小説
□ティファ
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次の目的地の街まで大分かかりそうだ、とシドが零した。
それを聞いてクラウドは珍しくハイウィンドの甲板に出た。
乗り物酔い防止だ。
一人でぼんやりと流れる景色を見つめていると、「クラウド」と聞き慣れた柔い声が自分を呼ぶのが聞こえた。
振り向くと案の定ティファがいた。
クラウドの横に並ぶ。
「珍しいね、ここに来るなんて」
風でティファの綺麗な髪がなびく。
ユフィの二の舞になったら困るからな、という言葉をクラウドは飲み込んだ。
「あと一時間くらいで着くらしいわ。ここに来る途中ユフィにも言ったら、すごい顔されたの。飛空挺はうんざりだよーって叫ばれちゃった」
ティファはクスクスと笑ながら話す。
クラウドは「そうか」と短く答えたがユフィと全く同じ気持ちだった。
「風、気持ちいいー!」
ティファはそう言いながら思い切り腕を伸ばした。
クラウドが彼女の方を見ると、不意に目が合った。
「クラウド、たまーーに、そういう顔する」
「いつもこの顔のつもりだが?」
「違うわよ、たまにね、ほんと、ふとしたとき、悔しそうな、悲しそうな顔してるの。自分で気付いてないでしょ?」
急にそんなこと言われても分からない、といった顔でクラウドは首を傾げた。
「何考えてたか、当ててあげよっか」
ティファがページをめくるような間を置く。
「エアリスのことでしょ?」
大当たりであった。
クラウドは気持ち良さそうにするティファを見て、いつか飛空挺に乗りたいと言っていたエアリスの顔がよぎっていた。
顔で図星なのだと悟ったティファが悲しそうに微笑む。
「クラウド、エアリスの話するときいつもその顔するの。だから、その顔したときは、エアリスのこと思い出してるんだろうなって。当たりでしょ?」
「ティファには何でもお見通しだな。俺より俺のことを分かっているかもしれない」
「本当にそうだったりして」
またティファがクスクス笑う。
でもさっきより断然今の表情の方が悲しみの色が強いことをクラウドは察していた。
少しの沈黙が二人を包む。
目の前の景色だけが淡々と流れていく。
「ねえ、クラウド」
風に遊ばれた髪を耳にかけながら、ティファがもう一度口を開いた。
その仕草をクラウドは横目で見ていた。
綺麗だ、なんて少し思った。
「何だ?」
「クラウドのせいだけじゃないんだよ」
その言葉だけで、ティファが何を言いたいのかクラウドはよく分かった。
エアリスの死。
明るくてパーティーの仲間を包み込むような優しさを持ったエアリスは、常に仲間たちの中心にいた。
その彼女がいなくなったこと、もう生きていないこと、もう共に笑いあえないこと。
それは確実に仲間たちに暗い影を落とす出来事となった。
誰もが彼女を救えなかったことを悔い、彼女の死を受け止めきれず、悲しみに暮れた。
そして、それを一番重く受け止めたのがクラウドだった。
その瞬間、一番近くにいたことや、一度自分の意思ではないにしろ彼女に刃を向けたことも一因にある。
だがそれだけだろうか、とティファは思う。