戦勇(雪飴)
□高熱編
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二人で旅を始めて一ヶ月。
「……戦士!?」
戦士が突然、倒れた。
高熱編
倒れる戦士を抱き起こし、額に手を触れる。熱い。物凄い熱だ。
38度…いや、39度程はあるだろうか。
「…なんでこんなになるまで言わなかった」
「えーと…勇者さんに迷惑かけたくなくて…」
「…いつからだ」
「えっと…三日前、ほどから、かな…」
「…そんな前からかよ」
「はは…ごめんね。勝手に着いてきた癖にこんなになっちゃって…」
いつもはバカみたいな戦士の笑顔は、この時は力なかった。こんな時にまで無理して笑うな。
笑うことにも辛そうな戦士にオレは苛立つ。なんで、どうして。
…いや、戦士にだけではない。自分自身にもだ。
なんでここまでなるまで自分は気づかなかったのか。気づいてやれなかったのか。
それが無性に、腹が立つ。
とりあえず、何処かに移動することにしよう。
辺りを探査魔法で探る。ここより500mほど離れた所に良さそうな洞窟がある。魔物も生息していなさそうだ。
歩くこともままならない戦士を担ぐと(戦士は重いから、と嫌がったが)、魔物に遭遇しないような道を歩く。
戦士の体は服の上からでも分かるくらいに、熱かった。
荒い息遣いが熱の辛さを語っている。
戦士は途中で気を失ったようだった。力が抜け、肩や背にかかる負担が増える。
見た目に反し筋肉は結構ついているようで、思っていた以上にウェイトがあった。
洞窟に着いて、すぐに火を炊いて戦士を寝かせた。
体調は悪化しているようで、戦士は苦しそうに顔を歪めていた。
少しでも楽になるよう、と思って回復魔法をかけてやる。
熱は下がらなかったが、体調は少しよくなったようで、オレはほっと息をついた。
周りに魔物はいなさそうだ。
だが、熱でコントロールが余りうまく出来ていないのか、戦士の体から魔力が少し漏れているため、その魔力に惹かれた魔物が寄ってくるかもしれない。
油断は出来なかった。
「……、……す……」
ポツリと戦士が何かを呟いた。
声が小さく何と言っているのかがよくわからない。
ただただ、譫言を呟き続けている。
その顔は何処か切なそうで。
何か要求しているのかもしれない、とオレは思い、戦士の口元に耳を近づけた。
だが、オレはその行動を後悔することになる。
「……ロ、ス………ロス……」
その声は誰かを求めるような声で。縋るような声で。
その誰かはすぐに分かった。
ーロス。
そういえば戦士は自分のことをロスと名乗っていたな、と思い出す。
自分の偽名として使う程、戦士はそのロスのことを…好いている。
「…誰だよ、ロスって…」
なら、なんでその好きなやつの側にいないで、オレなんかの側にいるんだよ。
…もう、オレはこいつの側にいない方がいいかもしれない。
こいつの熱が引いたら、オレは…
そう考えてると、戦士はオレのマントの裾をぎゅ、と握りしめてきた。
「もう…どこ、にも…いかないで…」
一人は、寂しいから…。
戦士は、そう呟いた。
・・・・
・・・
・・
・
「ほんっとうごめん!勇者さん」
次の日には戦士の体調は良くなり、オレに土下座して謝っていた。
「許さん」
「ごめんってばぁ〜。もう、なんでも一つ言うこと聞くから許して!!」
「…本当になんでも、か?」
「…うん」
なんでも、と言われると今のオレには一つしか思い浮かばなかった。
「魔王を倒す、その日が来るまでずっとオレの傍にいろ」
「…え?」
「なんでもいいんだろ?だから、オレの傍に居てくれ」
絶対にお前を、お前を一人にしたロスなんて奴になんか、渡してやらない。
そういう気持ちをこめて戦士の目を真っ直ぐ見つめた。
「…ぷ!あはははは!!」
「…なんだ」
戦士は堪え切れなくなったように笑い出した。
「もう、勇者さんはバカだなぁ」
くすくすと笑ながら立ち上がった戦士の顔は、とても優しかった。
「ボクが勝手についてきたのに、ボクからお前の傍を離れる訳ないだろ?」
そう笑う戦士に何故か耐え切れなくなったオレは、戦士の腕を引っ張り、自分の腕に閉じ込めた。