Long Stories
□世界を護るには
7ページ/13ページ
「間!何処行きやがった!」
「ど、どうかされましたか日番谷隊長…」
「間の野郎が…」
「はざま…?」
振り返った先に居た隊員に言葉を飲み込み、日番谷の額に青筋が浮かぶ。
本日も黒凪は彼の前から姿を消していた。
「(何処だ…?一体何処に…)」
『あれ?』
「っ!?」
きょとんとした黒凪に走っていたルキアが足を止める。
互いに現世に居ると思い込んでいた2人は顔を見合わせ顔をじっと見つめ合う。
先に口を開いたのはルキアの方だった。
「ま、まだ尸魂界にいらっしゃったのですか…?」
『断崖とやらで何か問題が起きたらしくてね、此方から現世へ戻れなくて。』
「そ、そうなのですか…」
『…君は何故こっちへ?』
そう問うと「え゙、あ、それは…」と目を逸らして言葉に詰まる。
そんなルキアに首を傾げて「言えない事かい?」と問い掛けた。
するとルキアは素直に頷き「すみません…」と謝る。
黒凪はその様子を見るとにっこりと笑った。
『そうか、なら仕方がないね。ただ何を探しているのか教えてくれれば一緒に探す事が出来ると思うよ。…探しているものを教えて良いなら言ってご覧。』
「…実は、霞大路瑠璃千代殿と言う方を探しております」
『どんな子?』
「ええと、貴族の方で、金色の髪をお持ちになり…」
困った様に特徴を述べるルキアに「それじゃあ手を貸して」と黒凪が手を差し伸べた。
その手をおずおずと掴んだルキアに目を閉じるとぐん、と黒凪の気配が尸魂界全体に広がっていく。
『――見つけた。』
「…え、あ…本当ですか、」
『うん。早速そっちに行こうか。』
そう黒凪に言われて一瞬瞬きをしただけ。
その間にいつの間にやら周りの景色が一変している。
ルキアは突然の出来事に思わず周りを見渡していた。
『こっちだよ』
「あ、は、はいっ」
思わず呆然としていたルキアを連れて黒凪が目の前に聳え立つ霞大路家の屋敷に入ると小刀を持った少女に追われている瑠璃千代を発見し、ルキアが斬魄刀を構えた。
しかしそれより早く少女の刀を結界で破壊し、すぐさま結界が少女の身体を貫く。
ぐったりとした少女の中から顔を隠した男の亡骸が現れ、男を改めて結界で貫き、黒凪が怯えて此方を見ている瑠璃千代に目を向けた。
「っ、な、なんじゃお主…」
「黒凪!?」
『ん?…おや、一護じゃないか』
「あ、ありがとうございます。間殿…見つけて頂いて…」
「瑠璃千代様ぁぁあぁああ!!」
ドドドドド、と物凄い勢いで走って来た男を見て瑠璃千代が「犬龍!」と顔を上げた。
ご無事ですか!と瑠璃千代の前で跪いた犬龍とやらをちらりと見てから黒凪が霞大路家の屋敷を見上げる。
先程探査用の結界で軽く調べたが、妙な気配がしたのだ。
『(…この一族、何かあるな)』
「さあ!帰りましょう瑠璃千代様!」
「お、お待ちください犬龍様!実は穿界門を通って此方から現世へ行く事は出来ないのです!」
「何!?」
断崖にて緊急事態が発生し、今通る事は危険であると…。
そう説明をする門番に犬龍が顔色を無くしていく。
その様子を見て余程この尸魂界に留まる事がまずいのだと勘付いた黒凪は結界で一護、ルキア、瑠璃千代、犬龍、猿龍を結界で囲み一瞬で別の場所へ転送させた。
「…え、此処は…?」
『大きい部屋でしょ?私の部屋。』
「お前の部屋じゃねえ、俺が貸してやってんだろうが…!」
スパァン!と襖が開き眉間に皺を寄せた日番谷が姿を見せる。
そんな日番谷に「やあ冬獅郎君。急だけどこれだけの人を此処に泊めても良いかな?」とあっけらかんと黒凪が言った。
黒凪の言葉に「あぁ!?」と日番谷が青筋を浮かべたが、現れた地獄蝶に顔を上げる。
≪緊急警報!緊急警報です!瀞霊廷内にメノス出現!≫
「瀞霊廷内にメノス…!?」
「…どうなってやがる」
『…。どうも最近、可笑しな事が立て続けに起きてる様だね。冬獅郎君。』
「日番谷隊長だ。…俺は隊を動かす。お前等は此処から動くな。」
襖を閉ざして歩いて行った日番谷を見て黒凪が部屋に結界を配置する。
結界を不思議そうに見上げる瑠璃千代に黒凪が目を向けて小さく微笑んだ。
『この中に居れば安心です。何人たりとも入れませんから。』
「おい!間黒凪は居るかネ!この箱は貴様のだろう!開けたまえヨ!」
「…なんかめっちゃ叩かれてんぞこの箱…」
「この声は…涅隊長…?」
襖を開いて結界を擦り抜け、マユリの前に姿を見せる。
途端にずいっと彼の顔が近付けられ、「メノスが出現したのだヨ…この瀞霊廷に…。」と至近距離で言うマユリに「はい」と黒凪が返答した。
するとガシッとマユリが黒凪の肩を掴んだ。
「そんなメノスは非常に珍しい!是非とも捕獲したいのだヨ!君の能力に広範囲を探査する能力があるのだろう!?」
『はい』
「探したまえメノスを!今すぐに!」
『……。分かりました。とりあえず外に出ましょう。此処十一番隊の領地ですし。』
よし、成立だネ。来たまえ。
そう言って黒凪を連れてマユリが瞬歩で移動する。
そして十二番隊の部下達が居る場所へ連れてこられた黒凪は探査用の結界を一気に広げた。
≪伝令です!北東にメノス出現!各隊向かってください!≫
「聞いたかネ、北東だよ!」
『いえ、居ません。』
「何!?」
居ません。この瀞霊廷の何処にも。
無表情に言った黒凪は一番隊舎から出た総隊長の気配に顔を上げ、其方に向かう。
この騒動を受けて「メノスの出現は虚偽ではないか」と話していた浮竹の元へ現れた総隊長の目の前に黒凪が姿を見せた。
『総隊長殿。この状況、何かご存じでは?』
「……眺める者が言っていた通り、侮れぬようじゃの」
『メノスは何処にもいない。…メノスに似たものはいますがね』
「うむ。これから現れるメノスは儂が作らせたものじゃ。…各隊の連携を重んじろと発言した天貝を試す為にな」
その言葉通りに現れたメノスに目を向ける。
そんな黒凪と浮竹に「一番隊舎へ参るぞ」と声を掛けて総隊長が歩いて行った。
天貝がどのように行動したのかを報告にて確認しようと言う事だろう。
黒凪と浮竹は顔を見合わせるとその後に続いた。
「…いやあ、君は凄いな。すぐにダミーだと気付いたのかい?」
『涅隊長にメノスの場所を探る様に言われましてね。その際に偶然。』
「…現世の神に選ばれるだけはある、と言う事か。」
『……。私はあまり好きではありませんよ、この力。』
一方的過ぎて何だか冷たいでしょう。
メノスを見上げて言った黒凪は小さく笑って言った。
『その内寝首を掻かれそうで何だか嫌なんです。私のこの力はまるで、』
圧倒的な力を奮う悪魔の様だから。
黒凪の言葉を聞いていた浮竹が徐に口を開いた。
「君は、護りたい人は居るかい?」
『?』
「大切に思う人は?」
『…います。護りたい人も、大切に思う人も。』
「だったら大丈夫だ。」
君は悪魔なんかじゃない。
笑って言った浮竹に小さく笑った。
しかし途端に目を見開き、顔を上げる。
「どうかしたのかい?」
『…"出た"』
「え?」
瞬きをした瞬間に姿を消した黒凪に目を見張る。
一方の黒凪は一瞬で日番谷の屋敷へ戻り、襖を開いた。
中を瞬時に見渡せば、瑠璃千代だけが居ない事が分かる。
「黒凪!今すぐこの術を解いてくれ!」
『…どういう事だ、何故此処から抜けた?』
「霞大路家専用の穿界門です!それを使って、」
『死神特有の空間支配術か。油断していたな…、そんな抜け道があったとは』
んな事言ってる場合じゃねえ!瑠璃千代が危ねえんだ!
焦った様子でそう言った一護に目を向けて黒凪が結界に目を向ける。
『…。少し時間が掛かる。変に力を掛けられて術が変形してるみたいでね。』
「変形!?」
『この術はこの世界には向かない。と言うより規制されている、と言った方が良いかもしれない。』
「なんでお前の術が規制されてんだよ!」
ちょっと昔に色々あったからね…。
ま、それを無視してこっちでも使っていたわけだけれど。
そう言って結界に触れて眉を寄せる。
随分と複雑な変形の仕方をしている事が理解出来た。
『…。一護』
「あぁっ!?」
『私がゆっくりと術を解くのと無理に解くの、どっちが良い。ちなみに後者だと尸魂界の役員が飛んで来るやもしれん』
「無理にでも解いてくれ!」
「おい一護!」
『分かった』
すぐさま出された一護の判断に従って空間を捻じり道を開く。
途端にドタドタと複数の足音が聞こえた。
そして突きつけられた刀に黒凪が両手を上げる。
「規制された術を使ったな!」
『…。』
「…その術の類は申請を通さねばならぬ規定だ。今回は事後報告となる。時間を頂くぞ。」
「んな時間なんて――!」
さっと突きつけられた刀に一護が言葉を止める。
自分が死神達にばれずにゆっくり術を解くのとその申請とやらの時間。どちらが早かったのだろうか。
そんな事を呑気に考えながらバタバタと動き始める役員達を静かに見上げた。