小説

□孤独の決意
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ユフィ、ヴィンセント、ケット・シーの三人はそれぞれ住人たちへの聞き込みを終え、ゴンガガの入口近くに集合した。夜中に村を出て行く人影を見た、という情報をケット・シーが掴んだだけであとの二人に収穫はなかった。その旨を三人以外のメンバーに報告し、ゴンガガを出た。エアリスが夜中に出たのならば余程のことがない限り彼女に追いつくのは困難だ。三人はレッド]Vが向った方角とは反対側のコレルエリアへと捜索に出た。

「誰からも、連絡来ませんな……。エアリスさん、どこ行ってしもたんやろか」

ゴンガガエリアとコレルエリアの中間で小休憩をとっているとき、ケット・シーがぽつりと言った。どんな些細な手掛かりでも掴めたら必ず全員に報告するよう互いに約束したもののPHSはずっと無言のままだ。

地図で方角を確認していたヴィンセントが無言で立ち上がった。出発する、という合図だ。二人も続いて立ち上がり、後を追う。ヴィンセントの歩幅がいつもより大きく、ユフィは小走りしないとついていけない速さだった。あのヴィンセントが焦っている、とユフィは事の重大さを改めて思い知った。大手裏剣を握る手に力が入る。


「そういえば、ユフィさん昨晩はエアリスさんと二人部屋でしたよね、何か普段と違う様子なかったですか?」

「えっと……何か、いつもと違った」

ユフィはケット・シーの言葉に冷や汗が出た。一番恐れている言葉だった。エアリスが部屋を抜け出したとき、間違いなく自分は同じ部屋で寝ていたのだ。そのとき、もし気付いて目を覚ましていたら、いや、エアリスの様子がおかしいと思ったときに何か声をかけていれば、とユフィなりに責任を感じていた。

「おかしいって、どないな風に?」

「どんなって言われても、うまく言えないけど……。喋ってることとか、やってることがいつものエアリスらしくなかった。元気がないって感じではなかったけど」

「そんなら、何か声かけはりました?」

「ううん、特に詳しく聞こうとはしてない。だって、昨日は色々あって疲れてたし……」

言ってからユフィはしまった、と思った。言い訳がましくなるのは悪い癖だ。ケット・シーの表情が途端に険しくなる。

「せやからって異変に気付いときながら放っておいたんですか!?エアリスさんが出て行ったのに気付かないどころか寝坊までして……」

「うるさいうるさい!神羅のクセに!!」

その言葉にケット・シーは言い返すでもなく黙り込んでしまった。しかしユフィが感じたのは口げんかに勝てた優越感ではなく罪悪感だった。
ケット・シーが神羅のスパイであったことは驚いたし許すつもりはない。しかし彼が悪人ではないことはユフィだって分かっていた。魔晄や金に目がくらんで自分の欲のためにしか動かない神羅の人間とは違うと感じていた。その証拠に古代種の神殿で黒マテリアが入手できたのはセフィロスの手に渡ってしまったとはいえ、偏に彼の協力があってこそのことだった。

二人の間に気まずい沈黙が流れたとき、数歩先を歩いていたヴィンセントがわずかに振り返った。

「下らない言い合いは終わったのか」

今にも溜息をつきそうな声音だった。ユフィはヴィンセントが呆れているのが表情を見なくてもよく分かった。どうせ無駄口は叩くな、とか怒られるんだろうなあ、と身構える。

「エアリスを探し出せば問題ない。だが、お前らが言い争ったところでエアリスは見つからないだろう」

「わーかってるよ!」

ほら、怒られた、と思いつつユフィは前方を歩く赤いマントに向かってこっそり舌を出した。
「昨晩エアリスと共にいたのはユフィだけではない。全員一緒に食事をとったはずだ。少なくとも私はエアリスの異変には気付かなかった。もし気付いたとしても、失踪するとは恐らく予想しなかった」

呆れた表情とため息の次は説教かと思いきや思わぬユフィへのフォローだった。

「誰が何に気付いたか、何をして、しなかったかなど関係ない。今この現状が全てだろう」

ケット・シーが少し申し訳なさそうに小さく頷いた。

「そして、今この現状には、私たちが何者かも関係ないはずだ」

今度はユフィが頷く番だった。今はエアリスを見つけ出すことが全て。誰かが止めていれば、なんて後悔も、探している者のうちにスパイがいるなんてことも、今は問題ではないのだ。

結局この不毛な言い合いには意外にもヴィンセントが終止符を打つこととなった。
ケット・シーが一言ユフィに謝ろうとしたそのとき、PHSの電子音が鳴り響いた。
音を発してるそれはヴィンセントの物のようで素早い仕草で取り出し、耳に当てた。三人の間に緊張感が走る。

『もしもし、ヴィンセント?』

電話の声はティファだ。

「あぁ」

『クラウドが目を覚ましたの。エアリスの居場所を知っているみたい。すぐ戻ってきて』


返答をせずにヴィンセントは通話を切った。
それと同時に身を翻し今辿ってきた道を迷いなく戻り始める。

「え、え?おい!ヴィンセント!電話誰だったのさ!?どこ行くんだよ!?」

ユフィとケット・シーも慌てて後を追うが先程の通話を聞いてない二人はもちろん意味不明だ。

「戻るぞ」

「何でさ!?ちゃんと説明しろ!ヴィンセント!!」

ユフィが子犬のようにギャンギャン騒ぎ出した。

「ユフィさん、あんまり騒がんといて下さい、モンスター寄って来ますよって…」

ケット・シーの忠告も虚しく気付いたときには三人の前に数匹のタッチ・ミーが現れた。

「ユフィにはしばらくカエルになっていてもらった方が問題なく帰れそうだな」

「ボクもヴィンセントさんに賛成です…」

「悪かったって!アタシが倒せばいいんだろ!」

ユフィは大手裏剣にマテリアをセットしつつ飛び出していった。
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