夢見がちな絵本たち

□拍手特別編
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「先輩!!」
「ん〜?」

部活を始めるために俺が更衣室でユニフォームに着替えていると一足先に着替え終わっていた津川がやけに真剣な顔をしてこっちを見ていた。

「それ、どうしたんすか?」
「あ〜、これぇ?」

津川の視線を辿った先にあるのは俺の髪の毛。
一部分器用に編み込んであり花の可愛らしいピンで留められてる俺の髪を津川は興味深そうに眺めている。

「なんかね〜、クラスの女子がしてくれた。」
「え。」
「頼んだわけじゃね〜のよ〜?」

一か月前入ってきたばかりの生意気なこの一年生が隠すこともせず露骨に引いた顔をしたので俺はそう付け加えて首を竦めた。

「昼休みに居眠りしてたら勝手にいじられてた。」
「へ〜。」

津川は何回か大きな目をぱちぱちと瞬かせた。

「少し前から思ってたんですけど春日先輩って女子と仲良いですよね!!」
「う〜ん、まぁ。そうっちゃそうかも。」

女子と話すのに気兼ねとかしたことないし。
教室にいる時も普通に会話するし休日に時々遊びにいったりもする。
別に女子と関わるのに特別なことなんか俺の中では何もない。


「あ〜…。」

俺の返答を聞いて津川がどこか遠くを見て唸る。え、どうした?ん〜?こいつ、生意気だけど悪い奴じゃないんだけど意味分からない奴で…あれ、結局俺、何が言いたいのか分かんねーわ。


「俺も、女子と話したり仲良くしたりするの苦手な方じゃないし。いや、どちらかというと得意な方なんだと思ってたんですけど。」

津川はなんの前触れもなくそう切り出すとまた頭を抱えた。え、超らしくないんだけど〜。

「春日先輩!!教えてください!!どうすれば女子と仲良くなれるんですか!!」


…ん?


まさか入ってきたばかりの後輩にバスケのことよりも先に女子と仲良くなる方法について聞かれると思ってなかったちょっとこれは俺も予想外かな〜うん。

対する津川は至って真剣なようでウザったいほど身を乗り出して「実は、」と切り出した。


「どうしても隣の席の女子と仲良くなれないんです!!」



「隣の席の女子?」
「はい!!はじめっから席が隣同士で、この前の初めての席替えでも隣同士で。せっかくだから仲良くなりたいんですけど、」

津川はそこまで言うと口ごもった。

「俺に心を開かないつーか、思いっきり警戒されてて。」
「なるほどね〜。」

俺はどうしたものかと考え込む。
そりゃ女子だって誰しもがノリの良いやつだとは限らない。おとなしい子だっているし。
でも俺は別にそんな子たちに絡みにくいな、とか思ったことはあんまりない。
初めどんなに警戒されてても何回か話したりするうちに段々とお互いに慣れていくものだし。

「全然ダメなんすよ!!ていうかもはや俺とかどうでもいいみたいで。」
「ふ〜ん。」

変わった子、と俺は呟いて脱ぎ終わったセーターをロッカーにたたき込んだ。セーターを見ると入学式の事件がありありと思いだせる。…あの子も新入生だよね〜。絶対名前とクラスを突き止めてやるって思ってたけど部活が忙しくてそれどころじゃなくて結局そのままだ。

…今年の一年って不思議な子が多いんだろうか。

「んで〜?」
「はい?」

俺が首を傾けると津川も傾けた。え、なにこの状況。

「そんなに仲良くなりたいの〜?その子と。」

俺が単刀直入にそういうと津川はぴしり、と固まった。
坊主頭に似合わない長い睫毛を少しも揺らすことなく目を見開いたまましばらくそのままだった津川だったが、

「おーい。」

と俺が目の前で何回かパタパタと手を振ってやると我に返ったように「ち、違、いや、はいそうです、けれどもですね。」と纏まりのない文字列をうにゃうにゃと呟いて顔を赤くした。


「あああああああ!!もう参りましたよ!!仲良くなりたいです!!」

ややあってすべての言い訳をあきらめたように津川が赤い顔のまま叫ぶように答える。いやそんな大声で答えなくても。

「へぇ。」

俺はゆっくりと唇の端を吊り上げた。
後輩の色恋沙汰、か。
これは…、

「楽しいことになってきたねぇ。」
「春日先輩?なんか今言いました?」
「いんや〜、別に。」

津川のきょとんとした顔を見るに本人は自覚してないのだろう。というかもしかしたら色恋、とかそういうのではない、と言う可能性もある。

そういうのも抜きにしてその女の子が仲良くなりたいと思わせるような魅力的な人格を持っている、とかね〜。


俺が内心色々な考察をしてニヤニヤしていると「結局、」と津川が焦れたように言った。

「俺はどうすれば仲良くなれるんすかね!!」
「う〜ん。」

俺は何回か瞬きをした。

「津川さ、自分の話ばっかりしてない?」
「え。」
「その子に。」

俺がそういうと津川が目を逸らす。うわあ、分かりやすい〜。図星かぁ。

「本当に仲良くなりたいんならその子の好きな話題とかを〜、それとなくリサーチしてそういう話題を振ることがまずは大切なんじゃないの〜?」

思ったことをそのままいった結果、津川は一瞬にして目を見開いてその後笑顔になった。

「さすが春日先輩!!遊び慣れてるだけありますね。」
「誤解を生むような発言しないでよ。」

遊び慣れてる?どんなイメージだよそれ。髪か?この髪の色が悪いのか?
複雑な心境の俺と相対するように吹っ切れたようにニコニコする津川。

「ありがとうございます!!俺、頑張ってあいつについて知ってみますね!!あいつの好きな食べ物とか通学路のコースとか。」

アレ、なんか今ストーカー予備軍を作ってしまった気が。
だが一応これでも可愛い期待の後輩が喜んでいるのだからよしとする。



「おい、津川。」

その時更衣室に岩村が入ってきた。

「お前に用があるとかでクラスメイトが来てんぞ。」
「え。」

津川は喜び一変、怪訝そうな顔になり更衣室から体育館の入り口付近を見やったと思うと急に慌てだした。え、どったの。


「津川?」

さすがに挙動不審過ぎたので俺が呼びかけると津川は慌てたままこちらを振り向いた。

「と、と、と、」

え?

「俺の、例の、あいつが、い、います!!」

えっと?

…理解するのに数秒かかった。
つまり津川の客とはそのさっきまで話に出ていた隣の席の女子のことらしい。

…へえ。
一言でいうとどんな子か、気になる。

慌てて駆け出す津川の後を俺は悠々と追いかけた。



(下につづく)

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