みじかいの
□甘酸っぱい匂いがした。
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「原くん原くん、何食べてるの?」
放課後成績の理由で居残りをさせられていた俺。
居残りは悲しいことに、俺とクラスメートの深夜しかいなかった。
居残り勉強をさせられているのに、深夜は呑気に俺に話し掛けてきた。
「ガムだよ、ガム。」
俺はめんどくさそうに、深夜に答えてやる。
……って言うかこの問題終わらせないと、部活にも参加させて貰えないんだよね。
さっさと終わらせないと…
そう思いつつ、『なんとかベリー』の味がするガムを噛んでいた。
(……何ベリーだったっけ…)
「いいなぁ、いいな!!
私にもくれる?」
適当に返事したのに、食い付いてきた。
若干めんどくささを感じつつ、
「んー、」
と言いながらスクバを漁る。
……が、肝心のガムは何処にも見当たらない。
今俺が食べてるので最後だったらしい。
「悪ィ、俺が食べてるので最後」
俺がそう口だけの謝罪を告げると、深夜はがっかりしたように首を項垂れる。
「…そっか。なら仕方ないね。
ごめんね、原くん」
そしてそのまま、あいつは自分の問題に取り掛かろうとする。
…おいおい、待てよ。
誰も別に、お前がガムを食べられないなんて言ってないぞ。
そう心の中で告げつつ、あいつの肩を強く引く。
そして顔をこちらに向け───
「……………んっ!?」
口付けた。
舌を捩じ込んで、ガムを移す。
口を離してやると、そこには茹で蛸みたいな深夜が。
甘酸っぱい匂いがした。
(ガム、旨かった?)
(…………うん。)
(そりゃよかった。)