Long Stories

□桃色に染まる
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「タズナさん、何処かへ行くの?」

「!……なんじゃ、居たのか…」

「今日は朝からずーっといました。先生が私は修行はいいから護衛に着けって。」

「ほー。…ま、今から行くのは夕飯の買い出しじゃ」



 ついて来い。
 そう言って歩き出したタズナについて行くサクラ。
 黒凪は町中に出ているサクラの目と同調し外の景色を見る。
 随分と荒れ果て、孤児や仕事を失った大人達が放浪していた。
 ズキ、と痛んだ頭に黒凪が眉を寄せサクラも思わず頭を押さえる。



「どうした?」

「っ、いえ…」

『(…ごめんサクラ、私だ)』

「(良いよ、…大丈夫?)」



 外の景色を見ながら小さく頷く黒凪。
 サクラも寄せていた眉を戻しタズナと共に八百屋に立ち寄った。
 店に入ると店主が疲れた様子で「いらっしゃい」と呟く様に言う。
 野菜が並べられている筈の棚を見渡すもお世辞にも種類が豊富だとは言えない。
 寧ろ無いに等しいその様子にサクラが眉を寄せた。



「タズナさん…この里どうなって…」

「おねーさん」

「!」



 服を引かれ振り返る。
 布切れで作った服を身に纏い、身体は泥や土で汚れている。
 髪も何日風呂に入っていないのか想像が付いてしまう程に汚くなっていた。
 そんな少女が笑顔で両手を差し出して来る。



「なにかちょうだい」

「あ、…うん」



 サクラは鞄から飴を取り出し少女に手渡した。
 少女は数個の飴に目を輝かせサクラにそれはそれは嬉しげな笑顔を見せる。
 歪んだ視界に黒凪が目を見開いた。
 …泣いている。



「っ、…」

『(…サクラ…、っ、)』

《…黒凪さん、寒くない?》

『(痛、)』



 涙を拭ってサクラが「黒凪?」と呟いた。
 頭に響く声。
 …今日もお花を摘んで来たよ。
 子供の声がする。



《…ごめんなさい、僕の所為で》

『…っ』

《…だから出て来てください…》

「どうした?」



 ぽんと肩に手を置かれサクラがビクッと肩を跳ねさせる。
 振り返ったサクラの目に浮かぶ涙にタズナが目を微かに見開いた。
 眉を下げたタズナに涙を拭い付いて行くサクラ。
 徐にタズナが口を開いた。



「ガトーが来てからこの有様じゃ。…だからこそ今、儂が作っとる橋が必要なんじゃよ。」

「!」

「あの橋さえ出来れば、ガトーに立ち向かえる。…あの頃の里に戻る筈なんじゃ…!」

「…タズナさん…」



 サクラ。
 黒凪の声が聞こえる。
 歩きつつ其方に意識を傾けたサクラは微かに目を見開いた。
 …また黒凪の気配が遠のいで行く様な気がする。
 どうしたの?と返事を返したが黒凪は何も返してこなかった。





























「――黒凪さん」

『……』



 微かに目を開いて、目の前の人影に焦点を定めた。
 しかしやはり視界は歪んでいる。
 目が合った様な気がした。
 途端にその人影が黒凪に近付き手形が見える。
 …あぁそうか。氷の中だもんね、此処。



「黒凪さん!?…久々に反応してくれた…」

『(…声、全然出ないし)』

「最近全然目も合わせてくれませんでしたね、…もしかして眠っていたんですか?」



 微かに開かれた目が細まる。
 人影は安心した様に息を吐くと覗き込む様に屈んだ。
 黒凪の目にはやはりはっきりとは見えなくて、微かに眉を寄せる。



「いつか必ず其処から出してみせます。…だから待ってて下さい」

『……。』

「またあの人も連れてきますね。覚えてますか?依然氷を力付くで壊そうとした人です。黒凪さん、不機嫌そうにしてましたよね」



 微かな目の動きでしか反応しない黒凪に根気よく話しかける人影。
 黒凪は覚えのないその人影に目を伏せた。
 …誰だろう、この人は。
 ――…あれから、



『(一体何年……)』

「ああすみません。眠そうですね」

『…、』

「また来ます―――…」



 最後に聞こえたのばおやすみなさい゙だった。
 次の瞬間にはまた意識が暗い闇に沈んでいて。
 …ふと、私は一体何をしているんだろうと―――…。





























 目を開くと真っ暗な室内が見えた。
 あぁ、夜か。
 誰に言うでもなく呟いて起き上がる。
 そうして外に出て木に近付いた。



『……。』



 足にチャクラを集めて歩き出す。
 寝起きの為か頭がぼーっとしていた。
 至って当たり前の様に木を垂直に歩いて行く。
 頂点まで登って一言、黒凪が言った。



『何だ、これだけの事か。』

「…真夜中に自主練か?」

『……あれ?起きたんだ…』

「気配がしたんでな。」



 私の所為か。ごめんなさい。
 ぼーっとした様子で言った黒凪の隣に座るカカシ。
 黒凪は夜風に微かに眉を寄せ腕を抱えた。



『…寒い。』

「毛布あげるよ。」

『お、用意良いね』

「昼間から寒い寒いって言ってたからね」



 カカシが笑って言うと黒凪は「そっかぁ」と、そうとだけ言った。
 毛布に包まり海を見る黒凪の横顔を見る。
 サクラの顔なのに、やはりその表情は全くの別物だった。



「…来るとしたら明後日ぐらいだろうなぁ」

『誰が来るの?』

「再不斬。」

『…死んだんじゃないの?』



 そう訊き返した黒凪にカカシが微かに目を見開く。
 聞いてなかったのか?そう言ったカカシに首を傾げると彼は困った様に空を見上げた。
 …サクラに聞いたんだけどさ。
 カカシの言葉に顔を其方に向ける。



「最近ふとした時に゙居ない゙んだって?」

『…あぁ、本体の方に戻ってるみたいで。』

「本体?…本体なんてあるのか?」

『あるよ。多分今は氷漬けだね』



 当たり前の様に言った黒凪にカカシが片眉を上げる。
 黒凪は無表情に言った。
 全然覚えてないんだけどさ、…凄く大切な子の術に掛かってこの状態になってる。
 内側から来る寒気に毛布を改めてかぶり直した。



『…誰か来てくれないかなぁ。』

「ん?」

『私の本体を助け出してくれる王子サマ。』

「……場所は分からないのか?」



 さあねぇ…。
 そう言って黒凪が眉を寄せて縮こまる。
 寒い。呟く様に言った黒凪にカカシが目を向けた。



『随分今夜は冷えるねぇ』

「…そうだなぁ」



 カカシがそう返すとふっと目を閉じて後ろに倒れて行く黒凪。
 目を見開いてカカシが手を伸ばすとばっと現れた影がサクラの身体を抱えた。
 そのままタズナの家の屋根に着地した陰にカカシが眉を下げる。
 カカシも写輪眼の使い過ぎで体が思う様に動かない為結果的に助かったと言えるだろう。



「悪いなぁ……サスケ」

「…別に。」



 サクラの身体を抱え直したサスケの側に行くカカシ。
 カカシはサクラに毛布を掛け直すとサスケの頭をぽんと撫でた。
 両手が塞がっている為カカシの手を眉を寄せつつ受け入れたサスケはサクラの部屋にカカシと共に向かう。
 布団の上にサクラを寝かせるとサスケは横目でカカシを見上げた。



「ずーっと盗み聞きしてたな、お前。」

「!…チッ」

「゙ばれてたのがって?…まだまだ修行が足りないよ」



 再びサスケの頭にぽんと手を乗せて歩き出すカカシ。
 サスケはサクラの寝顔を見ると徐に歩き出した。
 ゙誰か来てくれないかなぁ゙
 その一言がずっと頭の中で繰り返されていた。



 
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