小説

□ティファ
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例えば、死んだのがエアリスじゃなくて、他の人だったら。

バレットだったら?シドだったら?








ううん、私だったら?















クラウドは今と同じように、心に重い重い、何かを抱え込んでいただろうか。






確かに悲しんだだろう。何でも一人で抱え込みやすいから、責任も人一倍感じただろう。後悔もしただろう。


だけど、こんなに………。











ティファはクラウドをじっと見つめた。














「そんなに心配しなくても大丈夫だ。俺にはみんながいる。後ろばかり見てるわけじゃないさ」





心配そうなティファにクラウドはそう言った。






エアリスの死を乗り越える、というのは難しい話だったが、クラウドは自分の中である程度折り合いをつけたつもりだった。


エアリスの死を悲しんでいる場合ではない。
彼女の願いを代わりに叶える。
星に届ける。それが残された自分たちの使命だと思うことで悲しみを心の奥にしまいこむことができた、と思っていた。











しかしクラウドは詰めが甘いようだった。

言葉の端々に、仕草の、表情の端々に、悲しみが時折宿るのだ。






そしてそれを見逃さなかったのがティファだった。






クラウドはティファにまた心配をかけていることに気付き申し訳なくなった。


ミッドガルで再会したあの日から、ティファにはたくさんの心配をさせた。

ザックスの記憶と自分の理想を組み合わせたちぐはぐな思い出と人格を持ったクラウドをティファは問い詰めるでもなく、誰に相談するでもなく、ただ一人で見守り、背負ってくれていた。






それだけでなくセフィロスの言葉に惑わされ、そのちぐはぐな人格さえも保てずに廃人同様の状態から本当のクラウドに戻れたのもティファの助けがあってのことだ。











−−−−もうティファに心配はかけない。次は俺がティファを守る番だ。









そう、密かに自分に誓っていたはずなのにティファは何度でもクラウドの悲しみに気付き、苦しみをいたわり、傷を癒そうとしてくれる。

「ありがとう、ティファ」


クラウドは思わずお礼を言った。
今励ましてくれたことだけではなく、再会してから今までティファがしてくれたことの全てに向けて、クラウドは改めて感謝した。
そのことを知ってか知らずか、しかし何もかも悟ったような顔でティファはどういたしまして、と微笑んだ。

−−−エアリスに嫉妬してる場合じゃない、エアリスがいなくなった分までクラウドの力にならなくちゃ。ううん、力になりたい。エアリスにはなれないけど、私なりのやり方があるはずよね。



星を救う、という大きなことをしようとしている彼らは勇者ではない。英雄でもなければ賢者でもない。ただの人間なのだ。
共に支え合い、ときには喧嘩したりぶつかったりもする。憎しみに飲まれたり、仲間の死に絶望し、ときには復讐心に駆られ罪も犯してしまう。
そんな弱い心を持つただの人間なのだ。だからこそ、支え合う必要がある。信じ合う必要がある。
決して一人では実現不可能なことを彼らはしようとしているのだ。



そのとき、飛空挺内につながる扉が勢いよく開いた。

「いねぇと思ったら二人ともこんなところにいたのか!」

声の主はバレットだ。

「この先気流が不安定でかなり揺れるらしい。危ねえから中にいろってシドから伝言だ」

邪魔して悪かったな!とバレットなりの気遣いらしい台詞を残して彼はさっさと戻って行った。

「戻ろうか、クラウド」

ティファはそう言ってクラウドの肩を軽く叩くて歩き出した。
船酔い防止のために甲板に出たというのにこれでは元も子もないと内心ため息をつきながらクラウドもティファに続いて歩き出す。

中へ続く扉を開けると同じ伝言をユフィにも伝えたらしいバレットと文句を叫び散らかすユフィとのうるさい口論が響き渡っていた。
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