みじかいの

□悪者になりたい、残酷なヒーロー
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「試合、負けたの?」


誠凛高校だか何とか言う、名もないとことの試合だったよね。
ルーキーが入ったとか、無冠がいるとか騒がれてたけど。
花宮なら、余裕かと思ってた。
いつもみたいに自虐気味の笑みを浮かべて、ボールの感触を思い出してるのかと思ったよ。

ぺらぺら、そんな擬音が聞こえるくらい、饒舌になってしまった。
勿論この言葉は、心の中に閉まっておく。
口に出したら殺されかねない。


「顔に出てるよ、花宮。

皆心配してるんだよ。

機嫌が悪い、って」


因みに言うと、怯えてる。
花宮の本性を知ってる人は、ビクビクしてる。
飛び火がくるんじゃないか、って身を竦めてるよ。


「うるせぇな、殺すぞ」


声のトーンが、いつもより低い。
怒ってる。

眉間にこれでもか、ってくらい皺を寄せて、口をへの字に歪めて。
私を強く睨んできた。


「花宮にだったら、殺されてもいいよ。

…でも花宮は優しいから、本当に殺したりはしないでしょ?」


優しい、と言う言葉に、花宮は動揺を隠せないようだ。
怯えている。


「…お前は俺を買い被り過ぎだ。

俺はお前を殺せる」


じゃあ殺せば、なんてことは言わなかった。
きっと今なら、殺せちゃう。
花宮は今、優しさに怯えているから。


「何だよ、もっと恐がれよ。
怯えろよ。

お前は殺されるかも知れねぇんだぜ?」


怯えてくれ、と、すがるような目を向けられた。
きっと彼は、悪い人になりたがっている。
怯えて欲しがっている。


「恐くないよ。

私は、貴方が好きだから」


殺されても構わないくらい、好きだから。

そう告げると、花宮は泣き出した。









悪者になりたい、残酷なヒーロー









(お前は残酷だよ)

(俺を悪者にしてくれない)

(…俺は、優しくなんてないのに)

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