小説
□孤独の決意
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仲間達が必死にエアリスを探している頃、彼女は彼女の故郷であるアイシクルロッジや、発掘現場として有名なボーンビレッジ、そして目的の忘らるる都がある北の大地へと足を降ろしていた。
真っすぐボーンビレッジへと向かうエアリスの意思に迷いはない。
村に入ってみると発掘を楽しんでいる人々で賑わっていた。見たところほとんどがツアー客らしかった。その人々の間を通り抜け、エアリスは一心に村の奥へと進む。
──この先に行くべき場所がある、世界を救う術がある。
エアリスは村の一番奥に森へと続く道を見つけた。やはり間違っていなかった、そう確信して森へと踏み入れようとしたそのときだった。
「ちょっとそこのお姉さん!まさかその森に入る気かい?」
森入口の近くで発掘作業をしていた男性がエアリスに声をかけた。
「その森は眠りの森と呼ばれていてな、ルナハープという楽器がないと抜けられないんだ。悪い事は言わないからやめときな」
眠りの森、その言葉にエアリスは安心した。やはりこの先に忘らるる都が待っているはずだ。
「ありがとう、でも、だいじょぶ。私、この森きっと抜けられるから」
エアリスはそれだけ言うと一礼して眠りの森へと駆け出した。後ろから「待ちなさい!」という声が聞こえたがここで止まっている暇はない。心の中で謝罪してそのまま走り続けた。
その時、エアリスは何やら背後から気配を感じた。振り向くと、そこにいたのは───。
「クラウド………!?」
いるはずのないクラウドだった。いや、クラウドであって、クラウドでない。彼の意識だけが、エアリスの前に立っていた。
「クラウド、わかる?」
「ああ、わかるよ。さっきはすまなかったな」
さっき、きっと古代種の神殿で殴られたことだろう。
──そんなこと、いいのに。クラウド、何も悪くないのに。
「気にしないほうがいいよ」
「……そんなのムリだ」
そう言って彼は静かに首を振った。
「そっか……。じゃ、思いっきり気にしちゃえば?」
そう言ってエアリスは笑ってみせたがクラウドはにこりともしなかった。相当責任を感じているのだろう。そして、恐怖も。
目の前のクラウドに言えること、伝えるべきことをエアリスは一つずつ言葉にしていった。
「セフィロスのこと、私に任せて。そして、クラウドは自分のこと考えて。自分が壊れてしまわないように、ね?」
今、ここでクラウドに言って、伝わっているだろうか、自分の言葉を、クラウドは受け取ってくれるだろうか。
エアリスは不安になる。今この場に立っているクラウドは、本当はゴンガガで色んなことに苦しみながら眠っているはずだから。
不安そうなクラウドの顔が依然そこにあった。
「ここは…どこだ?」
「ここは古代種の都へつづく……眠りの森と呼ばれている」
クラウドの不安が少しでも晴れるなら、動揺を消すことができるなら。
そう思ってエアリスは少しずつ説明する。
「セフィロスがメテオを使うのは時間の問題。だから、それを防ぐの。それはセトラの生き残りのわたしにしかできない」
クラウドの表情は何を言っても変わることなく不安を湛えたままだ。もし、私がセトラじゃなかったら、ずっと側にいたかった。きっと何か、重要な秘密を抱えた彼を。
きっとホーリーを唱えられたら、メテオを止められたら、クラウドだって救われるはず。ザックスに関係ある気がする、彼の秘密、そして、この星の……
「この秘密、この先にあるの。ううん、ある気がする。そう、感じるの。何かに導かれた感じ、するの」
エアリスは一つ頷いて見せた。
──ねえ、クラウド、待ってて。
「じゃ、私、行くね」
──必ず帰って来るよ。
「全部終わったら、また、ね?」
──本当のあなたに、出会いたいから。
「エアリス!?」
クラウドの声が追いかけてくる。
愛しい声が聞こえてくる。
それでも振り返らずにエアリスは眠りの森を駆け抜ける。
また会えるよ、クラウドとも、みんなとも。
エアリスは何度も何度も自分の胸に言い聞かせた。
瞳から流れる涙は気付かない振りをした。
だってまた、会えるから。