夢見がちな絵本たち

□一万打企画!!
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「今日の晩御飯はなまえの好きなものにしようと思うの!」

「何が食べたい?」

「何でも、いいのよ。」


お母さんの声が聞こえる。
そういえばすごくお腹がすいた。何でもいいのかぁ。悩むな〜。

ここは王道にハンバーグ?いやちょっと中華に餃子もいいかも。いや、でも餃子食べたら息、やばいから。あれはやばい。

女子らしくもないことを考えて餃子、という案を否定する。


うーん、じゃあ、それなら、



『コロッケが食べたい!!』

「え、あ…うん。そっか。コロッケ美味しいよな。」


全力で叫んだ私の視界に映り込んだのはお母さんではなくサラサラの黒髪を持つただのイケメン。ただし黙ってればに限る。


「急に叫んでどうした?寝てたから起こさないでおいたんだけど。」

そう言って目の前の伊月さんは優雅に微笑む。

…そうか。
私は一瞬にして状況を察した。
そうだよ。私、今知らない場所にいるんだった。有りえないことばかり起こる変な場所に。…家じゃないんだ。お母さんがいるわけ、ないのに。


そりゃあ親が嫌いなわけじゃないけど…個人的にこんな夢を見ることって珍しいような気がして。
まさか…これが噂のホームシック!?私が!?そんな繊細なおなごだったとは!!


私が一人でいろいろ考えて百面相していると伊月さんが「なになに?」と興味を持った様子で私を覗き込んできた。


「夢でも見た?」

『まぁ、そんなところです。』


私がそう言って笑うと伊月さんがちょっと顔をしかめた。え、私何か変なこと言ったかな。


「悪い、夢?」
『え?いや…悪い夢ではないですけど。』

でも、正直見たい夢でもなかった気がする。
ただでさえこの意味わからない状況。ちょっとでも弱気になったらどんな目にあうか分からない。

ここで、家とかお母さんが懐かしくなるのは、なんか。

私がなんとも言い難くて誤魔化すように『あはは。』と笑うとふいに伊月さんは少し目を細めた。

そのまま伊月さんは細い指を私の頬を掠って頭に置いた。
まるであやすように私の髪を梳く。

『伊月さん…?』

私の髪のぼさぼさ具合が気になったのか?
伊月さんの珍しく突飛な行動についていけなくてきょとんとすると伊月さんはちょっと拗ねたように小首をかしげた。


「何されてるか分からないって顔してる。…俺なりに慰めたつもりなのに、みょうじのこと。」
『へ?』

ますます訳が分からなくて首をひねると伊月さんの手がそのまま後ろ頭に回って私の体が伊月さんの肩の近くまで引き寄せられる。え?え?伊月さんどないしました?どないなされましてでござりまして落ち着け私。


「あのさ。」

一人テンパってる私をよそに伊月さんは私の耳のすぐ近くで呟く。
静かで優しい声。


「俺じゃ、みょうじの寂しさとかどうにもできないかもだけど…こうやって一緒に居て慰めることはできるんだよ?」


そうやって一旦私を少し離して顔を覗き込むと伊月さんはふわり、と笑った。


「みょうじのわがままくらいならできる範囲で聞くからさ。」

『え、』


戸惑ったままの私の眉間を伊月さんの指が弾いた。


「だからそんな暗い顔しないでよ。ね?」
『…私、顔暗かったですか。』
「うん。顔死んでた。」
『死んでた!?』

私が思わず声を大きくして聞き返すと伊月さんはカラコロと楽しそうに笑う。そうか…私は顔が死んでたのか。

いくらホームシック(疑惑)とはいえ伊月さんを心配させて悪いような気がした。

『ありがとうございます。でも、私大丈夫ですから。』
「ホームシックが?」
『分かっちゃう伊月さんかっこいい!!そこに痺れる憧れる!!』

そしてなぜわかったエスパーか。なんでみんなこんなにエスパーなんだ。


「見てれば分かる。」

コロッケって言ってたし、と伊月さんが笑いながら呟く。確かにですね!!


「本当に、色々頼っていいんだからね?」

伊月さんはそう念を押してまた微笑む。どうでもいいけどやっぱ伊月さんマジマイサンシャイン。


伊月さんとそうやって会話を弾ませてるうちにいつのまにかさっきまでのぐるぐるした感情は薄くなって言ったような気がした。

…伊月さんといるとやっぱり落ち着く。



「ほぉ〜、虫がホームシックか。キタコレ!!」

『すいませんやっぱりつくづく残念でした。』

「え?」

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