全ての関節を抑えた。
動けない事に目を見開いたルリの瞳が再び黒凪に戻る。
『なんで宙心丸を知ってるの?…君何者?』
「異世界から来たってのは案外本当かもね…」
『異世界? 何それ。』
「彼女異世界から来たって言い張ってるんだよ。あんまり本気にしてなかったんだけど…。」
まさかその名前が飛び出すとは思ってなかった。
そう言って目を細めた正守にルリが暴れていた動きを止める。
ガタガタと震えだしたルリの目がぎっと黒凪に向いた。
「だ、誰なのよぉあんた!私あんたの事知らない!!」
『そりゃあ私も知らないし、お互いに知らないでしょ。…私は黒凪。君が言った宙心丸は私の弟。』
「…弟、って事は宙心丸の姉…?」
そんなキャラ居た?ううん、居なかった。
…何なの、なんなのコイツ!
大混乱。まさにそう言って過言でない程に混乱しているルリを横目に「どうしよう」と話している黒凪達。
その様子にルリが目を向ける。…彼女には少し妄想癖があるが決して馬鹿と言う訳ではない。
決して馬鹿ではないという部分は今回の"神"の遊びにとって重要視された部分でもあった。
「(ルリは悪知恵だけは一級品。一筋縄じゃいかないよ。)」
「(こんなキャラは絶対に居なかった。って事はこの女はこの世界のイレギュラーって事よねぇ。…この女を始末しないと皆に悪い事が起こるとか、そういうパターン?)」
ルリの頭の中に様々な考えがぐるぐると回る。
ほらあるじゃなぁい、夢小説の中でも主人公の前に現れるもう1人のイレギュラー…。そうよ、私のライバルなんだわっ!そしてライバルって言うものは最初は私の前を行っているんだから…!
…つまり既に正守さん達や暁の皆に気に入られてるこの女の化けの皮を剥がす。それが私の使命。…と言う思考に落ち着いた。
「あ、あのぅ黒凪さぁん」
『…何?』
「私ぃ、本気で皆を助けたくて来たのぉ。今この世界で何が起こってるかを教えてくれたらぁ、未来を教えて皆を助ける事が出来るわぁ」
『…いいよ、要らない。根拠のない情報を信じて何かあったら洒落にならないしね。』
何よぉ、折角ルリが言ってあげてるのにぃ!と思わず声に出して言うと黒凪の目がちらりと向いた。
そして暫し沈黙すると座ったまま結界で固定されているルリの前に黒凪がしゃがみ込む。
目の前に近付いた顔は見れば見る程漫画で見た宙心丸にそっくりだった。
『心配してくれてありがとう。でも危険な事が起きても私がどうにかする。…どうにか出来る自信がある。』
「……でもぉ…」
『うんうん、君が本気で助けようとしてくれた事は分かってるよ。…よければ元の世界?に戻れるまでうちにいな。部屋はいくらでも余ってるし』
何なのよぉ、この女なんでそんなに上から目線なのぉ!?
悔しさに拳を握りしめていると関節を固められていた結界が解かれ畳に両手を着く。
この酷い仕打ちは目に余るでしょおっ!?と正守に目を向け、そして良守に目を向けた。
しかし先程まで自分を援護してくれていた筈の良守は微妙な顔をして後頭部を掻いている。
「っ、…ね、ねえ白ぅ」
「!」
「あの黒凪さんってぇ、何者なのぉ?」
「…彼女はこの間一族の時期当主です。」
じ、時期当主っ!?その言葉を聞いて愕然とする。…なるほどねえ、随分と厳しい壁じゃないのぉ。
目を細めたルリはとりあえず黒凪の確固たる闇の部分を見つけなければならないと心に誓った。
時期当主ともなれば下手な嘘で陥れられる様な女でもないだろう、と理解したのだ。
この世界に来て此処でやっと落ち着いたらしく、その様子を見ていた"神"はルリを選んだ自分にうんうんと頷いている。
『じゃあ良守君、空いてる部屋に連れて行ってあげて。私今から七郎君のとこ行って来るから』
「え、七郎っ!?」
『…あ、七郎君も知ってるの?』
「はい!私、七郎君と会いたいですぅ!」
とりあえずこの女には媚を売っておくべきだわ、とルリが可愛らしく(自称)彼女に懇願する。
んー…、と悩む素振りを見せた黒凪は「ゴメンね」と笑うと「また今度」と言って部屋を出て行った。
………え、と目を見開いてどたどたと黒凪の後を追う。
そうして彼女の手首を掴めば自分よりも小さな黒凪が此方に目を向けた。
こうしてみれば彼女は随分と幼く見える。
「ねえ、お願い…」
『……。分かったよ、一緒においで。』
「あ、ありがとぉ!」
『…うん』
すたすたと歩いて行く黒凪にわくわくしながらついて行く。
そして屋敷から外に出て木ノ葉の町の中を歩いて行った。
その最中には夢にまで見た木ノ葉の忍達が当たり前の様に歩いている。…そう、大好きなカカシも。
「(え、うそっ、あそこに見えるのカカシ先生っ!?)」
『……。曲がるよ、ルリちゃん』
「えっ、あの…」
『何?』
前方を指差すルリに其方を見た黒凪は「そっちの道はまた後でね」と声を掛けて路地に入っていく。
それを見たルリはどうしてもカカシに会いたいが為に黒凪の手首を再び掴んで引きずり出した。
小さな黒凪は随分と簡単にルリに引き摺られ、表の道に逆戻りする。
すると目立つ桃色の髪の少女が連れる白髪の少女、黒凪に気がついたのだろう。
知り合いを見つけて無視するわけにもいかず「やあ」とカカシが片手を上げた。
「あ、こ、こんにちはっ…」
『…オハヨーゴザイマス、カカシサン。』
「なんでそんなカタコトなのさ…」
「あ、あのぉ、お知り合いなんですかぁ?」
ルリがちらちらと黒凪を見てカカシに問うと「ん?うん。」とカカシが頷く。
するとルリは黒凪の腕にぎゅっと腕を絡め「初めましてぇ、私間一族のルリでぇす♡」とカカシを上目使いで見上げて言った。
その様子に少し目を見開いたカカシはちらりと黒凪を見る。
「………へえ、よろしくネ。」
「はぁい!よろしくお願いしまぁす!」
「…あれ?カカシ先生と…黒凪か?珍しいな」
『ワー、オハヨーシカマルー』
「…なんでカタコトなんだよお前…」
キャー!シカマルだぁ!と目を輝かせて「初めましてぇ、間一族のルリでぇす!」とシカマルにもカカシ同様の自己紹介をする。
その様子を見てシカマルも少し驚いた様にルリを見ると黒凪に目を向けた。
カカシ、シカマルと連続で同じ様な反応をした2人にルリが首を傾げる。
「…新入りか?黒凪」
『ん?…うん、まあね』
「ふーん。…よろしく。」
「よろしくお願いしまぁす!」
ばっと頭を下げたルリに「もう良いでしょ、行こう。」と黒凪がルリの手を引いて歩いて行く。
その様子を見たシカマルとカカシはどちらからともなく顔を見合わせた。