Long Stories

□京紫が咲いた
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「龍之介!龍之介、何処だ!?」

「…何だよ永倉…。」

「ちょっと来い!」

「はぁ…?」



 引き摺られて外に出された龍之介。
 彼は一足先に外に出ていた様子の原田と芹沢を見ると「え゙、」と目を見開いた。
 中に戻ろうとする龍之介を捕まえたままの永倉が歩きながら引き摺って行く。
 やがて着いた場所は島原で、芹沢に誘われた永倉が原田と共に無理やり同行させられたのだと理解した。



「ったく、何処がちょっとだよ…」

「龍之介」

「あぁ?」



 名を呼ばれて振り返ると原田がくいと顎で龍之介の右側を示した。
 そこには子鈴が立っている。
 何で、と振り返った龍之介に原田が「俺が呼んだ」と笑った。
 そんな原田に「お前…!」と驚いていると子鈴がすっと龍之介の隣に座りにこりと笑う。



「逢状を頂いたんですけど、手違いどすか?」

「あ、いや…その、」

「芹沢さんは俺と新八に任せとけ。」



 にやにやとした表情で言った原田が去って行き困った様に息を吐いた龍之介。
 そんな龍之介に心配げに子鈴が眉を下げた。



「ほんまに手違いやったら言うてください。すぐに退きますから…」

「い、いや!違うんだ!」

「…違うんどすか…?」

『あぁ。照れてるだけだ』



 何言ってんだよ!と口には出さずに黒凪に叫んで入れ替わる。
 すると子鈴は「そうどすか…」と微かに頬を染めて言った。
 もごもご言ってるだけじゃどうにもならないでしょ。
 サラッと言った黒凪に龍之介が頬を赤く染めた。



「…その印籠、何か入れてはるんですか?」

「へ!?…あ、あぁ…これか…」



 期待してる所悪いが、何も入ってねーんだ。
 そう言った龍之介が印籠を開くとやはり何も入っていない。
 昔は母親が罹ってた病の薬を入れてたんだが、もう必要がなくなって…。
 そんな龍之介の顔を見上げた子鈴の表情が曇った。



「そんな顔しないでくれ、別に俺はもう気にしちゃいないし」

「…すんまへん、うち…」

「大丈夫だって。…それより見てくれ、この印籠は二重底になってるんだ」



 パカッと開いて見せた龍之介が眉を下げて笑った。
 これなら人に見られたくない物を隠す事が出来るだろ?
 話題を変える様に言った彼に子鈴も小さく笑った。
 そして印籠をじっと見ていた子鈴が徐に顔を上げる。



「明日、うちと会って貰えまへんか?」

「へ?」

「その印籠に入れられるもの、うちが何か見繕います」

「え、あ、あぁ…」



 間髪入れず黒凪が「ありがとう」と龍之介と入れ替わって言った。
 そして嬉しそうに微笑んで見せた黒凪に安心した様に子鈴が笑う。
 夜も更け、微かな橙色の灯の中で金色は目立ちにくい。
 彼女は龍之介の変化には全く気付いてない様だった。































「…よう。どうだった?龍之介。」

「おかげでかなり話せたよ。…明日も会う事になった」

「お、やるじゃねぇか。」

「別にそんなんじゃねぇよ」



 原田から目を逸らして言った龍之介。
 そんな龍之介を見た原田は小さく笑った。
 やがて翌日になり待ち合わせの場所へ急ぐ龍之介。
 辿り着くと既に子鈴が立っていた。



「子鈴、」

「井吹はん!」



 嬉しそうに笑って此方に来た子鈴に照れた様に笑う龍之介。
 子鈴は笑顔のまま龍之介の手元に小包を差し出した。
 受け取った龍之介は中身を確認し目を見開く。



「金平糖…?」

「馴染みのお客さんにもろてたんどす。よければもろて下さい」

「(馴染みの、客)」



 ズキッと痛んだ龍之介の胸元に黒凪がピクリと眉を寄せた。
 龍之介はそんな痛みを気にする素振りも見せず子鈴を近場の茶店に連れて行く。
 席についた2人は向かい合うとサッと目を逸らした。
 そして龍之介ば中゙で気だるげに寝転んでいる黒凪を見ると徐に口を開く。



「なぁ、アンタのその口調って素なのか?」

「え?」

「あぁいや、知り合いの女が随分と汚い言葉を使うもんで…」

『(私の事か?)』



 そーだよ、と内心で呟いた龍之介は取り繕う様に笑った。
 すると子鈴も小さく笑い口を開く。



「勿論違います。」

「!」



 急に変わった口調に目を見開く龍之介。
 子鈴は照れた様に笑うと再び口を開いた。
 これが私の元の口調。
 …さっきまでの口調に慣れるまで随分掛かりました。
 困った様に言った彼女に龍之介も微笑んだ。



「舞子には自分から成ったのか?俺はそこの所の事情は全然知らねぇんだが…」

「…自分から花柳界へ入ったわけじゃありまへん…、あ。」



 ふふ、すっかり染み付いちゃいましたね。
 また困った様に言う子鈴に龍之介も眉を下げた。
 元々私は貧しい農家の娘でした。
 徐に語り始めた彼女に黒凪も龍之介と共に耳を傾ける。



「私は島原に売られたんです」

「!!」

「本当はこんな所、今すぐにでも抜け出してしまいたい。」



 でも逃げたりしたら。
 それ以上は言わない子鈴に龍之介がゆっくりと視線を落としていく。
 黒凪も目を伏せた。
 ぽたた、と微かに音が鳴りばっと顔を上げる。



「ご、ごめんなさい。…弱音を吐く気なんて無かったの」

「あ、いや…」

「…もう帰りましょ。井吹さんもお忙しいでしょうし、」



 涙を拭って言った彼女に何も言えない龍之介。
 もやもやとしたままで別れた龍之介は帰り道も黒凪に何も言う事は無かった。
 とぼとぼと帰る龍之介に黒凪も声を掛ける事はしない。




 気持ちの変化


 (ホントあんたって女心が分かってないね)
 (な゙、)
 (私が居なかったら今頃そっぽ向かれてるよ)
 (…。…でも、確かにそうだよな)
 (!?…熱でもあんの…?)


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