夢見がちな絵本たち
□番外編3
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「車が来る待ち合わせ場所!!キタコレ!!」
...唐突だが伊月さんってなんであんなに残念なんだろう。
ファンタジーな子供部屋の調度品よりもそれがよっぽどファンタジーだと思う。
「どうかした?」
じーっと見つめる私を不思議に思ったのか伊月さんが首を傾ける。
それに合わせるようにつやつやさらさらの黒髪も流れる。うん、絵になる。
『伊月さんってどうしてダジャレ好きなんですか?』
誰もが気になってるであろう根本的なことを聞いてみた。
別によりにもよってダジャレを選ばなくても。
どうしてって、と呟くと伊月さんはちょっと笑って黙った。
あれ、な、なんだこの雰囲気。あれ、これ聞いちゃだめとかじゃないよね。え、死んだ身内の遺言とか。
「考えたことなかったな。」
あ、そっちですか。
伊月さんはえへへ、といった若干照れた感じの笑みを浮かべた。なんだなんだ可愛すぎる。
「好きになるのに理由なんかいらないと俺は思うけど。」
真剣な顔で言い切る伊月さん。うわかっこいいそれがダジャレに対してじゃなければ。
...やっぱり伊月さんは残念だった。
現在この子供部屋には私と伊月さんだけで。
他のみんなはふらふらどっかに行ってしまった。てかみんな私を置いて行くの好きだな。仲間外れ反対ー。
「俺は何に対してもそうだよ。」
急に伊月さんが口を開いたものだから私は一瞬何のことか分からなかった。
ええと、さっきまで何の話をしてたんだっけ、そうだそうだダジャレが好きって話から好きになるのに理由はいらないって伊月さんが言って...あ、そうだそうだ。
「バスケだってそうだし。本当に好きなものって理由なんか無いんだと思う。」
みょうじは?と伊月さんがふんわりと笑った。
『私は...どうでしょう。やっぱり好きになってみないと分からないです。』
そう言うと伊月さんはへぇ、と興味深そうに頬杖をついた。
「なにかを好きになったこと、ないの?」
『分かりません。無いような気もするしあるような気もします。』
「面白いな。」
表現が、と伊月さんは言うと微笑んだ。
「なにかを好きになるってね、意外に楽しいよ?」
『そうなんですか?』
「うん。...例えばさ好きになったのがコロコロ表情を変えるタイプだったらね、見てて飽きないんだ。」
コロコロ表情を変えるタイプのものってなんだろう。天気?天気なの?朝は晴れてたのに夕方から雨とかツンデレかって思うもんね、あれ。いや、デレツンか。
「その子の視線が今どこに向いてるんだろう、とか。何考えてるんだろう、とか思うとワクワクするし。」
その子、って随分人に対するみたいな言い方するんだな。うんうん、天気擬人化?え、ていうか視線?え?
『あ、あの伊月さ、』
「それでね、珍しく二人きりだと嬉しくてしょうがない。...とかね。」
伊月さんはそう言って笑うと「みょうじって結婚できなさそう。」と急に毒を吐かれた。え、なんで。ていうか天使のような伊月さんでも毒吐くのか。
『なんでですか!?』
私が伊月さんの顔を覗き込んで文句を言うと「そういうところだよ。」と指先でトン、と額を軽く弾かれた。
目の前には綺麗な伊月さんの顔。
にっこり笑う伊月さんの思考が今の私には一番ファンタジーに思えた。
(...結婚できなさそうってどういうことだろう。女子力?女子力装備して来いってこと?)
(...鈍感って難しい。)