みじかいの

□甘酸っぱい匂いがした。
1ページ/1ページ




「原くん原くん、何食べてるの?」


放課後成績の理由で居残りをさせられていた俺。
居残りは悲しいことに、俺とクラスメートの深夜しかいなかった。

居残り勉強をさせられているのに、深夜は呑気に俺に話し掛けてきた。


「ガムだよ、ガム。」


俺はめんどくさそうに、深夜に答えてやる。

……って言うかこの問題終わらせないと、部活にも参加させて貰えないんだよね。
さっさと終わらせないと…

そう思いつつ、『なんとかベリー』の味がするガムを噛んでいた。
(……何ベリーだったっけ…)


「いいなぁ、いいな!!

私にもくれる?」


適当に返事したのに、食い付いてきた。

若干めんどくささを感じつつ、


「んー、」


と言いながらスクバを漁る。
……が、肝心のガムは何処にも見当たらない。
今俺が食べてるので最後だったらしい。


「悪ィ、俺が食べてるので最後」


俺がそう口だけの謝罪を告げると、深夜はがっかりしたように首を項垂れる。


「…そっか。なら仕方ないね。

ごめんね、原くん」


そしてそのまま、あいつは自分の問題に取り掛かろうとする。

…おいおい、待てよ。
誰も別に、お前がガムを食べられないなんて言ってないぞ。

そう心の中で告げつつ、あいつの肩を強く引く。
そして顔をこちらに向け───


「……………んっ!?」


口付けた。

舌を捩じ込んで、ガムを移す。
口を離してやると、そこには茹で蛸みたいな深夜が。






甘酸っぱい匂いがした。






(ガム、旨かった?)

(…………うん。)

(そりゃよかった。)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ