夢見がちな絵本たち

□拍手短編
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<なまえ は カイ に 変な薬(?) を かけられたようだ>


「おい、カイこの馬鹿野郎。…こいつに何しやがった。」

(この馬鹿野郎っていう言葉、2倍にしてお前にそっくりそのまま返すよ。)

「言えてるな。」

「おい花宮てめぇどっちの味方だ。」


俺と花宮とみょうじの3人でいるところに急にカイが現れて意味の分からねぇ薬を真正面からぶっかけやがった。…何考えてんだこいつ。てかみょうじ無反応だけど大丈夫かよ。…死んでるんじゃねぇだろうな?


『…カイ?』

あ、喋った。つか生きてた。
…ていうか第一声がこいつの名前って何だよ…。


とりあえずみょうじが無事なことを確認して安堵する。
だが次の瞬間俺は自分の耳を疑った。


『カイ…好き。』

「…はぁ?」


よく分からない驚きで声が出ない俺の代わりに花宮の口から何とも気の抜けた声が漏れた。
見ると珍しく花宮が心底ぽかん、とした顔で名前を見つめていた。

「お前…どうした?」

花宮が目を瞬いてまるで幼子に諭すような口調でみょうじに問いかける。
みょうじは花宮を無視してカイに子犬のように擦り寄った…す、擦り寄った!?


『カイ、大好き。』

(ん、ありがと。)

『よしよしして。』

(はいはい。よしよーし。)


…なんだこの光景。
…なんでこの二人イチャついてんだ…てかみょうじどうした?とうとう頭の回線切れたか?


普段の姿からは考えもつかない様子で甘えるみょうじと満更でもなさそうなカイ。
カイの長い銀髪に指を通して『さらさら〜』と喜ぶなまえを花宮が呆然と見つめている。



「どうなってやがる…。」

「んなもん分かるか。」

「おいどうにかしろよ花宮。」

「言われなくても引きはがして殺す。」

「え、どっちを。」

「馬鹿か、なまえなわけねーだろ。」


ちなみに以上の会話は一瞬の間に俺と花宮によって交わされたアイコンタクトである。
まさか俺と花宮の心がここまで一致団結する日が来ようとは…。

…ていうか「なまえなわけねーだろ。」とかさらっというあたり、本人が気づいていないうちに花宮自身も無自覚にだいぶデレてると思うのは俺だけなのか…。


もう一度視線を戻すと相変わらずカイにしがみつくみょうじと綺麗な顔に笑みを浮かべてそれに応じるカイ。
ムカつく。
正直かなりムカつく。


ていうかあんなみょうじの甘えた顔を俺は見たことないし…見るのやめようなんか照れてきた。んだよ!!俺ヘタレかよ!!どうした俺!!


「おい。」


花宮がカイにしがみついているみょうじの腕に手をかける。

『ん〜?』

ほわほわとした表情のまま花宮の方を振り向くみょうじに花宮がサッと目を逸らす。
そしてそのままカイの方を睨みつけた。


「カイ、こいつに何しやがった。」

(えぇ〜、そんな大層なことじゃないのにさぁ〜。)


カイは唇の片端を持ち上げるとみょうじの髪に指を通す。


(ちょっと俺に従順になる薬らしきものをかけてみた、的な。)

「的なってなんだよ。」

(だって黒薔薇のとこからかっぱら…もらってきたものだからよく分からないし。)

「適当かよ。とりあえず元に戻せ。」

(え、いいじゃん。)


そこまで言うとカイはみょうじを抱えるように脇の下に手を入れて人形みたいに持ち上げた。

(ほら〜、かわいいだろ。)


ふにゃ、と笑う名前に花宮がずささっと後ずさるのが分かった。


(ね、なまえ。俺のこと好き?)

『好き。』

(どんくらい?)

『う〜ん、だーいすき。』

(俺もす…)


上機嫌なカイが言葉を続けようとした時だった。


『でも真も好き〜。』

(って…は?)

「…はぁ?」


みょうじの衝撃の一言にカイも花宮も…もちろん俺も固まる。


(…このクズ眉毛も好きなの?)


若干瞳をひくつかせてそう聞くカイは明らかに声が低い。そして目が死んでいる。

『うん。』

そう言うとカイの手から離れてとてとてと危なっかしく花宮のところまで歩いて行ったみょうじは花宮にぎゅっとしがみついた。


「は、お前、あの、は、え?」


明らかにテンパっている花宮そっちのけでみょうじはまたふわふわと笑う。

『真、ぎゅーってしよ。』
「…あのな、なまえ…。」

花宮はとりあえず口を開くもののその後が続かない。
するとみょうじは花宮から離れて今度はこっちに向かってきた。


『みーやーじーさん。』

そのままみょうじは俺にタックルしてきて一緒にバランスを崩す。
若干打ち付けた背中が痛い。ていうか…おい、あの、はい、この状況…。


『宮地さん。』

「はいなんでございましょう。」

なんで俺敬語だよおおおおお!!テンパりすぎか!!


『宮地さんも、好き。』


ああ、神様仏様。
据え膳を食わぬは男の恥って…言うよな…。


俺の脳裏に様々な考えが過った時だった。



ぱちん、と指が鳴る音。
途端にみょうじがぱちくりとした瞳になる。


『あれ…って、えええええ、なんで私宮地さんの上に乗ってるんですか!?すいません!!重いですよね!!石臼ですよね!!マジ私ギルティですね!!ごめんなさい!!』


みょうじは訳な分からないことを口走りながら慌てて俺の上から退く。
…よかったいつものみょうじだ。
よかった…危うく俺が花宮に殺されるところだった(色んな意味で)。


一方指を鳴らした当の本人であるカイは明らかに不機嫌だった。


(何?俺以外にも媚びるわけ?聞いてねぇよそんなの。つまんねぇの。)


よほどイラついたらしくお馴染みのキャラ崩壊を起こしているカイ。
どうやら自分以外にも甘えたを連発したことが気に食わなかったらしい。

自分から薬の効能を解除したようだ。


『うわああああカイ!!何しに来たの!!』

(別に。)


カイはそう言い残すと不機嫌モードのままどこかへ消えて行った。


『…何だったの?…って真!?どうしたの?』

「…なまえ。」

『何?』

「…なまえの…。」

『私の?』

「なまえの…ばぁか!!あほ!!まぬけ!!茄子!!」

『茄子って…え、はぁ!?急に何?何で私けなされなきゃならないの?』

「うるせぇこっち見んなグズ。」

『え、ちょ、真…宮地さんどうにかしてください…宮地さん?なんで宮地さんまで目を逸らすんですか?え?ちょ、』

「わ、悪ぃ…。」


…みょうじには悪いが。
俺も花宮もしばらくはみょうじと目をあわせられそうになかった。



(悪い夢としか思えねぇ。)
(…何で二人とも目をあわせてくれないんだろう。)
(…でもちょっとカイに感謝してる俺がいる…ことも無いことも…無い、うん。)

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