夢見がちな絵本たち

□拍手短編
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「ねえねえ、なまえちん。」

『何むっくん。』

「なまえちんってお菓子みたいな匂いするよね〜。シャンプー何使ってるの?」


むっくんから話しかけられたと思ったら唐突にものすごい女子力全開なトークが開始されて私は思わず数歩後ずさってしまった。


『むっくん…。』

「な〜に?」

『まさか私に…喧嘩売ってる?』

「はぁ?」


さっきまでの緩やかなトーンはどこへやら。
むっくんは少し不機嫌そうな顔になるとむにゅ、と私の頬を掴んできた。


「どうしたらそうなるわけ?やっぱなまえちん、面白いけど意味わからなさすぎ。」

『私的には今のむっくんの行動の方が意味分からないよ!!』


むっくんにようやく解放された頬をさすりながら私は言葉を続ける。


『…どうせ私は石鹸シャンプーだもん。』

「せっけんしゃんぷー?」


むっくんが砂糖菓子みたいな甘い声でそう呟いてこてん、と首を傾ける。
くっそ可愛いな!!巨神兵のくせに!!精々ホワイトデーにモテろ!!


『むっくん石鹸シャンプー知らないの?』

「うん。」


あっけらかんと頷くむっくんに俄然私の士気が上がる。

こうなれば仕方がないここは私が『石鹸シャンプー布教委員会会長』としてむっくんに石鹸シャンプーのよさを力説せねば!!


『あのねむっくん。石鹸シャンプーっていうのはそれ一本で頭からつま先まで隅々洗える優れものなんだよ!!』

「え、シャンプーで体とか顔とか洗うの?」


さぞかしエッセンシャ○とか使ってそうなさらさらな髪を揺らしてむっくんが「信じられない」と言いたげにこっちを見る。

うん、傷つく。


『石鹸シャンプーを甘く見たらいかんぜよ!!』

「なまえちん、語尾が迷子になってる。」


拳を握りしめて熱くそう言い放つ私にむっくんが何か言っているが生憎 聞 こ え な い 。


『石鹸シャンプーは髪に使っても体に使っても安心な成分で作られてるの!!これで赤ちゃんも安心して使えるというわけなのだよ。』

「真似をするな。」


緑間くんの真似をしてかっこよく決めたら緑間くんからツンドラのような冷たい視線が送られていた。酷い!!


「大体高校生にもなって石鹸シャンプーを使っている奴がいるとはな。」


真まで馬鹿にしたようにこちらを見て噴き出す。くっそこいつもさぞかし良いシャンプー使ってんだろうな。ていうか真が石鹸シャンプーの存在を認知してたことにまず驚きだよ。


『ほらみんな馬鹿にする!!だからむっくんがこの話題を振ってきたときに喧嘩売ってきたのかと思ったんだよ!!』

「ちょ、なまえっち落ち着くッスよ!!俺のモデル仲間にも石鹸シャンプー愛用者いるから!!」

『黄瀬くん慰めてくれてありがとう。でもなんか話題がムカつくから一回蹴ってみてもいい?』

「理不尽!!」


石鹸シャンプー便利じゃん!!お肌に優しいじゃん!!やっぱ使ってる人いるよね良かった。



「何の騒ぎ?」


そこへもって宮地さんが乱入してきた。
なんとしてでも宮地さんにこの話題を漏えいするのは避けたい。絶対また笑われる。


「こいつが石鹸シャンプーだっていう話。」


さらりと真が言った後にこちらを見てぺろ、と舌を出す。

あんの眉毛ええええええええええ!!一回眉毛全部引きちぎって打ち上げ花火で大空に舞いあげてやる!!


私が真への怒りで燃えてると宮地さんはしばらくぽかんとしていたがすぐにニヤリ、と笑った。

色素の薄い瞳が細められる。

そしてそのまま私につかつかと歩み寄ると私の髪に手を伸ばした。


さらり、と宮地さんの指が私のお世辞にもさらさらとは言えない髪を掬う。

なんなんだこの状況は!?
…と思っていると宮地さんが綺麗に笑った。


「俺はみょうじの髪、結構好きだけど。」


その場に一瞬にして激震が走った。


「お前正気か!?」


真が世にも失礼なことを口走りながら宮地さんをぐらぐらと揺さぶる。


「大事件アル…。」

「歴史に残るのだよ…。」


地味に失礼な二人組が無駄に深刻そうな顔をしているのがムカつく。今なら殴り飛ばしても私に非は無いと思う。


「最初に褒めたの俺なのに〜。」

むっくんはなぜか不満そうに頬を膨らませているし何なんだこの状況。


「花宮、揺らすの止めろ!!轢くぞ!!」

「お前が頭を冷やすために一回轢かれてこい!!」


真に揺らされ過ぎて気分悪そうにしながらどうにかこうにか振り払って乱れた髪を戻しながら宮地さんは綺麗な顔に眉根を寄せる。


「…俺、そんな変なこと言ったかよ。」


無自覚タラシかよ!!罪深いな!!

なんでそんなに意味分からないところで天然なんだよ!!世のお姉様をメロメロにする気かそうに違いない。


宮地さんのその一言でまたしても騒然とする中、森山さんだけが真面目な顔をしていた。



「…なるほど。モテるにはそういうテクニックが必要なのか、勉強になる。」


…アレ、全然真面目じゃなかった。



(宮地、残念ながらお前はたった今全世界の男を敵に回した。)
(言っとくけどそれはお前も同じアル花宮。)
(…ここにいるイケメンども全員世界の敵だと思うのは私だけだろうか。)

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