EXO

□雨は刃に
1ページ/2ページ

.




チチチ...



雀の囀りに重い瞼を開ける。



あぁ…昨日何時に寝たかな…。


けだるい体を起こして、いつもと違う光景に一瞬戸惑ったのだけれど

そうだ、俺、実家に帰ってたんだ。



久しぶりに仕事が休みになって、そう…あの人に会いに。




まずは顔を洗って服を着替えよう。



仕事疲れで体は相変わらず重いままだったけど、ゆっくりと準備をして
朝ごはんを食べる為に一階のリビングへ下りた。



…何やらリビングが騒がしい。


きゃっきゃっと聞こえるリビングの扉を開けると…案の定、妹と母が仲良く女子トークをしていた。



母「あら、イーシン、おはよう」

妹「お兄ちゃん、起きるの遅いよー!」



楽しそうに笑う二人に、こちらも和やかな笑みを返して


「仕事疲れで爆睡してたー、おはよう」


と挨拶して。



母「よく眠れた?久しぶりの休みだったものね、朝ごはんはトーストでいいかしら?」

「うん、ありがとう。…父さんは仕事?」

妹「違う違う、会社の友達と釣りだって」

母「久しぶりだから家族で出かけたかったんだけど…今日はダメね」



トーストにジャムを塗って頬張る。



妹「私午後から友達と映画行くの。お兄ちゃんはどうする?」



妹の問いに、トーストをかじりながら考えた。


そう…だな。


俺はあの為に来たんだ。



彼女に会うために帰ってきたから…会いに、行かなきゃ。





「…名無しさんに会いに行く」




俺がそう言った途端、二人の動きが一瞬止まった。



けれど、強張っていた妹の顔は、すぐに悲しそうな笑みに変わり


妹「…そっか、やっぱりその為に帰ってきたんだ」


母「花束、買っていきなさいね。…(名前)のご両親にも、ちゃんと挨拶するのよ」


母も、キッチンからそう声をかけてくれるんだ。



「うん…ごめんね」


俺は、ぎこちない笑みしか返せなかった。



母「暖かくして出かけなさいね!」



玄関先で母に声をかけられ振り返ると、高校時代に愛用していたマフラーを被せられる。



母「…はい、行ってらっしゃい。…ねぇ、イーシン、貴方が負い目を感じる事はないんだからね」



知ってるよ、わかってる。



けれど、俺は行かなきゃいけないんだ。



「行ってきます」



俺は母に笑みだけ返して、家を出た。





.


.


.


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ