Long Stories

□桃色に染まる
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「おい!」

「?」



 聞こえた微かな声に振り返った2人。
 2人は駆け寄ってくる小さな陰に体を其方に向けた。
 駆け寄って来たのは先程別れたばかりのサスケとサクラ。
 サスケの身体には依然として針が刺さったまま。
 サクラの瞳は片方だけが金色である所から黒凪ではないのだと判断できる。



「何か?」

「…話したい事がある。」

「僕とですか?」

「黒凪はその、…再不斬、と」



 再不斬と白が顔を見合わせる。
 サスケを見た白が小さく頷きサスケと共に少し離れて行った。
 さてと、と顔を見合わせるサクラと再不斬。
 サクラは目を泳がせるとぎゅっと目を瞑る。



「(お願い代わって、黒凪)」

『(え、でも…)』

「(1回ぐらいなら大丈夫だと思うし、…何より怖いし…)」

『(…サクラがそう言うなら良いけど)』



 サクラの瞳が両目とも金色に染まり再不斬に向いた。
 その目を見た再不斬は片眉を上げ「良いのか?」と聞く。
 その言葉に頷いた黒凪はじっと再不斬を見上げて口を開いた。



『サスケが白と話したいって言うからさ、ついでに来たんだ』

「あぁ」

『…ちょっと思い出した事があって。君の事』

「!」



 再不斬が微かに目を見開いた。
 サクラも湖の上に立つ黒凪を見上げる。
 黒凪は徐に自分の右手を見下した。



『君とはあの時、あまり話せなかったから』

「…あぁ。そうだな」

《――…悲しいねぇ》

《あ?》



 雪の降る森の中。
 随分とあっさり膝を着いた彼を見て、黒髪の少女が言った。
 部下達が全員死んで、殆ど耳障りな音は無かったあの時。
 目の前の女の言葉に再不斬が眉を寄せる。



《アンタ、環境が違ったら全然違う道を歩んでたと思うよ》

《!》



 あの時の言葉の意味を君は解らなかったと思うけど。
 金色の瞳が再不斬を映した。
 あれは君の戦い方が他とは違ってたから言ったんだ。
 黒凪の言葉に再不斬が片眉を上げる。
 君の部下は殺戮を楽しむ様に急所以外の場所を執拗に狙い、そして残虐な言葉を吐いていた。



『でも君だけは私の首を狙いに来ていた…しかも無音の中で。…私が気付かない内に死ぬ様にさ』

「…あれは…」

『単に君があの殺し方を得意とするだけだったのかもしれない。…でも君は明らかに他の奴とは違ってた』



 君みたいな奴、結構知ってるんだ。
 カカシが言ってた事を思い出してやっと理解出来た。
 霧隠れは私の一族と似た所がある。



《そんなに苦しいなら止めれば良いのに。》

《…》

《自分の故郷を捨てて他の場所に逃げた奴を沢山知ってる。…アンタもそうすれば良い。》



 その為にはな、
 唖然と固まっている再不斬の頭に黒凪が手を置いた。
 強くなれ。今の居場所を捨てても大丈夫なぐらいに。
 金色の瞳が細まった。
 そしてもう一度私と戦ってみてくれない?
 アンタが故郷を捨てて独り立ちしたら負けるかもね。
 …そうとだけ言って去って行った。



「…フン。あの頃と同じでお前はよく話す」

『よくやるんだよ、ああいう事。』

「あ?」

『未来有望な若者を後に取っとくんだ』



 あんな居場所、捨てて正解だったろ?
 笑って言った黒凪に眉を下げた。
 君にあんな所は合ってない。
 あの場所で君みたいに優しい目をした奴、他に居なかったから。



「…るせぇよ。」

『あはは。照れてんの?』

「あぁ?」



 笑ってんじゃねェ。
 再不斬の大きな手がサクラの目を覆い隠した。
 内心でサクラはハラハラしていた訳だが、黒凪は変わらずけらけらと笑っている。
 一方そこから少し離れた場所で顔を見合わせたサスケと白。
 サスケが徐に口を開いた。



「何故俺を殺さなかった?」

「!」

「ガキだから手加減したのか?」

「…それも少しあります。でも1番の理由は黒凪さんがチラついたから」



 あ?とサスケが眉を寄せた。
 あの人が誰かと一緒に居る事が想像できなかったもので。少し動揺してたんです。
 またサスケが眉を寄せる。白が眉を下げた。



「君にとって黒凪さんはどういう人ですか?」

「は?」

「…では、君があの時怒ったのは黒凪さんの為ですか?」



 再不斬さんが攻撃を仕掛けた時です。
 白の言葉に微かに目を見開いた。
 君は真っ先に彼女を傷付けた再不斬さんに向かって行きましたね。
 君も分かっていた筈です。再不斬さんの相手はカカシさん、僕の相手が君だと。



「……。」

「黒凪さんは君にとって大切な存在ですか?」

「…。あぁ」



 白が笑顔を見せる。
 多分だがなと言葉を付け足したサスケに白が口を開き、言った。
 君は黒凪さんの一族について知っていますか、と。
 一族と言う言葉にサスケがピクリと反応した。



「君も僕も血継限界を持つ一族です。…君なら、僕と同じで彼女の事を理解できるかもしれない」

「!」

「一族の問題は他人が理解出来る事は少ない。…恐らく黒凪さんが護っている彼女は理解出来ないでしょう」



 彼女は黒凪さんの事を確かに拒絶していましたから。
 その様子を見ていなかったサスケはピクリと眉を寄せた。
 恐らくあの時、彼女は思った筈です。



「黒凪さんとば根本的に何かが違ゔと」

「!!」

「…僕等もそうですよね?」

「……あぁ」



 頷いたサスケに白が目を伏せる。
 君に、黒凪さんの一族について聞く勇気がありますか。
 サスケが顔を上げた。
 彼女の一族は僕達とも少し違います。



「…話せ。」

「…。…彼女の一族の名は夜兎と言います」

「やと?」

「はい。この地球ではない他の星の民族です」



 サスケが眉を寄せた。
 何を言ってる、と怪訝に言ったサスケに白の無表情な目が向く。
 つまり彼女は人間ではない。
 白の言葉にサスケが言葉を無くし固まった。



「とは言っても黒凪さんは人間と作りはあまり変わらないと言っていました。…ただ、人間ではありえない身体能力を持っている。」

「……」

「そして、僕達人間には到底理解出来ないような道徳を持っています」



 まず夜兎には親殺しと言う風習が存在する。
 黒凪さんは物心付いた時、親を真っ先に殺したそうです。
 サスケが目を見開いた。
 そして夜兎は戦いを好む民族であったため、彼女は長い間仲間を作らず戦いに明け暮れていた。
 他の民族を滅ぼす事を何年もしていたそうです。



「自分以外の誰かを護るのば自分が気に入った相手のみ゙」

「…、」

「黒凪さんは、あの少女以外の誰かを護った事がありますか?」



 サスケが右上に目を向けた。
 再不斬との戦いでは毎回協力する姿勢を見せていた。
 しかしそればサクラの身に危険が及ばない為゙なんじゃないのか?
 数秒程の沈黙の後、サスケが首を横に振った。



「俺やナルトを護った事は無い」

「…辛い事を言う様ですが、そんな状態のままではきっと君が死んだ所で黒凪さんはどうも思いません。」

「!」

「君が眠っている間、彼女が優先したのは傷だらけで倒れている君より僕でした」



 気に入った相手は殺さない。殺させない。
 特に野蛮な夜兎は大抵その様な考えだと黒凪さんは言っていました。
 彼女は自分で私は野蛮な分類であると言っていた。
 今、きっと黒凪は君も、あの少年もいざとなれば殺せるでしょう。



「……。」

「もしも君の事を彼女が大切だと思ったなら、命の危機に必ず助けてくれる筈です」



 そうすれば君の言葉も彼女に届く筈。
 白の言葉にサスケが顔を上げた。
 頑張ってくださいね。
 その言葉にぼっとサスケの頬が赤く染まった。



「…あの、サスケ君」

「!?」

「もう黒凪の方は終わったんだけど…」

「あ、あぁ」



 ふふ、と笑った白が再不斬の元へ歩いて行く。
 隣に並んだ2人は静かにサスケとサクラを見た。
 それでは今度こそお別れです。
 微笑んだ白の目がサスケを捉えた。



「…頑張ってくださいね?」

「っ、何度も言わなくて良い…!」

「ふふ、」

「白。」



 あ、はい。
 小走りに再不斬の元へ行く白。
 その背中を、2人で見送った。





























「(なーんて感動的な事を2人でやったのにぃ…!)」

『(あ゙ー…ねむ。)』

「なんで私とサスケ君に進展は無いわけー!?」

『(何言ってんの、この前の任務の時だって話せて…)』



 あー…。と前の任務の事を思い返す。
 …話せてないか。
 黒凪の言葉にサクラがどんよりと蹲った。
 そんな中右から意気揚々と歩いて来るのはナルトとそのナルトに懐いているガキンチョ3人。
 確か1番ナルトと中が良かったのは火影様の孫である木ノ葉丸。
 そんな子供3人とナルトは今…



『(あ。ねえサクラ)』

「え?」

『(ちょっと顔上げて。何か煩いから)』

「煩いって…、え。」



 顔を上げれば見慣れない男女の忍とその男の方に胸ぐらを掴み上げられている木ノ葉丸。
 目を見開いたサクラはその様子を慌てた様子で見ているナルトの側に寄ると目を閉じた。
 黒凪、と呟くサクラにピクリと反応する黒凪。



『(良いの?)』

「(緊急事態だもん、それにあれから一度も入れ替わってないから…)」

『(…解った。)』



 両目が金色に染まった。
 そんな時、黒凪の真横を石が通り抜け木ノ葉丸を掴み上げていた男の手に直撃する。
 チラリと金色の瞳が木の上に座っているサスケに向いた。



「ウチの里で暴れないでもらおうか」

「な、」

『…』

「サクラ。あんまりそれ、やらねえ方が良いんだろ」



 左目が青に染まった。
 うん、とサクラが頬を染めて頷く。
 お前降りて来い。
 男が眉を寄せてサスケに言った。



「おいカンクロウ、もう止そう。そろそろ…」

「何やってる」



 冷たい声に全員が再びサスケの居る方向を見た。
 サスケも声に目を見開き振り返る。
 そこにはサスケの座る木の幹に逆さまになってぶら下がる少年が居た。
 全く気配のなかった少年にサスケが大きく目を見張る。



「が、我愛羅…」

「…何の為にこの里に来たと思ってる。馬鹿な真似は止めろ」

「あ、あぁ。悪かった」

「……行くぞ」



 砂となりカンクロウの前に降りる我愛羅。
 ナルト達に背を向けて歩き出した。
 するとサクラが一歩前に出る。



「ちょっと待って、貴方達砂の忍でしょう?どうしてこんな所に居るの?」

「…なんだ、何も知らないのか?」



 女の忍が振り返った。
 おいテマリ。とカンクロウが振り返って言う。
 しかしテマリはサクラに向かって再び口を開いた。



「私達は中忍選抜試験を受けに来たんだよ」

「中忍選抜試験?…受かれば下忍から中忍になれるあの?」

「あぁ。」

「…テマリ」



 我愛羅の声にすぐさまテマリが振り返った。
 しかし次はサスケが地面に降り「待て」と声を掛ける。
 瓢箪を持ったお前。名前は。
 その言葉に我愛羅が少し振り返った。



「…我愛羅。俺もお前に興味がある。名乗れ」

「うちはサスケ」

「……女。お前は」

「…え?」



 サクラが目を見開いて自分を指差した。
 我愛羅が小さく頷く。
 えええ、とあたふたし出すサクラの右目を我愛羅はじっと見つめた。



「は、春野サクラだけど…」

「…お前じゃないな」

「え」

「いや、いい」



 試験で見させてもらうからな…。
 呟く様に言って我愛羅が去って行った。
 その背中を見送りサスケとサクラが顔を見合わせる。
 さっきの一瞬で勘付かれた…?
 眉を寄せて顔を見合わせる2人の背後でナルトは1人いじけていた。



 
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