小説

□孤独の決意
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タイニーブロンコへと戻る道すがら、エアリスたちは事の顛末を仲間たちに報告した。

「……つまり黒マテリアを手にした途端、セフィロスが現れてクラウドが突然おかしくなり、黒マテリアを渡し、エアリスを殴ったということだな」

訳が分からない、という顔をしたバレットとユフィのためにヴィンセントが簡単に二人の話をまとめた。

「そういうことなの。クラウド、すごく変だった。セフィロスに操られてるみたいに突然…」

「そりゃあ正気で黒マテリア敵に渡したり女を殴る方がどうかしてるぜ」

ティファの言葉を遮ってバレットは言う。その声は幾分いらついている。
黒マテリアがセフィロスの手に渡ったこと、クラウドがおかしくなったこと、自分が何もできなかったこと全てに憤りを感じていた。


「エアリス、大丈夫?」

レッドXVが心配そうにエアリスを見上げた。
ヴィンセントの背中にいるクラウドが「うぅ…」と苦しそうな声を出した。

「だいじょぶ、ティファがケアルかけてくれたから大体治ったよ。私よりクラウドとティファが心配、だな」


そう言うとエアリスはレッドXVを優しく撫でてありがとう、と笑ってみせた。
撫でられたレッドXVは見た目に似合わない照れた表情をする。



神殿の周りの森を抜け、見通しのいい平地に出た。一行は少し先に広がる海に目をやった。タイニーブロンコは目前だ。



「で、これからどうすんの?クラウドがこれじゃあ、セフィロスも追えないじゃん」

タイニーブロンコに到着するなりそれまでだんまりだったユフィがようやく口を開いた。

「とりあえずクラウドさん休ませましょ、この状態で色々連れて回るのは無理や。多分ゴンガガ村なら海渡ってすぐやさかい、そこに行きませんか?」

ケット・シーの提案でゴンガガに向かうことになった。
タイニーブロンコに全員が乗り込み、出発した。


遠ざかる神殿の跡地をエアリスは複雑な思いで見つめた。

−−−何とかできるのは、私だけ、だよね。




「おい、姉ちゃん、あんまり浮かない顔すんな。思い詰めたって仕方ねえってこった」


シドの言葉にエアリスはそれもそうだと思って頷いた。自分にできることをするだけだ。




古代種の神殿からゴンガガ近くの海岸まではケット・シーの言った通り思ったより近距離だった。
また男性陣が代わる代わるクラウドを背負ってゴンガガを目指す。



「ゴンガガ行くの、久しぶり、だね」

不意にエアリスがティファに話しかけた。
以前ゴンガガを訪れたとき、クラウド、エアリス、ティファはたまたまザックスの実家を訪れた。

ザックス、という久しぶりに聞く名前にティファは五年前の事件を思い出した。
そう、あのときセフィロスとニブルヘイムにやってきた、黒髪の、明るく陽気なソルジャー。
ティファはザックス本人は嫌いだとは思わなかった。
人懐っこい人柄で初対面のティファにも何かと話しかけてくれた覚えがある。

しかし故郷を奪った神羅の人間。何の恨みもないかと聞かれれば容易くイエスとは言えない。

だがティファが驚いたのはザックスの実家に訪れてしまったことではなく、エアリスもザックスを知っている素振りを見せたこと、そして何よりクラウドがザックスを知らないとはっきり名言したことだった。

ソルジャークラス1stという役職はそうそう誰でもなれるものではない。
しかもクラウドもザックスと同じソルジャークラス1stであったと言われれば、同僚にあたるはずだ。名前すら知らないというのはおかしな話である。
しかしそれだけならまだしも、カームで語ったクラウドの過去はティファの記憶の中ではザックスの過去だった。
ニブルヘイムにセフィロスと共に来たソルジャー。ニブル山に共に登り、魔晄炉に入って行ったソルジャー。それはティファの中では確実にザックスであり、あの五年前の事件の中にクラウドは存在していなかった。

そのため、ティファはクラウドから感じる違和感はザックスと何らかの関係があると踏んでいた。だからこそ、できるだけクラウドにザックスという存在を近づけたくなかった。だが、この緊急事態ではそうも言っていられない。


「ねえ、ティファもザックスの知り合い、なの?」

エアリスが意味深な表情でティファを見る。

「ティファも……ってことは、エアリスもなの?」

ずるいとは思ったがティファは質問で返した。クラウドにはザックスなんて知らないと咄嗟に嘘をついたが、エアリスになら相談してみてもいいような気がしていた。しかし、言葉にしたら不安が現実になりそうで、勇気が出ない。

「うん、ちょっと、ね。初恋の人……ってやつ、かな」

ティファは随分驚いた。まさかこんなところで繋がりがあるとは。
しかしエアリスの心が今はクラウドに向いていることはティファにも何となくわかっていた。だからこそ「初恋」と表現したのだろう。

「今、ザックスはどうしてるの?」

ティファが聞くとエアリスは悲しそうに微笑んで首を振った。

「女の子が好きな奴だったの。きっと私のことなんて忘れて色んな子と遊んでるはず、だよ。ううん、そうあってほしいって、せめて、そうだったらいいなって私が思ってる、だけかな」

ティファがどういうこと?と聞き返すとエアリスは「みんなと出会う少し前に、ザックスが星に還る感じがしたの」と悲しそうに呟いた。
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