戦勇(雪飴)

□Dreamer
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Dreamer



毎日夢を見る。
ただの夢ではない。村が作られ、燃やされ、絶望したような顔のクレアシオンが…ロスがくる。そんなことが繰り返す夢だ。
この夢を見るようになったのは魔王ルキメデスとの戦いが終わり、牢に入れられてからだ。
正確には、ルキメデスの魔力ツクール君を体内に入れられてからだ。

「どうだい?気分のほうは」

ふと声が聞こえそちらを向くと、そこにはルキメデスの、クレアの姿をしたロスの父がいた。これは、初めてのことだ。
「…最悪です」
「ははっだろうねぇ」
オレもだもん。そう言うルキメデスの表情はにやにやと笑っていて読めない。
これがロスの父親、と思うとなんとも信じられない。
「どうしてこんな夢を見るか。聞きたいような顔だねぇ」
「……まあ。どちらかというと何故貴方がここにいるかってことが知りたいですけど」
「まあ、両方教えてあげるよ。これはオレの記憶だよ。その中でもこのツクール君に残るくらい、強い負の感情を残した、ね」
「………」
「ツクール君はより強い負の感情に反応し、魔力をつくる。その際に時々、その残留思念みたいのが残っちゃうみたいなんだよね」
「じゃあ、貴方も…」
「そう。その負の感情の残留思念が実態したようなものだよ」
道理でロスとは違うと思った。これはルキメデスの魂ではなく、負の感情という別のものだからか。ロスが持たなかった、違う感情。
ルキメデスはゆっくりと歩き、燃えている村のすぐ前で止まり、こちらを振り向いた。
「君はこの情景をみて、最悪だと思った。それは負の感情としてツクール君の魔力と変わる。オレの時はこうやって村を作り壊すことで魔力の増加は上手く調節できた。でも君は、今のままじゃその魔力を発散することは出来ない」
「…何がいいたいんですか」
「ということは、その魔力は使われることなく君の中で溜まっていく一方なんだ」
「だから、何が…」
「人間の体は最初は魔力になんて適応していない。それなのに通常は相容れない筈の力が体内にどんどん、どんどんと望んでもないのに増えていく。すると、体はどうなる?」
相容れないその力に体は、その力を…。
そう考え、ボクの頭に一つの、最悪の考えが浮かんだ。
「ま、さか…」
「そう、そのまさかだよ。体はその力を追い出そうと、無くそうとする。つまり拒絶反応だ。でも魔力は強さを増すに対し、体は弱る。そして…」
「死に、いたる……」
「いや、それは違うかなぁ」
クスクスと笑うルキメデス。その顔は何より楽しそうで…何よりも残酷だった。
「まあ、結果はその時のお楽しみってことで。いやあ、楽しみだねえ」
「おい、ルキメデス!」
「まあ、これからよろしく頼むよ〜、新時代の勇者のアルバくん」

その言葉を最後にボクは目を覚ました。
相変わらずのお札だらけの牢に、一つ、ため息をもらす。その時、体の中の何かが疼いた気がした。



それから魔界に移ることになり、ロスが家庭教師になり、新魔王が誕生し、平穏が訪れることを、この夢が魔力の制御を完璧にしても続くことを、この時のボクはまだ知らない。

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