みじかいの

□狡いくらい、愛して
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「あぁ、だるい…」


「貴方はいつもそうでしょう。」


いつも怠そうにしている我らがボスに、ピシャリと言い放つ。
彼はそんな私の言動に驚きを見せるでもなく、ただにやにやと笑うだけ。
彼はいつもそうだ。
自分の言動で私を惑わせては、私が戸惑うことを面白がる。

『飽きないな、』

なんて言って。
私にとっては不愉快で、嬉しくも何ともないのに。
それでも彼が嬉しそうにするだけで、許してしまいそうになる。
狡い男だ。


「こんな日は、何もする気がおきない。

一緒に紅茶でも飲まないか」


「何もする気が起きないんじゃなかったの?

お茶会も怠いものだと思うけど」


可愛くない私は、そうぶっきらぼうに返答する。
…本当に、可愛くない。
少しは素直になることを覚えたらいい。
そうすれば、もしかしたら彼だって、相手にしてくれただろうに。
それでもきっと彼は、素直じゃない私も楽しんでくれる。
まるで見世物だ。
楽しくない。
けれど彼は、そんな私を誰にも見せたくないと言う。
だから見世物なんかじゃないのかしら。
見世物じゃなくて、彼だけの見世物。
彼に見て貰うための、置物。


「いいや、違うよ。

お茶会ではなく、紅茶を飲むんだ。
お茶会は茶菓子や何やらと用意するだろう?
そんなものは必要ない。
紅茶その物を味わうんだ。
キミと二人きりで───

───そう、とても有意義だとは思わないかい?

なぁ、お嬢さん?」


再度私に確認してくる。
ブラッドは狡い。
私を特別扱いする。

だって使用人見習いの私が、雇い主にお茶に誘われるなんてことある筈がないのだから。
あってはならない。

それも全て、『余所者』と言う特典が付いているからで───

───珍しいだけなのだ、きっと。
飽きたら、興味をなくしてしまったら、きっと一人にされてしまう。
だから捨てられないように、彼に好かれたいと思う。
彼の隣にいつまでも居たいから、捨てられたくないと思う。


「貴方って、狡いのね」


つい溢れた本音が、彼の興味を惹き付ける。
彼は目を細めて笑いながら、

『俺の何処が狡いのかな、お嬢さん?』

なんて尋ねてくる。
別に彼はその質問の答えが聞きたいんじゃない。
私の導く答えと、反応が知りたいのだ。
ただ、それだけ。


「全部、全部よ。

私を引き留める全てが、狡いの」


こんなの我が儘だ。
笑われる。
キミは可愛いな、と笑われる。
からかいを含めた嘲笑が落ちてくるんだろう。
そう構えていたのに、見上げて見ればそこには顔を赤らめたブラッドの姿。
照れくさそうに視線を反らして、腕で顔を隠している。


「…そ、それは、アレか。

私がキミの心を、引き留めていると言うことか。

私が、その、」


どぎまぎしている。
全く彼らしくない。
どうかしてしまったんじゃないか、ってくらい。
それでも何だか可愛くて、少し笑ってしまった。








狡いくらい、愛して







(…何を笑っているんだ)

(……全く、キミは狡いことこの上無い)

(だからこそ、こんなに愛しいんだろうね)

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