小説
□孤独の決意
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目の前のクラウドが何をしているのか、ティファには理解できなかった。
エアリスに覆い被さり、拳を振るうクラウドが、殴られるエアリスが、目の前のこの光景が現実だと受け入れるのはとても辛いことだった。理解できないのではない、したくないのだ。
無我夢中で二人に駆け寄り、クラウドを止める。クラウド!と発した自分の声は笑ってしまうくらい震えていた。
クラウドは不明瞭な呻き声を出しながら倒れた。不安が増殖する。ずっと感じていた違和感。目の前で倒れているこの人は、私の幼馴染のクラウドのはずなのに、心のどこかでそれを否定しようとする思いがよぎる。食い違う記憶。ちぐはぐな発言。
−−ねぇ、あなたはクラウドだよね?
「ティファ?ティファ?しっかりして!大丈夫?」
そう声をかけてくれたのはたった今までクラウドに殴られていたエアリスだった。
何度も声をかけていたらしいエアリスはとても不安そうな顔でティファを見つめる。その顔は殴られた傷があり痛々しい。
私が励まされてどうする、とティファは情けなくなった。動揺している場合ではない。
「ご、ごめんエアリス。エアリスこそ、大丈夫!?今ケアルかけるね、痛いでしょう?じっとしてて」
お礼を言ってエアリスは座り込んだ。ティファはかいふくのマテリアを取り出し、エアリスにケアルをかける。
「心の傷も、魔法で治せたらいいのにね」
エアリスがぽつりと呟く。
「え?」
「ティファの心、ボロボロ、だよ」
あぁ、この人は。とティファは思う。
エアリスはいつだってそうだ。
仲間の心を汲み取って、的確に、優しく穏やかに癒してくれる。これは古代種の力ではない、エアリスだけの力だ。
「大丈夫。辛いこと、いっぱい起こるかもしれないけど、クラウド、きっと戻ってくるよ。一緒にがんばろ、ね?」
エアリスの優しい微笑みにティファは思わず涙が出そうになる。この人がいてくれてよかったと心から思う。彼女らは、恋のライバルであり、仲間であり、親友でもある。
「ありがとう、エアリス」
魔法である程度エアリスの傷が回復したところでティファは魔法をやめた。完全には治っていないが、あとは自然治癒に任せるしかなさそうだ。それでもほとんど傷は目立たなくなった。
「ありがとう、もう痛くないよ」
エアリスはそう言って立ち上がる。
二人いるとは言え、女性だけでクラウドを運ぶには無理がありそうで二人は顔を見合わせた。クラウドは依然苦しそうな顔をしていて目を背けたくなる。
「おーい、エアリスさん、ティファさーん!皆さん呼んできましたでー!」
そこに仲間たちが駆けつけてきた。どうやらケット・シーが全員呼んできたようだった。真新しい2号機になったボディで懸命にこちらに手を振っている。
エアリスもティファもほっと肩を撫で下ろしたが、クラウドの姿を見て他の全員は驚愕した。
「クラウド、どうしちまったんだよ……!?」
真っ先に声をあげたのはシドだ。
「とにかくここを離れた方がいいと思うの。クラウドをどこかに運び出さないと」
ティファが言うとバレットがクラウドを背負った。
「ここで話しても仕方ねえ。とりあえずタイニーブロンコがある所まで戻るぞ!」
全員頷き、一行は神殿を後にした。
タイニーブロンコまで少し距離があったので男性陣が代わる代わるクラウドを背負う。
その間もクラウドが目を覚ます気配はなく、時折苦しそうな呻き声を出すだけだった。