Long Stories

□桃色に染まる
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「…っ、」

「!やっと気が付い…た…」

「…?」



 タズナの言葉が止まり少し眉を寄せるサクラ。
 少し体が軽い様な気がする。
 言葉を失ったタズナを気にしつつ起き上がると目の前に立つ巨大な氷の壁の様な物が複数見えた。
 ドクン、と動機がする。
 頭の中で声がした。



『(白の術だ)』

「…うん」

「お、おい」

「タズナさん、私ちょっとやる事があって。」



 此処に居て貰えませんか?
 あ、あぁ。と頷いたタズナにニコッと笑ってサクラが走り出す。
 すると物凄いチャクラが氷の隙間から広がりサクラを飲み込んだ。
 思わず足を止めるサクラ。氷の隙間から赤いチャクラが見える。



「何このチャクラ…!」

『(サクラ、交代)』

「!…もう大丈夫なの?」

『(うん。寧ろ絶好調)』



 両目の瞳の色が金色になった。
 目を細めた黒凪が走り出す。
 背後ではカカシと再不斬がサクラの背中に目を向けた。



「サクラ、待て!」

『……』

「おい!超おかしな事が起きとる!」

「!?」



 目の色が、そこまでタズナが言った所で再不斬の刀がカカシに向かった。
 カカシは刀を避けるとタズナを背に戦闘態勢に入る。
 黒凪の目の前で1枚の氷が砕けた。
 そこから白が吹き飛ばされて飛び出してくる。
 すぐさま其方に向かった黒凪は白を受け止め、地面に降ろした。



「(!黒凪後ろ!!)」

『…チャクラの主はナルトか…』

「…黒凪、さ…」

『白、ちょっと待ってな』



 駄目です、彼には…勝てない、
 そんな白の声を背に此方を睨むナルトに顔を向けた。
 ナルトの目が微かに見開かれる。
 すると彼のチャクラは萎む様に収まって行った。



『…ナルト』

「サクラちゃ…、いや、黒凪、だってば…?」

『うん。落ち着いて。何があったの』

「…サスケ」



 え?と眉を寄せた。
 サスケが、そう言って振り返るナルト。
 そこには体中に針を刺されたサスケが倒れていた。
 …成程、だからナルトが暴走を…。
 黒凪が目を細めた時、頭の中でサクラの叫び声が響いた。



「(サスケ君、サスケ君が…)」

『…。ちょっと待っててサクラ。後で行こう』

「(嫌!今…!)」

『駄目。ちょっと待って』



 サクラが頭の中で交代しようともがく。
 しかし出来ない事に気が付くとサクラは大きく目を見開いた。
 …どうして…?今まで私が交代したいと思えば出来たのに…。
 黒凪はそんなサクラの声を聞きつつ白に向き直り彼の手を引いて体を起こした。



『白。…あぁ、口の中切ってるね』

「…大丈夫です、これぐらい…それより、」



 黒凪さん、なんですよね。
 戸惑った様に言う白に黒凪が笑った。
 白の目から涙が零れる。
 その様子にナルトは戸惑いつつ2人の側に近付いた。



「…知り合いだってば…?」

『…うん。私の大事な…弟みたいな子。』

「大事な、弟」

『うん。だからこれ以上傷つけないで』



 ナルトを真っ直ぐと見て言った黒凪。
 サスケをチラリと見て小さくナルトが頷いた。
 白が涙ながらにサクラの身体を抱きしめぎゅうう、と力を籠める。
 黒凪は笑い交じりに白の背中をぽんぽんと叩いた。



「どうしてそんな姿に…?」

『本体はまだ゙あそごだよ。意識だけこの子に乗り移ったみたい』

「そう、なんですか」



 何と言えば良いのか分からない様子の白。
 黒凪もぎゅっと白を抱きしめれば彼は小さく笑った。
 その様子を見て耐え切れなくなった様にナルトが口を開く。



「おかしいってば、黒凪」

『え?』

「サスケが殺されたんだぞ…?」

『…うん』



 不思議気にそう返した黒凪にナルトの額に青筋が浮かんだ。
 頭の中のサクラの目からも涙が零れる。
 そんなにそいつが大事なのかよぉ!
 そう叫んだナルトがクナイを投げた。
 そのクナイをすぐさま弾く白。



「…この人を傷付ける事は許しません」

「っ!」

「……彼は、君にとって大切な人だったんですね」

「そうだってばよ!だから俺はお前を許せねぇ…!!」



 それは僕もです。
 白の静かな言葉にナルトが思わず言葉を飲んだ。
 僕にとっての大切な人は黒凪さんであり再不斬さん。
 2人を傷付ける人は皆、敵だ。



「…何でだってばよ…」

「『?』」

「なんで人を平気で殺す様な奴が大事なんだってばよ!お前等2人共!」



 白と黒凪が顔を見合わせる。
 それは、と白が口を開いた。



「黒凪さんと再不斬さんが僕を必要としてくれたからです」

「!」

「…僕は、霧隠れの里では迫害された一族の末裔でした」



 そんな僕を黒凪さんは護ってくれた。最期まで。
 ナルトがピクリと眉を寄せた。
 白はそんなナルトを気にせず言葉を続ける。



「再不斬さんは忌み嫌われた僕を必要としてくれた」

「…大切な奴の為だったら他人を殺しても良いって言うのかよ…!」

「そうです」



 僕は大切な人を護る為なら犠牲を厭わない。
 君もそう考えている筈ですよ。
 ナルトが目を見開いた。
 だって君は、



「そこの少年を僕に殺された時、僕を殺そうとしたじゃないですか」

「!!」

「…人はそう言う生き物です。大切な人の為ならどんな事でも出来る。」



 僕の大切な人が君達の敵だった。
 今のこの状況も只それだけ。
 白が眉を下げて言った。



『私の大切な人が白だった。そんな白は私達の敵だった。』

「(黒凪…?)」

『白はサスケよりも大切だった。』



 サクラが目を大きく見開いた。
 ただ、それだけ。
 黒凪の声が頭に響く。
 黒凪とは根本的に考え方が違う。
 サクラが呟いた。



「お、まえ…本気で言ってんのか…?」

『私は君達とは違う。…言ったよね』

「(黒凪、)」

『悪いケド、協力する様な一族じゃないのよ。私達は。ってさ』



 そう言った瞬間、少し離れた場所から巨大なチャクラが溢れ出した。
 白が大きく目を見開いて振り返る。
 再不斬さんのものじゃない、と白が呟いた。
 即座に白が印を結び始める。
 直感で再不斬の元へ向かおうとしていると気付いた黒凪はその手を掴んだ。



「離してください!再不斬さんが…!」

『あのチャクラはかなりの量だ。アンタが行った所で…』

「それでも見捨てるわけにはいかない!あの人は僕を必要としてくれた人だから…!」



 涙ながらに言った白に目を見開いた。
 分かったと呟く黒凪。
 その瞬間、サクラが目を大きく見開いた。



「(やだ、黒凪…!)」

『再不斬の所に行こう』

「(黒凪!私は、)」



 歪んだ視界に黒凪が眉を寄せる。
 サクラが叫んだ。
 私はサスケ君の側に居たい。
 瞬きをする度に瞳の色が青と金色を行き来する。
 白が切羽詰まった様に黒凪を見た。



「(退いて…!)」

『…っ、』

「退いて!!」



 どぷん、と水の中に押し返された。
 視界の隅に白が映る。
 白は眉を寄せて手を振り払った。
 人格が入れ替わったサクラの手に力は入っていなくて。



「サスケ君!」

「え、サクラちゃん!?」

「すみません、黒凪さん」



 白に目を向けるナルト。
 ナルトは印を結び始めた白に手を伸ばした。
 僕にとってあの人は、
 サスケに向かって行くサクラの背中を白の瞳が映した。



「(貴方と同じぐらいに大切な人だから)」

『(駄目だサクラ!戻って…!!)』

「あの術、解けなくなっちゃうかもしれない。…ごめんなさい」

『(っ…!)』



 更に意識が押し退けられていく。
 湖の底に、沈められていく。
 もがこうとしても無理だった。
 そこで気付いた。
 やはりサクラはサクラだ。
 私がその人格を完全に奪うなんて無理な話で。
 そこで私の意識は、完全に落ちた。



 
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