小説

□もしも世界が平和だったら
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バレットとレッドXVは揃って今晩の宿の部屋に入った。

「オイラたち、もしかして二人部屋になるの初めてじゃないかな?」



部屋に入るなりレッドXVがそう言う。

バレットは疲れていた(今日はモンスターとの激しい闘いがあった)ので正直それどころではなかったが、思い返してみると確かに初めてのような気がした。



バレットはこの旅のきっかけのような人物なのでもちろん最初から参加しているし、レッドXVも神羅ビルで既に仲間になっている。
二人ともいわゆる初期メンバーと言ってよかった。
あのとき五人だったパーティーが今や九人にまで増え、ミッドガルを旅立ってから随分世界を巡った。
もちろん色んな街でたくさんの宿に泊まったが二人きりになるのはとても久しぶりだった。





「まあ、俺らも随分大所帯になったからなぁ。誰かと二人っきりって状況自体、かなり減ってきたよな」




そう言ってバレットはベッドに転がり込むようにして寝転んだ。

レッドXVが「寝ちゃう前にシャワー浴びたら?」と注意した。



「へいへーい」と面倒臭そうに返事してバレットが渋々起き上がる。

風呂場へ向かおうとしたそのとき、バレットがふと振り返った。





「お前と一緒にいると、あのときを思い出すな…」



レッドXVがバレットを見上げると、その言葉と共に思いっきり眉をしかめている。
あまり良い場面ではないらしいことぐらい容易に想像がついた。









「もしかして、神羅ビルの牢獄…?」





レッドXVが弱々しく聞くとバレットは大きく頷いた。よく分かったじゃねえかとバレットは呟く。



神羅ビルにエアリスを助けるべく乗り込んだバレット、ティファ、そしてクラウド。


エアリスと共に実験サンプルとして捕らえられていたレッドXVも結果的に同時に救ったことになったが、それも束の間、結局五人とも捕まり牢獄に入れられたのだ。



そのとき、確かにこの二人は同じ部屋だった。










「オイラで連想するのが神羅ビルなんてやめてよ!」


「仕方ねえだろ!あのときお前と同じ部屋に入れられたんだからよ!全く、あの場所にはロクな思い出がねえな…」




それもそのはずだった。神羅ビルは敵の総本山。
エアリスを助けるだけでも大変だったのに社長のプレジデント神羅の死を目の当たりにし、生意気な若社長にも会い、しまいにはトラックとバイクでビルから飛び出したのだ。





レッドXVは実験サンプルにされるところだったのできっと自分以上に嫌な場所だろうとバレットは思った。





「でもさ、バレット、神羅ビルがなかったら、オイラたちきっと今こうして一緒にいなかったんだよね」


急に何を言い始めるのかとバレットは片眉を上げる。





「あのときオイラが神羅に捕まってなかったら、エアリスが捕まってなかったら、神羅ビルなんて無かったら、ううん、そもそも神羅なんてなかったら…。オイラたちだけじゃない。神羅がなかったら、誰も出会ってないんだ。せいぜい幼馴染のクラウドとティファだけだ。お互い、顔も名前も知らないまま生きてたんだよね」





確かに、とバレットは頷いた。





「だけどよ、神羅なんていなかったら世界はもっともっと平和だったんだぜ!星の命が枯れていくこともなかった!絶対許せねえ!」




そうだけど、とレッドXVは呟く。



「もし、世界が平和だったら、バレットはどんな生活してた?」







「そりゃあ、コレルでずっと炭鉱夫やってただろうよ。神羅がいなけりゃ魔晄もねえしな。コレルが焼かれることもなかった。女房のミーナも、親友のダインも、コレルの他の連中も死ぬことなく、平和に暮らしてたはずだ」






お前はどうだ?とバレットが聞く。





「オイラも、ずっとコスモキャニオンにいたと思う。オイラは寿命が長いから、もしかしたら今みたいに旅をする時期があったかもしれないけど、こんな風にたくさんの仲間とすることはなかったんじゃないかな」




やっぱり神羅なんてなければよかったんだ、とレッドXVは思った。


オイラは神羅に攫われて、実験サンプルにされそうになった。

確かにそんなことした神羅が憎いし、許せない。



だけど結局クラウドたちが助けてくれたし、コスモキャニオンにも帰ることができた。

じっちゃんや谷のみんなにも再会できたし、何も失ってない。






だから、クラウドたちに出会えて良かったと思える。何も失ってないから。








でも、バレットは違う。







奥さんも、親友も、故郷も、片腕も失った。
オイラより遥かにたくさんのものを神羅から奪われた。



バレットにとっては、オイラたちと出会うことより、コレルの人たちと過ごすことの方がよっぽど幸せだったはずだ。






「そうだよね、やっぱり、神羅なんていない方がよかったんだよね…」





レッドXVが項垂れた。
するとバレットがフォローするかのように「でもよ」と発した。











「神羅がいなかったら、マリンは俺の娘にはならなかった」





レッドXVが顔を上げる。









「マリンはダインの娘だ。神羅がいなかったら勿論マリンを俺が引き取ることはなかった。アバランチを結成することもなかった。ビックス、ウェッジ、ジェシーにも出会えなかった」





そしてもちろん、とバレットが続ける。








「お前らとも出会えなかった」







レッドXVが何度も頷いた。
尾が嬉しそうに揺れているのは多分無意識だろう。



「皮肉だよな。神羅に大事なモンを奪われて、そして同じくらい大事なモンを貰った。まぁ向こうにそんなつもりはないんだろうがな…」




レッドXVは何と答えたらいいか分からなかった。
何が正解なのか分からなかった。
みんな、何かを失って今ここにいるんだと思った。





「だが神羅を許す訳にはいかねぇ! 俺らが今こうしてるのは神羅やセフィロスを倒すために星が導いてくれてるんだ! そう思わねぇか!? 星を救う、大切なものを守る、それが俺たちの宿命だ!」




「うん、そうだね、そうだよね!」






意気込むバレットにそう答えてはみたものの、レッドXVは、そんなことができるだろうかと思ってしまった。


ブーゲンハーゲンの言う通り、神羅やセフィロスを倒したところで星の命は少し伸びるだけ。


そう、形あるものはいずれ滅びる。




しかし星の行く末を見届けるため、レッドXVはこの旅に同行していた。


もちろん、星の命が伸びるなら協力したいとは思うし、星の命が伸びればいいなとも思う。









しかしレッドXVは、みんなの為に戦おうと思った。


故郷を奪われたクラウドたち。
望まぬ実験をされたヴィンセント。
故郷が戦場にされたユフィ。
夢を壊されたシド。



そして自分たちのために戦ってくれた両親のために。







オイラたちの乗った列車は、途中下車できないんだ!







バレットの話を聞いて、心を新たにした。













「あ〜!話したら疲れたぜ!おい、レッドがベラベラ話出すからいけねえんだぞ!責任とって、明日の朝起こせ!シャワーは明日の朝だ!俺は寝る!」








そんなのひどいよ!とレッドXVが言い返そうとしたときには既にバレットはベッドでイビキをかきはじめていた。

恐るべき寝つきの良さだ。








「オイラ、みんなの為に頑張るよ。じっちゃん」






レッドXVはそう呟いて、丸くなって眠りについた。

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